ヘッドスパ専門店、ブライダルエステ、 岩盤ホットヨガスタジオなど複数の美容ブランドを自社で展開しながら同業他社のコンサルも行う株式会社フューチャーブレーン。採用や人材育成にも力を入れており、業界平均50%未満といわれる年間人材定着率94%を実現するなど美容業界に革命を起こし続けています。成長の鍵となった”感動サービス”とは一体何なのか、人材が定着する秘訣はどこにあるのか、代表取締役の佐藤剛(さとう・ごう)さんに伺いました。
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なにより大事なのは感動・感謝。苦しいコロナ禍も乗り越えた”感動サービス”の力
フューチャーブレーンに所属する美容師やエステティシャンは「感動サービスプロデューサー」と呼ばれます。これは技術を提供するだけではなく、心と体両方をケアする”感動サービス”を届けることで、幅広く人をサポートするという意味があります。
「心と体は一対であるので、健康になるには心も整える必要があり、それには感動・感謝が大事になります」と佐藤さん。
「感動サービスプロデューサー」の役割は、お客様に感動することを通じて、自己肯定感を高めてもらうことです。具体的には、接客のなかでしっかりお話を伺います。お客様が今なにを頑張っているか、どのような苦労をされているかを聞き、心から応援します。
「お客様の話を聞くことを、雑談ではなく”感動サービス”の一環として行うのです。創業当初から感動サービス開発を中心に事業を展開してきました。そのおかげか、コロナ禍では三密回避で体に触れることが難しく事業がストップしたにも関わらず、その間も多くのお客様に支えていただきました。心と心のつながりによって苦しい状況も乗り越えることができました」
社会のIT化で生まれた歪みを解決するためにアナログ特化の体に関わる事業で起業し、ヘッドスパで健康寿命を伸ばす
佐藤さんは創業当初から健康寿命を延ばしたいという思いを強く持っていたそうです。創業年にあたる2006年はITが世の中に普及してきた一方で、エンジニアのテクノストレス(パソコンやインターネットにより引き起こされる様々なストレス)が問題視されていました。ディスプレイを長時間眺めることに起因する首・肩こりや眼精疲労、仕事のストレスによるメンタルブレイクなど、ITの発展が人々の心と体を傷つけている側面もあります。そういった社会を緩和するためにあえてアナログに特化しようと、体に関わる事業を始めました。
特にヘッドスパ事業が人気で、ヘッドスパ専門店を日本で初めて立ち上げたそうです。当時、ヘッドスパは美容室がシャンプーのオプションとして取り入れている程度でした。しかし、頭皮のケアは健康にとって大事な要素で、首・肩こりが原因で血栓が生じて脳梗塞や心筋梗塞になることもあるとヘッドケアの重要性を佐藤さんは語ります。
「ヘッドスパを突きつめてみようと考え、専門店をオープンしました。頭だけでなく上半身全体を対象にして、三大体液(血液・リンパ液・脳脊髄液〈のうせきずいえき〉)にアプローチできる施術を行います。心臓周りから頭頂部まで酸素と栄養を行き渡らせるのです。また最近では、男女ともに抜け毛や薄毛の悩みを抱えている方が増えています。そういったお客様にエイジングケアを行って自信を持ってもらえるようにするのがコンセプトです。まずは、なぜ来てくれたのか、どういう気持ちで来てくれたのか話をお伺いするところからスタートします。お客様に気持ちよく話してもらえるように”感動サービス”を通して、気持ちに寄り添います」
なぜ、採用・人材育成に力を入れるのか
フューチャーブレーンでは採用と人材育成にも力を入れています。
採用は中小企業全体の悩みであると言えますが、
佐藤さん自身も以前苦労された経験がありま した。学生とやり取りするなかで、最近の学生の傾向としてスキルや能力はあるが、社会貢献に対す る意識が低いことに気づいたそうです。
「仕事は楽しくないし、社会に出たくないと不安に感じている学生がたくさんいます。
なぜかという と、企業側が学生のタイパ・コスパ風潮の強さに困惑し疑いの目で見てしまっているからだと思います。いわゆる学生への信頼や共感がないので、実は最初から健全な関係性に亀裂が生じています。そのため、学生側はエントリーシートに記載するガクチカ (学生時代に力を入れたこと)を作り込んで、精一杯背伸びする。面白いなと思うのは、サークルや部活の副部長が やたらに増えるんです。(笑)そうして落とされないように自らを偽って、いざ入社してみると全然思ってい た環境と違ってすぐに辞めてしまう。お互いにマッチングせず不幸の連鎖が続いている現状を変えていきたいと思っています。
そのためには、企業がいろんな価値観や個性を受け入れていくようにならないといけない。日本は多様性を受け入れる思考があまり育たない環境にあると思います。まずは人のことを信用してみるところから。学生の採用に対するネガティブなイメージを当社が先陣を切って変えていきたいです」
離職率を6%に抑えるには、どれだけ時間を過ごして苦楽を共にするか
50%近い業界の年間離職率を、6%に抑えられているのは社内が信頼でつながっているからだと佐藤さんは言います。
「当社にはドライな付き合いは一切ありません。みんながお互いをわかり合っていて、誰かになにかあれば飛んで助けに行きます。大事なのは同じ時間をどれだけ過ごして苦楽を共にするかですね。信頼関係という血液をどうすれば組織に流せるかがテーマで、そのためには心と行動をマッチングさせる必要があります。”出来る”と”知っている”は別物で、社員には研修を通じて実際に”出来る”ようにしてもらいます。
研修の内容は、単に知識だけをインプットしても意味がないので、主体的に考えるワークショップ形式です。うちの事業は顧客満足度が全てなので、お客様中心にどうしたら喜んでもらえるかということを社員自身で考えてもらいます。売り上げとは?働くとは?お客様とは?そういったことを本気で考えることで主体性を育んでもらう。コンサルティングも同様で人材教育が重要ですね。幹がしっかり育つと枝葉が伸びていきます」
日本のおもてなし”感動サービス”を世界に輸出できるかにチャレンジ
このように、採用と育成に力を入れ、順調に成長を続けるフューチャーブレーンですが、今後どのような領域にチャレンジしていくのでしょうか。
近年、医療ツーリズム(自国より医療水準の高い国へ行き、治療や健診・検診などを受けること)の人気によって、アメリカ、オーストラリアなど海外のお客様がすごく増えており、お客様全体の約半分を占めています。ヘッドスパというのは実は日本で生まれた言葉で、日本から世界に発信された文化の一つです。
佐藤さんに今後の展望について尋ねると「例えば、アメリカでヘッドスパを行うと8万円近くするのに対し、当社だと2万円でさらにより高度な技術を提供することができます。サービスに感銘を受けたお客様が自国でもやってほしいとリクエストをしていただくこともあります。日本のおもてなし文化は世界的に見ても素晴らしいもので、この”感動サービス”を世界に輸出していきたいと思います」と結びました。
聞き手:中野宏一、執筆:立元久史