日本にSDGsを広めた立役者が教える、世界を変える極意〈一般社団法人SDGsアントレプレナーズ 青柳仁士さん〉【東京都豊島区】

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SDGsアントレプレナーズは、世界の未来を持続可能にするために、企業や個人にその知恵と方法を提供している一般社団法人です。

国連の広報官や国際協力機構(以下JICA)に在籍し、アフリカの貧困削減やアフガン復興に従事するなど世界中を飛び回った経験を持ち、現在は衆議院議員としても活動する青柳仁士(あおやぎ・ひとし)さんは、その豊富なキャリアを通じて、SDGs(持続可能な開発目標)やサステナビリティの重要性を企業や団体に伝え、それを社会活動と経済活動の両方を最大化するための専門的な知見として提供しています。

世界の貧困が浮き彫りにする資本主義の限界

青柳さんは、過去にJICAの職員として紛争や貧困などが起こっている世界の各地域に住み現地の人たちの支援にあたっていた経験があります。

「多くの子どもが5歳を待たずに亡くなってしまう。世界では貧困による栄養不足で命を落としてしまう子どもが年間何百万人もいるんです」

当時、目の前の人たちを救うことに夢中で取り組み、大きなお金も動かしながら支援に当たっていた青柳さん。ここで使われているお金は税金によってオペレーションされているもので、その当時は5000億円から最大1兆円ほどで運用されていましたが、その予算規模ではすべての子ども達は救えないと思うようになりました。

「現在の資本主義の仕組みだと必ず貧しい人が出てしまう。私はそういう実態を知り、それを変え得る立場にある人間として、資本主義の根本を変える責任があると感じました」

資本主義の根本を変えていくために、「企業がより成長し社会活動と経済活動の両方を最大化していけるようなビジネス、そういうマーケットを作る必要がある」と、青柳さんは言います。

資本主義変革の鍵となるマーケットの構築

「JICAの年間の事業予算は約5,000億円規模。それは貧困の子どもたちを救うには全く足りない金額です。一方、日本のある上場企業の売上は年間約10兆円、そのほかの商社も8兆円近くにのぼります。資金や人材、技術やイノベーションのリソースを持つ海外の大企業の売上はその10倍100倍にものぼり、それは世界に約45,000社あります」

青柳さんは、世界を変えるために奔走している人たちを海のマグロに、大きな資本を持つ大企業をクジラに例えてこう話します。

「体の小さなマグロがいくら奔走しても海の中は変わらない。自分の収益を上げる事にしか目が向いていない何万頭もの巨大なクジラたちを何とか変えていかなければならない」

いかに企業が行動を起こすようになるか、そういう仕組みを作るマーケットメカニズムを作るしかないという考えに至りました。

「そのころ国連事務総長だったコフィー・アナン氏が、『世界の半分のお金を動かすお金持ちは50人といわれている。私はそのうちのほとんどの人に実際に会ったことがあるので、その50人を説得し、持っている財産に対して、環境・社会問題・企業統治をより良くするために投資(ESG投資)するという誓約書を書いてもらうことで、世界の半分のお金を動かせるのではないか』と提唱しました。それはのちに「PRI」とよばれる金融業界や機関投資家に対して提唱した責任投資原則ですが、それにより企業は、環境や社会問題や企業統治に配慮すればするほど、より多く投資をしてもらえるようになる。まさに自分も企業に対して同じようにアプローチをかける方法を考えている時にその話を聞いたんです」

青柳さんは、成長を目指す企業にアプローチするための「その仕組みを市場のメカニズムに組み込む」という具体的な道筋が見えてきました。

SDGsの背後にいたキーパーソンだからこそできる変革

2015年9月、国連サミットで採択された国際目標「SDGs」。

それはコフィー・アナン氏が06年に提唱した、ESGを投資プロセスに組み入れるPRI(責任投資原則)とも深い関係があります。企業が経済活動を行う際にESGを重視することは、結果的にSDGsの目標達成に貢献します。ESGはSDGsを達成するための手段であり、SDGsは世界共通のゴールです。

海外で長期にわたり活動していた青柳さんは、16年に日本へ戻ると、国連開発計画(UNDP)駐日事務所の広報官になりました。SHIP(持続可能な開発目標の達成をビジネスで目指すプログラム)を立ち上げ、日本の政府機関や民間企業、教育機関、メディア、そして市民社会に向けて、SDGsの初期普及の責任者としてその取り組みを推進しました。

それまでに世界の約50カ国においてその状況を見てきた青柳さんだからこそ、SDGsは脱炭素だけではなく、社会、経済、環境のあらゆる面で世界を持続可能に導く信条だと理解しています。

そのうえで青柳さんは、SDGsをマーケットのメカニズムに組み込むという変革を始動しました。

「まずは社会活動と経済活動の両方を最大化するムーブメントを起こしたかったんです。SDGsをクジラを大きくするための起爆剤に使ってやろうと、とにかくあらゆることに着手しました」

実はそれを作るための仕組みはSDGsでなくてもよかったと青柳さん。

「細かい定義はどうでも良くて、まずは社会的なムーブメントを起こすのが重要だったんです。私自身が国連でSDGsの広報官を担当していたこともあり、あらゆる決裁をしやすかったのでSDGsの仕組みを採用した経緯があります。最近『SDGsを始めたのは私だ!』などと知らない人が言っているのを聞くことがありますが、それも私にとってはムーブメントが起きている証拠だと認識して大歓迎しています(笑)」

表面的な思考から脱却し資本主義の根本を変える

SDGsアントレプレナーズは、単なるコンサルティングではなく、社会と企業の未来を革新するためのパートナーだと青柳さんは位置付けています。

「今はマーケットで評価されていないことでも、社会価値と経済価値の両方を結び付けるポイントを一緒に認識しそれをどう収益につなげていけるか、私との会話の中で会社の価値を再発見できたと喜んでもらうことが多いです。また、大企業では製造ラインやコスト構造への意識が低いところが多い。自分たちの仕事がどういう社会的な意義があるのかという価値を具体的に伝えるだけで自然とコストダウンにつながり、やる気にもつながります」

「SDGsを使って企業が大きく収益を上げるためにはどのようにすればよいのか、それを企業に具体的に教えることができるのは私にしかできないことだ」と青柳さんは話します。

現在SDGsへの認知が世界的に進んでいますが、「本質的な意味を理解せずに、言葉だけが独り歩きし、適切な行動ができる企業や団体はほとんどない」と青柳さんは話します。青柳さんは、世界中の先進企業から得た事例を活用しつつ実践知を提供し、企業や団体とともに革新的な解決策を生み出す支援をしています。

また、さらにそれを細分化し、研修やコンサルティング、Eラーニングを通じて、企業や団体のサステナビリティに関する知識を深めると同時に、次の具体的な一歩をともに進める体制を整えています。

「企業は今後、売上だけではなく社会価値と経済価値を両立し最大化することを目指す必要があります。『売上と社会に提供する価値を合算したもの』が株式市場からもお客様からも評価されるような社会でなければいけない。金もうけだけを目的にする企業が淘汰(とうた)される世界を作らない限り、この世の問題は解決しない」

目の当たりにした世界の貧困も、各地で起きている戦争も元をたどればその仕組みから起きていると話す青柳さん。

「表面的なことばかりを見ている人が多いのが大きな問題だと感じます。次世代の新しい資本主義を築き世界を変えていくためには、まずその表面にとらわれている人々に本質を伝え、根本から変革を進めていく必要があります」

SDGsを誰よりも理解し、SDGsの枠組みを活用しつつ社会と経済の両立をもとに持続可能な未来を築くための新しい資本主義を構築する青柳さんの活動は、既存の社会を変革し切り開く鍵となっていくでしょう。

※写真はすべて一般社団法人SDGsアントレプレナーズ提供

聞き手:丸山夏名美 執筆者:天野崇子

天野崇子

天野崇子

秋田県大仙市

編集部編集記者

第1期ハツレポーター/1968年秋田県生まれ。東京の人と東京で結婚したけれど、秋田が恋しくて夫に泣いて頼んで一緒に秋田に戻って祖父祖母の暮らす家に入って30余年。

ローカリティ!編集部のメンバーとして、みなさんの心のなかのきらりと光る原石をみつけて掘り出し、文章にしていくお手伝いをしています。

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