
「寿司ロボット」の製造で知られる鈴茂(すずも)器工株式会社。
しかし、同社の本質は“機械をつくる会社”ではありません。創業以来一貫して掲げてきたのは、「食を広げ、豊かにする」という使命です。時代や市場の変化に応じて挑戦を重ね、寿司(すし)をはじめとした日本の食文化を世界へと広げてきました。
今、同社が目指すのは「ファーストコール・カンパニー」。お客さまが課題や夢を抱いたとき、最初に声をかけてもらえる存在です。技術革新を超えて、食と人の関係をどう豊かにしていくのか。谷口徹 代表取締役社長の言葉から、その進化の軌跡と未来への覚悟が見えてきました。
目次
創業は菓子機械から。「寿司をもっと手軽に」の挑戦
1955年に創業した鈴茂器工の前身、「鈴茂商事」が最初に手がけたのは菓子機械でした。「こんなお菓子を食べたい」という創業者の個人的な情熱が出発点です。その後、日本の米の消費が減少し始める中で「寿司をもっと手軽に、いつでもどこでも、誰でも食べられるようにしたい」という思いが芽生えました。
1977年に寿司ロボットの開発をスタート。1981年に世界初の寿司ロボットを発売。鉄道会社や電機メーカー、水産加工会社など多くの業界と連携しながら、寿司を大衆化するための試みを重ねました。実は、公式記録に残らない挑戦も多く、谷口さんは「当時の社長たちの努力は本当にすばらしいものでした」と敬意を込めて振り返ります。

ご飯をよそう作業に、あえて数百万円を投じる「食を広げたい」という原動力
鈴茂器工を突き動かしてきたのは、シンプルで強い願いです。
「寿司をもっと広げたい。食をもっと豊かにしたい。機械はそのための手段に過ぎません」
その理念を象徴するのが、2003年に開発した「ご飯盛付けロボット」です。一見、人の手としゃもじがあればできる「ご飯をよそう」作業に、同社はあえて、数百万円の製品を上市しました。谷口さんはこう語ります。
「米の量を管理し、ただ無駄を省くのではなく、空気を含ませふっくらしたご飯を再現し、どの店舗でも同じおいしさを提供するための投資でした」
ご飯盛付けロボットFuwaricaは、単なる省力化機械ではなく、味を安定させる装置でもあります。現場の効率化、おいしさの再現性、ロス削減を同時に実現し、外食チェーンの拡大を陰で支えてきました。
当時「人がやれば十分」と考えられていた作業を、あえて機械化するという決断は、単なる技術革新ではなく“食文化を広げるための挑戦”そのものでした。

食文化を支える企業へ ― 株主からも「ファン」と呼ばれる存在に
鈴茂器工は、お寿司やお弁当など“食を提供する企業”を支える機械メーカーです。「お客さまの事業を成功させること」が社内文化として根づいていると谷口さんは話します。営業も開発も、機械のスペックを売るのではなく、お客さまの課題に寄り添う姿勢を重視しています。
その姿勢は、取引先企業だけでなく、株主や社会からも少しずつ評価されています。個人株主は6,000人から8,000人規模へと増加し、株主総会では経営陣と株主が「食の未来」を語り合う温かい交流の場が生まれています。中には、長年にわたって同社を応援し続ける“ファン”のような株主も少なくありません。BtoB企業でありながら、人と人との信頼関係を軸にしたつながりが育まれているのです。
一方で、一般消費者への認知はまだこれからの課題です。谷口さんは「BtoBだからこそ伝わりにくい部分がある。けれど、私たちは“食を支える会社”として、もっと広く社会に貢献できるはず」と語ります。
グループビジョン『食の「おいしい」や「温かい」を世界の人々へ』は、単なるスローガンではありません。外食やお弁当といった“食を提供する企業”のパートナーとして、長年その理念を形にしてきました。
まだ一般の方々にはなじみが薄いかもしれませんが、日々の食卓の裏側で「おいしい」を支えている存在として、少しずつ社会にその価値が伝わり始めています。
「見た目だけでなくおいしい和食」を届ける
海外では寿司やおにぎりが広がっていますが、「炊飯や温度管理が不十分で、見た目は同じでもおいしくないケースが多い」と谷口さんは指摘します。国によって衛生基準や提供温度が定められており、日本のように炊き立てのご飯を出せない環境もあります。
鈴茂器工は、そうした制約を理解したうえで、現地の事業者に対し、炊飯や温度管理に関するノウハウを提供しながら、「見た目だけでなく、本当においしい和食文化」を広げる取り組みを続けています。

冷凍寿司の台頭と向き合う ― 脅威を機会に変える
現在の大きな課題のひとつは冷凍寿司の成長です。大量生産と長期保存が可能な冷凍技術は外食産業を変えつつあります。店舗で寿司を握る必要がなくなるため、従来の寿司店や調理機械の需要を脅かす存在でもあります。
「冷凍寿司は一見すると競合ですが、脅威ととらえるだけではありません。お客さまの事業価値を上げることが私たちの使命です。例えば、他社と連携しながら、冷凍に最適なシャリやネタ、解凍後の品質を保つ技術を一緒に探っていく可能性なども検討できます」
谷口さんの言葉からは、変化を恐れず新しい時代の最適解を見つけに行く強い意志が伝わってきます。
「ファーストコール・カンパニー」を目指して
今後の50年、100年先を見据え、鈴茂器工は単なる厨房機器メーカーから進化しようとしています。近年はシステム会社を買収し、ホール運営やデータ活用まで含めた店舗支援を展開しています。
「私たちは“ファーストコール・カンパニー”を目指します。お客さまが困ったとき、新しい挑戦をしたいとき、最初に相談していただける存在になりたいのです」

谷口さんの言葉には、機械の枠を超えて、お客さまの事業そのものに寄り添う姿勢がにじみます。他社との協業も視野に入れながら、外食産業の未来を支えるプラットフォームとして進化を続けています。
ただ、近年の米の価格高騰や人手不足など、食を取り巻く環境は決してやさしいものではありません。それでも鈴茂器工は、創業時から変わらない「食を広げ、豊かにしたい」という思いを胸に、現場と共に挑み続けています。
寿司ロボットから始まった技術と情熱は、これからも世界の食文化を支える力となり、人と人とをつなぐ“おいしさの輪”を広げていくことでしょう。


※写真はすべて鈴茂器工株式会社提供
最も印象に残った言葉
「寿司をもっと広げたい。食をもっと豊かにしたい。機械はそのための手段に過ぎません」
企業情報
会社名:鈴茂器工株式会社
取材対象者:代表取締役社長 谷口徹さん
設立年月:1955年
グループビジョン:『食の「おいしい」や「温かい」を世界の人々へ』
事業内容:米飯加工機械、充填機械、包装資材及び寿司ロボット及び食品資材等の製造販売など
URL:https://www.suzumo.co.jp/
所在地:愛知県名古屋市東区徳川1-9-30




