「家族で行ける宇宙旅行を」世界初の切り替え型エンジンで目指す宇宙活用【愛知県名古屋市】

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宇宙産業は現在、急速な進化を遂げています。国家主導のプロジェクトに加え、民間企業の商業的な取り組みが増え、宇宙産業へのアプローチが多様化しています。この風向きの変化を捉え「家族で行ける宇宙旅行」を目指す企業が登場しました。「PDエアロスペース株式会社(以下PDエアロスペース)」は、「398,000円で宇宙に行ける宇宙飛行機(スペースプレーン)」をつくろうとしています。
PDエアロスペースが実現しようとする未来とは何か。代表取締役社長である緒川修治(おがわ・しゅうじ)さんにその挑戦の原点と展望についてお聞きしました。

PDエアロスペース株式会社のスタッフと代表取締役社長の緒川修治さん(左から5人目)

世界初。一般空港への着陸を可能にする切り替え型エンジンの開発

PDエアロスペースが取り組むのは、一般の空港から直接宇宙に行くことを可能にすること。既存のロケット技術にとどまらない全く新しい宇宙輸送の形です。翼を使い航空機のように滑走路から水平に離発着を行い、大気中ではジェットエンジン、宇宙空間ではロケットエンジンへと切り替わる「切り替え型エンジン」という技術によって、宇宙旅行の大幅なコスト削減が期待されています。

この新しい宇宙輸送のアプローチによって、既存の空港インフラを活用できるようになるほか、飛行環境に応じてエンジンを分ける必要がないため、運用コストが抑えられ、また安全性を向上させることができるとしています。

発明家の父から影響を受け、湧いた空への興味

実は緒川さんが長く目指していたのは宇宙ではなく、地球の空でした。子供の頃から、研究や特許で生計を立てる“発明家”だった父親とともにさまざまな実験に挑んできた彼にとって、家は「まるで小さな研究所のような場所だった」と言います。家には実験室があり、物心つく頃からもの作りに親しんでいた彼は、こうして、アイデアを形にすることが自然と身に付いていました。同時に、父親の研究対象に飛行機やジェットエンジンがあり、身近に“飛ぶもの”があふれていました。大きな物が空を飛ぶ原理を知ると、今度は自らがこれを飛ばすことに興味を持ち、いつしかパイロットを目指すようになっていました。

宇宙産業の変化と宇宙機開発参入への決意

緒川さんが宇宙という新たな領域へと興味を向けるようになったのは、パイロットを目指す中で行われた、ある前代未聞のコンテストでした。それは、米国で1996年から2004年まで行われた、民間による最初の有人弾道宇宙飛行を競うコンテスト「Ansari X Prize(アンサリ・エックスプライズ)」(Xプライズ財団主催)。宇宙船を高度100km以上に到達させ、3人(あるいは1人+2人分の重量)を乗せた宇宙船を2週間以内に同じ機体で再度飛行することをミッションとしたこのコンテストには、世界中から多くのチームが参加して、たった50人足らずの小さなベンチャー企業が優勝しました。

緒川さんはこの革新的なチャレンジに触発され、「宇宙は、宇宙飛行士に選ばれるのを待つ時代から自分らでいく時代になった」と新しい時代の到来を実感したと言います。自身が持つ技術と情熱を地球を越えて宇宙に向けようと、宇宙機開発の道を切り開く決意を固めたのです。

低コストで宇宙機開発。少数精鋭の技術者集団で民間での開発環境を実現

緒川さんが会社を起こした当初は、多くの困難が待ち受けていました。一番は資金集めです。彼のアプローチは革新的であったものの、宇宙機開発は莫大な資金と高度な技術が必要な分野であり、初期の資金調達もスムーズには進みませんでした。

ロケットや宇宙船の開発は一般的なスタートアップとは異なり、特に技術的な課題が多く、試作機の開発にも高額なコストがかかります。しかし、緒川さんは自己資金を投じながら、自らの技術力と過去の経験を生かし、献身的なエンジニアとともにわずかなリソースでプロトタイプの開発を進めました。

「できなくて落ち込みますが、すぐに別の案を試してみようと思えます。この切り替えの早さと粘りが私の強みだと思っています」。そう話す緒川さんは、小さな失敗や成功を積み重ねることで前進し、徐々に業界内外からの注目を集め始めました。その熱意と持続的な努力が、やがては投資家やメディアの関心を引き、企業の存続と成長の基盤を築くことにつながりました。

※実際に実験に取り組む様子

398,000円で行ける宇宙旅行実現へ。宇宙資源の活用にも力

成長する宇宙輸送サービス市場。米国の市場調査会社は、24年の約49億ドル(7363億円)から、32年には約110億ドル(1兆7000億円)に急速に拡大していくと予想しています。

こうした宇宙輸送の成長を支えるのは、新しい技術・新しいロケットであり、緒川さんが取り組んでいるのは、安く安全、利用しやすい新しいロケットです。そして目指すは、398,000円。家族で行ける、庶民の宇宙旅行です。

宇宙旅行が成功したさきには、次なる目標があると緒川さんは言います。「宇宙資源の活用によって、地球上の資源問題を解決したい」。PDエアロスペースはこれからも加速する宇宙産業の中で挑戦を続けていきます。

※実際の開発実験機と燃焼モード切替エンジンの実験の様子

聞き手、執筆:木場晏門

木場晏門

木場晏門

神奈川県鎌倉市生まれ藤沢市育ち、香川県三豊市在住。コロナ禍に2年間アドレスホッピングした後、四国瀬戸内へ移住。webマーケティングを本業とする傍らで、トレーニングジムのオープン準備中。

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