ローカリティ!時代の開拓者たち

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「生地の可能性は無限大」石川県の匠の染色技術を継承・応用し感動を創造し続ける【石川県能美市】

5 min
  • 石川県
  • 能美市
  • 小松マテーレ
  • 生地の可能性は無限大
  • 芸術を工業化する

普段私たちが何気なく袖を通す衣類から建物を守る耐震補強材まで、暮らしと社会を支える幅広い「素材」を手がけている会社があります。

小松マテーレ株式会社は、1943年に石川県小松市で小松織物精練染工株式会社として創業。染色加工を基盤に、ファッションやスポーツやアウトドアの現場で求められる機能性素材、病院や介護の現場で使われる医療用素材、建築や工業分野を支える部材や先端材料をつくる化学素材メーカーです。

用途や分野は異なっても、共通しているのは「生地」という素材に意味と役割を与え続けてきたものづくりに対する姿勢です。

▲代表取締役社長の中山大輔さん


83年にわたり石川県の地で培われてきた技術と文化を背景に、同社はいかにして生地の可能性を暮らしから建築、医療、工業分野へと広げてきたのか。代表取締役社長の中山大輔さんにお話を伺い、思想と実践に迫ります。

一枚の生地から始まる可能性。染色技術を応用し最終製品になくてはならない存在に

常に「生地」から始まる小松マテーレのものづくり。
しかし、単なる素材としての生地ではありません。染める、加工する、機能を加える。その一つひとつの工程を通じて、生地に新たな意味と役割を与えてきました。

同社のルーツは、1943年に石川県小松市で創業した小松織物精練染工株式会社にあります。北陸の地に根づく繊維産業の中で、染色という後加工の技術を磨き続けてきました。当初は衣料向けの素材が中心でしたが、やがて「染色技術は、ほかの分野にも応用できるのではないか」と考え始めました。

「白い生地があれば、用途に合わせて後から価値を加えることができる」
その発想を起点に、現在は事業領域を広げ、ひとことで説明するのが難しいほど多岐にわたっています。取材中「説明すると半日かかります」と中山さんが笑うほど、範囲は広がっています。

▲工場の作業の様子

ファッションやスポーツ、アウトドアなどの衣料分野をはじめ、病院や介護の現場で使われる医療ファブリック、建築やインテリア、産業機器を支える資材分野、さらには炭素繊維や環境共生素材を軸とした先端材料分野まで。暮らしの身近な場面から、社会インフラや工業の領域まで、同社の素材はさまざまな形で使われています。

中山さんは、自社の立ち位置を「究極の部材メーカー」と表現します。最終製品のように表に名前が出ることは少なくても、最終製品を成り立たせる素材をつくる。そんな“なくてはならない存在”であることを目指してきました。

「芸術を工業化する」石川のものづくりを再現可能なものにするという挑戦


北陸・石川県は、長く繊維産業を支えてきた地であり、職人の技や経験に根ざしたものづくりの文化が色濃く残っています。

小松マテーレは、その土壌の中で技術を磨いてきました。しかし同社が目指してきたのは、職人の技に依存し続けるものづくりではありません。匠(たくみ)の感覚や経験を次の世代へと手渡していくための「再設計」でした。

中山さんは、自社の思想を「芸術を工業化する」という言葉で表現します。感性やひらめきといった感覚的な要素を、再現可能な技術として体系化し、匠の技を持った職人でなくても、技術を習得できる状態にすることを意味しています。

職人一人ひとりの技に頼るのではなく、技術として共有し、積み重ねていく。その姿勢があるからこそ、時代や用途が変わっても、生地という素材を起点に新しい価値を生み出し続けることができました。

「楽しく、激しく」個人プレーでいい。感動を生む現場のつくり方

▲RE-CREATIONのようす

小松マテーレの現場を語るうえで欠かせないのが、社員一人ひとりに与えられている裁量の大きさです。若手であっても、自分が「つくりたい」と思えば、その生地づくりに挑戦できる。決められた正解をなぞるのではなく、個人の発想や感性が尊重される環境があります。

象徴的な取り組みが、社内で行われている新素材コンペ「RE-CREATION(リ・クリエーション)」です。年齢や部署に関係なく、自由な発想で素材づくりに挑むこの場では、評価の軸は技術の難易度や完成度だけではありません。

「これは、誰が感動するんだ?」中山さんは社員に繰り返し、問いを投げかけます。それは、「人々の感動を創造します」という同社の企業理念に沿ったものであるのか、という問いです。

▲RE-CREATIONのようす

「楽しく、激しく、ときには個人プレーのように見えるものづくり。普段できないようなことができる、生地が好きな人がこの会社に入ると楽しく人生過ごせるんじゃないかなって思っています」

中山さんがそう話すその根底には、「人々の感動を創造する」という一貫した考え方があるからこそ。理念が掲げられるだけでなく、現場で生きているからこそ、新しい素材は次々と更新され続けているのです。

規模の拡大を追わない。無駄を減らす環境への向き合い方

「感動を創造」するものづくりには環境への配慮が欠かません。「環境にやさしい」という言葉を掲げる前に、まず自分たちのものづくりをどう変えるかを考えてきました。

同社では、品質保証(Quality Assurance)、環境・エネルギー(Environment&Energy)、安全防災(Safety&Disaster Prevention)を一体で捉える社長直轄の専門部署「QES室」を立ち上げています。環境への対応を一部門の取り組みにせず、社長自らの経営判断とする。その覚悟が、体制に表れています。


小松マテーレが環境への取り組みとして重視しているのは、無駄な工程やロス、意味のない生産を徹底的に排除することです。

生産規模を大きくすること自体を目的とせず、必要とされる価値に集中する。大量生産・大量消費型のビジネスモデルから距離を取り、付加価値を高めながら、売り上げや利益、そして地域社会への貢献を維持していく。規模をむやみに拡大しないという判断をしています。

そしてこうした取り組みは生地の染色加工にとどまらず、炭素繊維やバイオ製剤といった先端材料分野にも広がっています。

象徴的なのが、染色加工の排水処理で発生する廃棄物を減らす技術「ベリフォーマー」です。
産業廃棄物を前提としない工程設計によって、環境負荷を技術で解決する。この発想は、同社が長年現場で培ってきた繊維加工の知見があってこそ生まれたものです。

また、耐震補強材の開発も、環境と社会への貢献を見据えた取り組みのひとつです。建物の倒壊を防ぐことで、災害時に発生する瓦礫(がれき)や廃棄物を減らす。環境問題を「結果」として捉え、ものづくりの段階から向き合っています。

▲世界で初めて、自社開発の熱可塑性炭素複合材料 「カボコーマ・ストランドロッド」 を用いて耐震補強したユニークな見学・体験施設「fa-bo(ファーボ)」

理念を語るだけでなく、技術でやりきる。小松マテーレの環境への向き合い方は、ものづくり企業としての覚悟が現れています。

デザイナーを置かない。B to C to Bという回り道

小松マテーレでは、自社素材を使った製品事業は行っていますが、自社に専属のデザイナーを置いていません。それは「完成されたデザインを売ること」ではないからです。

中山さんは、理由をこう説明します。
「生地や素材が、デザイナーやつくり手の目に触れることで、はじめて素材の可能性が引き出されていく。結果として、本業である生地や素材の注文につながっていけばいい」

小松マテーレの製品はゴールではなく、入り口。生地という素材の可能性を、言葉で説明するのではなく、実際のかたちとして社会に提示するための装置です。

完成度を自前で固めないからこそ、外部のデザイナーやつくり手の感性が入り、素材の新しい使われ方が生まれていく。この「B to C to B」という一見遠回りに見える仕組みは、「価値はまず社会に差し出され、共感されて初めて広がる」という小松マテーレの考え方そのものです。

83年にわたり石川県から、生地の未来を更新し続ける

小松マテーレのものづくりを支えているのは、技術や設備だけではありません。
83年にわたり石川県の地で培われてきた、繊維産業の歴史と文化、そして人の積み重ねがあります。

職人の技を受け継ぎながらも、依存しない仕組みをつくる。生地という素材を起点に、暮らしから医療、工業、そして環境や防災へと可能性を広げていく。その一つひとつの選択が、地域の土壌とともに更新されてきました。

「生地の可能性は無限大」
この言葉は、決して誇張ではありません。用途や分野を限定せず、必要とされる場所に必要な機能を届けていく。その積み重ねが、結果として世界へとつながっています。

「人々の感動を創造する」「地球・社会に貢献する」「社員と共に成長する」という三つの企業理念が、ただの掲げられた言葉ではなく実践として体現してきた結果だといえるでしょう。

石川県から、生地の未来を問い続ける。
小松マテーレは今日もまた、一枚の生地に新たな意味を重ねながら、次の可能性を静かに広げています。

最も印象に残った言葉:
「楽しく、激しく、ときには個人プレーのように見えるものづくり。普段できないようなことができる、生地が好きな人がこの会社に入ると楽しく人生過ごせるんじゃないかなって思っています」

企業情報

会社名:小松マテーレ株式会社
取材対象者:代表取締役社長 中山大輔さん
設立年月:1943年(昭和18年)10月
企業理念:
小松マテーレは人々の感動を創造します。
小松マテーレは地球・社会に貢献します。
小松マテーレは社員と共に成長します。

事業内容:
【衣料ファブリック】

小松マテーレのコア事業であり、研ぎ澄まされた感性と蓄積したノウハウによるファッション衣料用に加え、同社が得意とする機能技術を搭載したスポーツ衣料用、ユニフォーム用など各種衣料用素材で先端ファブリックの製造・販売を行なっています。

【資材ファブリック】

小松マテーレが創業以来培ってきた機能技術を応用し、インテリア、車輌内装材、医療・福祉、電材など多岐にわたる分野で高機能ファブリックの製造・販売を行なっています。

【製品部門】

小松マテーレが製造する感性と機能性の両面を併せ持つ先端ファブリックをベースに製品染めなど独自の手法を駆使して、ファッション衣料を始め、スポーツウェアなどでオリジナルな製品の企画・提案・製造・販売(ODM:Original Design Manufacturer)を行います。

【先端材料】

排水処理の過程で発生する余剰汚泥を減らすバイオ製剤や、耐震補強材としても使用されている熱可塑性炭素繊維複合材料などの先端材料を用いた環境共生素材の製造・販売を行っています。

所在地:〒929-0124 石川県能美市浜町ヌ167番地
URL:https://www.komatsumatere.co.jp/

天野崇子

天野崇子

副編集長/第1期ハツレポーター/1968年秋田県生まれ。東京の人と東京で結婚したけれど、秋田が恋しくて夫に泣いて頼んで一緒に秋田に戻って祖父祖母の暮らす家に入って30余年。

ローカリティ!編集部のメンバーとして、みなさんの心のなかのきらりと光る原石をみつけて掘り出し、文章にしていくお手伝いをしています。

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