多くの企業が人事評価に関する課題を抱え、従業員のモチベーション低下や業務効率の停滞に悩んでいます。そうした課題を解決するべく、株式会社あしたのチーム(以下「あしたのチーム」)は、人事制度の構築・見直しからクラウドの導入・運用までをワンストップで提供するサービスを提供し、2008年の創業以来導入実績は4,000社を超えています。
就任時に掲げたビジョン「誰もが “ワクワク” 働ける世界を創る」の思いを胸に、20年11月に代表取締役社長CEOに就任した赤羽博行(あかはね・ひろゆき)さんに、これまでの歩みと、人事評価改革への情熱について伺います。
株式会社あしたのチーム 代表取締役社長CEO 赤羽博行さん
目次
最後はやっぱり『人』。人事評価から生産性向上へ挑むまでの道のり
赤羽さんのキャリアは、大学卒業後、システムエンジニアとしてスタートしました。システム導入を通じて業務の生産性を一定は上げることはできても、解決できない課題もあることを当時感じていたといいます。その後、赤羽さんは「システムを入れる前の、企業全体の仕組みや体制から改善していく必要がある」と考え、コンサルティングファームに転職します。しかしそこでも「コンサルした後はお客さん任せになってしまい、プロジェクトがうまく定着しない」という課題に直面しました。
赤羽さんは、「どうすれば制度が定着し、導入後も継続して企業の成長を支援できるか」を深く考え、「現場で本当に役立つ伴走支援の重要性」に気づいていきました。
一方で、赤羽さんが感じていたのは、企業の中でせっかく優秀な人材がいるにも関わらず、評価される仕組みが整っていないため、彼らがモチベーションを高く保って働けていないことでした。「生産性向上には人の心や意欲が欠かせない。それには評価制度を含めた人事の仕組みが必要」と気づき、「最後はやっぱり『人』なんだ」という結論に至ったそうです。この信念をもとに、人事評価の在り方を根本から変えることに挑むため、あしたのチームに参画しました。
努力するプロセスをも評価するシステムを構築、生産性が自ずと向上
09年、赤羽さんは社外取締役としてあしたのチームに参画。「上司に言われたことをこなすだけでは、社員は生き生きと働けない。自分で目標を持ち、それに向かって成長を実感しながら取り組むことが大切だ」と考えた赤羽さんは、社員が明確な目標を持ち、それに向けて努力するプロセスを評価する仕組みを作り上げます。
「評価制度を導入すると、上司が部下の目標設定やフィードバックに関与せざるを得ないので、上司は部下にきちんと向き合うようになります」と赤羽さんは語ります。こうして、上司と部下が共に目標を立て、成果に対して正当な評価と報酬を受け取ることで、社員のモチベーションや生産性が自然と向上するのです。
評価制度定着のため、クライアントとともに試行錯誤しながら伴走
しかし、制度を導入しただけで成果が得られるわけではありません。赤羽さんは、「評価制度を定着させ、社員が主体的に動くまでを支える伴走支援が必要」と強調します。
あしたのチームでは、クライアント企業とともに試行錯誤しながら制度を作り上げる「伴走支援」を行っており、その効率化のために評価システムをSaaS(Software as a Service)化しました。これにより、企業が自分たちの評価システムを日常業務で使い続け、定着化の過程でもあしたのチーム側がサポートを行えるようになっています。
「例えば、ある企業が評価制度を導入しても、現場がうまく評価基準を理解できず、思ったように機能しないケースもあります。しかし、データを共有し、PDCAサイクルで改善していくことで、『社員が評価制度に合わせてどう動き、どう成長していくか』を私たちも見守れるんです」と赤羽さんは話します。SaaSを活用したシステムでは、従業員の成長過程が記録され、上司や人事部門が手間なく全社員のデータを管理できるため、組織変更があってもスムーズに引き継ぎが可能です。赤羽さんは、評価制度が社員にとって安心して成長できる基盤になることを目指しています。
「ルールを作れば頑張れる」評価を通じて成長を促す仕組みは中小企業に効果的
あしたのチームの人事評価制度は、特に中小企業にとって効果的な仕組みとなっています。日本の多くの中小企業は専任の人事部門がなく、従業員の成長をサポートする人事リテラシーが不足しているのが現状です。そのため、あしたのチームがコンサルタントとして伴走し、評価制度や人事課題全般の相談窓口を提供することで、中小企業が抱える人材課題を包括的に支援しています。
「中小企業は仕組みがない分、効果が出やすいんです。コスト削減し、売り上げを上げても還元されないなら作業ですが、ゲームのルールが変わって、やったら給与が上がりますっていわれた瞬間にやるんです」。赤羽さんは、中小企業の持つ柔軟性と対応力を生かし、より多くの企業が評価制度を通じて成長を実現できるよう尽力しています。
また、個々の従業員の業務内容に基づいてカスタマイズされた「ジョブ型」の評価シートも提供し、「自分はどこを頑張ればいいのか」「成果がどう報酬に結びつくのか」が明確になることで、社員が評価基準を意識して仕事に取り組めるようになるのです。
「日本の企業の生産性が低い理由は、頑張ってもメリットが無いからだと思いますね。ルールを作れば頑張れると思います」と、赤羽さんは語ります。
一人ひとりが全力を発揮できる社会へ
赤羽さんのビジョンは、個々のパフォーマンスを最大化することで組織全体のパフォーマンスを高め、従業員が最大限の力を発揮できる社会を築くことです。「日本全体が抱える労働人口減少の問題に対して、一人ひとりの成長を支援し、最適な職場で働ける仕組みが重要です」と語り、全体の効率を上げるための人事システムの浸透を目指しています。
24年には「キャリアの可能性を照らす」という意味を込めた新たなプロダクト「Cateras(カテラス)」をリリースし、評価システムに加え、個々のキャリア成長を支援するための新機能も開発しました。これにより、従業員が適材適所で活躍し、会社を越えてもキャリアの可能性を広げられる未来を見据えています。
赤羽さんの「人事評価を通じて、働く人々のモチベーションを高め、企業と社会が一体となって成長できる基盤を提供したい」という熱い思いが多くの企業に評価され、あしたのチームはさらなる進化を遂げています。
聞き手: 中野宏一、執筆: 森川淳元