日本は安心で安全な食べ物に恵まれている――そんなイメージを、多くの人が日本の「食」に対して抱いているのではないでしょうか。しかし、食品添加物の開発現場に携わり、日本中の工場の「裏側」を見てきた一人のバイヤーは、「日本は食品添加物大国」だという現実に衝撃を受けました。
2008年、安全でおいしい食を広めることを掲げて立ち上がった兵庫県のスマイルサークル株式会社。現在は、全国各地の「商売が得意ではない職人」がつくる良品を発掘し、大手流通・通販へつなぐバイヤー代行事業や、食のセレクトショップ「グランドフードホール」、兵庫県丹波市の山間部に構える「グランドロックキャッスル」など、多様な事業を展開しています。
そのすべての根底にあるテーマは、「幸せに生きるために」。代表取締役社長・岩城 紀子(いわき・のりこ)さんに、起業の原点から、いま丹波で取り組む「健康寿命」と「生きる力」を育む挑戦について伺いました。

目次
「日本の食」の真実を知り、起業を決意。「本当にいい食べ物とは何なのか」を次世代へ
スマイルサークルを立ち上げる前、岩城さんは食品分野のバイオベンチャーで働いていました。そこで担っていたのは、食品添加物や機能性成分の開発・検証です。しかし、日本を代表する大手食品メーカーの開発現場に深く関わるなかで、岩城さんはある種の“違和感”に出会います。工場長や経営陣が、自社の商品を「自分では食べない」と言い切る場面に何度も遭遇したのです。
「日本の食は世界一安全だと信じていました。でも、実際の現場を知るほどに、『日本の食って大丈夫なのかな』という思いが強くなっていきました」
日本が世界でも有数の「食品添加物大国」であり、それに起因する可能性のある疾患も増えている――。
そうした状況を前に、「本当にいい食べ物とは何なのか。それを次の世代に残していく仕事がしたい」と考え始めたことが、起業の出発点になりました。
決定的な転機は、とある会合で隣の席になった某百貨店の会長との会話でした。「これからは、現地で良いものを見つけてくる“バイヤー代行”のような仕事が必要になるのではないか」。その一言に背中を押され、3人でスマイルサークルを創業します。
“商売下手な職人”の味を、バイヤー代行として表舞台へ
スマイルサークルの事業の約半分を占めるのが、バイヤー代行です。現在、本社18名のうち7名がバイヤーとして全国各地を飛び回り、百貨店や通販会社、スーパーなどから寄せられる「お題」に応えています。
「白いご飯に合う“ご飯の友”をマニアックなものも含めて20品探してほしい」「本当においしいクッキーを揃えてほしい」――。寄せられるリクエストは実にさまざまですが、岩城さんたちには一貫した選定基準があります。
「私たちは、体に悪いものは選びません。できるだけ食品添加物を使わず、伝統的な製法で丁寧につくられていて、でもこのままでは後世に残らないような小さなメーカーさんの品を、優先的に探していきます」
つくることにはたけているけれど、売ることは得意ではない。そんな生産者の思いのこもった商品を見つけ出し、全国の売り場へと橋渡ししていくのが、スマイルサークルのバイヤー代行です。
残り半分の事業は、大手から小規模事業者までを支える商品開発・ブランドづくりのコンサルティング。現場で培った開発ノウハウを生かし、食品添加物不使用商品への転換や新商品の開発を支えています。
「本当に良いものを広めたい」という信念のもと、「商品をつくる人・売る人・買う人」の三方が笑顔になれる循環をつくること。それが、スマイルサークルのモットーです。
山間部にひらいた「健康寿命」と「生きる力」の実験場
そうした「食」の取り組みからさらに一歩踏み込み、岩城さんがここ数年で力を入れているのが、兵庫県丹波市の山あいに開いた複合レジャー施設「グランドロックキャッスル」です。
日本の平均寿命は世界的に見ても長い一方で、健康寿命との間には10年以上の差があります。 「介護を受けながら生きる“空白の十数年”を、どう縮めていくか。それを考えたときに、健康寿命を延ばすための場所と仕組みが必要だと思ったんです」と岩城さん。
そこで自身の経験から導き出したのが、食事や睡眠、運動について言及する健康寿命を延ばすためのシンプルな「五か条」でした。
「『栄養バランスのとれた、ナチュラルな食事を楽しくとること』『週に一度は自然に触れ、森や水、土に身を置くこと』など、内容はすごくシンプルなんです。でも、全部きちんとできている人は意外と少ない。だからこそ、それを意識して実践できる場所が必要だと思いました」
さらにそこでいま岩城さんが「最大の挑戦」と位置づけるのが、子ども向けプログラム「LLSA(リーサ/ラブ&ライフスキルアカデミー)」です。
小学校3〜4年生を対象に、「運命と踏み出す一歩」「選択とチャレンジ」「仲間と自信」といったテーマで、これからの時代を生き抜くための「生きる力」を育むプログラム。現在は第一期生12人が、山に囲まれた自然の中で合宿形式の学びに取り組んでいます。
「将来本当に活躍していく子には共通する“心の持ち方”や“考え方”があります。そのエッセンスを、できるだけ早い時期に伝えたいんです」
将来的には、「リーサ香川」「リーサ○○」といった形で各地に広げ、履歴書に「LLSA第○期生」と書けるようなプログラムにしたい――。グランドロックキャッスルは、食・睡眠・運動・自然・笑いといった要素を通じて、「健康寿命」と「生きる力」を同時に育てる実験場になろうとしています。

幸せに生きるために、投資の順番を変える
食の安全の問題から健康寿命、子どもたちの教育まで、一見するとバラバラにも見える取り組みの共通点は何か――。そう尋ねると、岩城さんは少し考えたあとで、こう答えました。
「どれも『幸せに生きるために』なんですよね」
日本の幸福度は世界ランキングでも下位に位置することが多く、「今の環境や健康状態、周りの人間関係、やっている仕事を含めて『私は幸せです』と言い切れる人は、決して多くない」と岩城さんは感じています。
その背景には、「お金をかける順番」に問題があると言います。高価なブランド品には投資をする一方で、自分の体や健康、学びに投資する人は少なく、セルフケアをする意識は海外に比べてまだまだ低い――。そんな日本の現状を、海外の友人たちとの対話から痛感してきました。
「“幸せ”は、誰かがくれるものではなくて、自分で見つけるもの。自分の心と体を大事にしながら、自分に合った仕事や仲間と出会っていく。その土台づくりを、食や場づくりを通して応援したいんです」
岩城さんが見つめているのは、「食」そのものだけではありません。その先にいる子どもたち、地方で暮らす人たち、日本の未来を生きる一人ひとりの「幸せ」です。

食品添加物の研究現場から始まり、バイヤーとして全国を飛び回り、いまは丹波の自然の中で子どもたちと向き合う岩城さん。
その歩みのどこを切り取っても一貫しているのは、「自分も、周りの人も、少しでも幸せに生きられるように」という静かな決意でした。
いちばん印象に残った言葉
「幸せに生きるのって、誰かがくれるものではなくて、自分で見つけることだと思うんです」
会社概要
会社名:Smile Circle株式会社
取材対象者:代表取締役社長 岩城紀子さん
設立:2008年4月17日
従業員数:18名(グループ全体は約200名)
事業内容:食料品および雑貨の卸・販売・輸入、バイヤー代行、商品開発・ブランドづくりのコンサルティング、グループ会社による食のセレクトショップ運営
本社所在地:兵庫県芦屋市業平町4-6
URL:https://smile-circle.com/






