着るサステナブル「カポック」で誰もが心も身体も温まる世界を〈KAPOK JAPAN株式会社 深井喜翔さん〉【大阪府吹田市】

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カポックの植樹をする代表の深井さん

寒さが厳しい季節。ダウンジャケットやダウンコートが手放せないという方は多いのではないでしょうか。しかし、その原料となる羽毛を採取する際、環境や水鳥などの動物に負担をかけている背景があることをご存じでしょうか?

「カポック」という木の実を使い、動物にも環境にも負担をかけない素材を開発し、心も身体も温まる、持続可能な未来を切り開いている人がいます。大阪のKAPOK JAPAN(カポック・ジャパン)株式会社の代表・深井喜翔(ふかい・きしょう)さんです。1947年創業の老舗アパレル会社・双葉商事株式会社の4代目としても活躍しています。

家業を通じて、自分の信念を形に

学生時代に、社会で活躍する人や自分の周囲の人たちが高い環境の意識を持ち行動していることに注目し、これまでの資本主義による不均衡な構造の社会に疑問を抱くようになった深井さん。

自分ができることは何だろうかと模索するなかで、特に家業のアパレルにこだわる必要はない、と考えていた深井さんでしたが、アパレル業界に存在する「大量生産・大量廃棄」の課題に向き合うことで、自身の信念を形にできるかもしれない、と家業に進む道を選びました。

課題に目を向けて出会った「サステナブル」な素材

もともと、家業で身近に感じていたアパレルに関した「素材」に興味を持っていたことと、社会的に余っている資産と社会の課題を結び付けてビジネスができないかと考えるうち、「大量生産・大量廃棄」の課題のほかに、ダウンやレザーといった動物由来の素材を多く使用する現状も見過ごせない課題だと感じるようになったそうです。

そんな中、インドネシアを訪ねる機会があり、「カポック」という木の実から綿を生産している家族に出会う機会に恵まれました。

収穫後のカポック

心も体も温まる素材に出会う

カポックは、アオイ科の落葉高木で、樹高は20〜30メートルほど。さらに50メートルほどに高木化すると、直径が3メートルほどになります。

熟する前のカポック

インドネシアなど、主に東南アジアの民家の周辺で自生したり栽培されたりしているカポックは水や肥料をほとんど必要とせず、とても簡単に育つ特性があります。木は高さ数十メートルに育ち、1本につきバナナのような形の実が300個程度なります。実の中に詰まった綿毛は、これまでクッションや枕などの詰め物に使われてきました。

取り出したカポックの綿

カポックは木の実なので、同じ植物でも綿花のように収穫の際に伐採する必要がなく、50年ほどにわたって毎年綿が収穫できます。動物の犠牲や環境負荷を引き起こすことがないことから、持続可能性の高い天然繊維として「心も身体も温める、世界をよりよい方向に変えていく素材はこれだ!」と深井さんは確信したそうです。

試作と周りの協力を得てブランドが立ち上がる

しかし、いざ服の素材にするとなると、カポックの繊維はとても短く、加工の難しさの壁にぶつかります。

何度も試作を重ね、家業がもともと培ってきた繊維や素材の技術、またこれまでお世話になってきた人たちからの協力を得て、これまで誰も成し得なかったカポックの素材でシートを作ることに成功します。

加工後カポックシート

深井さんは、Makuakeという応援購入サイトを活用しファッションブランド「KAPOK KNOT(カポック ノット)」を2020年に立ち上げました。

カポックはコットンの8分の1という軽さなのにダウンのようにあたたかく、汗をかいても吸湿性があり快適です。心も体も温め、多くの人に愛されるコートやジャケットに姿を変えたカポックは街に出てその存在を示し始めました。

青森の縫製工場

自分のポジションの強みと、カポックを使った「ポスト資本主義」への意識改革

「これまでの資本主義の保守的なうねりを変えていくのには時間がかかる。新時代の波を起こしていくには小さいことの積み重ねが必要」と深井さんは話します。

深井さんは、多様な価値観が存在する中で、これまでの資本主義を支えてきた人々と、これから新たに世の中を変えようとする人々、双方の価値を理解し、的確に言語化してわかりやすく伝える両者の間の「グラデーション」となる存在が新しい社会を変えていくカギだと考えています。しかし、そうした役割を担える人は多くありません。

Industry Co-Creationビジネス・カンファレンスに登壇した深井さん

「変革者でもあり保守者でもあるという中間のグラデーションに当たるポジションを取れるのは、跡継ぎである私ならでは。自分はそんなプレイヤーとして、カポックという素材を使い人々の意識改革ができればと思っています」

深井さんは“天然繊維”を身につけるという簡単な方法で人々の環境意識を高め、新しい未来への共感を広げたいと考えています。

世界中の誰もがカポックを身につける未来へ

人々の意識が変わり環境への配慮が広がる社会へとつながっていくこと、そして、さらにカポック製品の開発を進めることで、カポック農家が一年中安定した収入を得られる仕組みを作り、持続可能な生産が支えられるよう、ともに成長していくのが深井さんの目指すところです。

カポック農園で働く方たち

また、カポックに限らず、東南アジアに自生するさまざまな植物が今後繊維素材として注目される中で、日本は地理的にも文化的にもその橋渡し役を担える立場にあり、日本の繊維業界が価格競争などにより厳しい立場にある現在、こうした新しい展開が業界に新たな道を切り開く可能性があると深井さんは考えています。

体を温かく包み、心に温かく響くサステナブルな素材「カポック」。深井さんの強い思いと、その可能性が広がることで、私たちの世界はより良い方向へと変わっていくことでしょう。

カポックのジャケットを着た深井さん

聞き手:執筆:天野崇子

天野崇子

天野崇子

第1期ハツレポーター/1968年秋田県生まれ。東京の人と東京で結婚したけれど、秋田が恋しくて夫に泣いて頼んで一緒に秋田に戻って祖父祖母の暮らす家に入って30余年。

ローカリティ!編集部のメンバーとして、みなさんの心のなかのきらりと光る原石をみつけて掘り出し、文章にしていくお手伝いをしています。

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