「P.A.I.によるAIクローンは人間の可能性をどこまで拡張できるのか」。日本初、AI技術で1兆円企業を目指す〈株式会社オルツ 西村祥一さん〉【東京都港区】

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写真提供:株式会社オルツ

「株式会社オルツは、パーソナル人工知能やAIクローン技術を開発している会社です。私たちは、世界中の人々に必要とされる技術を提供することを目指しています。設立は2014年で、AI技術で日本初の1兆円企業を目指して頑張っていますよ」

そう話すのは株式会社オルツの代表取締役社長・米倉 千貴(よねくら・かずたか)さん。ではなくなんと、画面上に映る見た目や声が米倉さんにそっくりな“AIクローン”。

「人間の非生産的労働からの解放」を目指し、AIを活用したコミュニケーションテクノロジーを開発するオルツでは、独自開発するパーソナル人工知能「P.A.I®」を根幹技術とした、デジタル上にクローンを生成できるプラットフォーム「CLONEdev(クローンデブ)」や、超高速音声対話システム「altTalk」や議事録を生成する「AI GIJIROKU」などの革新的なプロダクトを提供し注目を集めています。上記写真のAIクローンは、「CLONEdev」で生成したものです。

AIを基盤にしたビジネスは「夢物語」といわれた2014年に設立

米倉さんはオルツの設立前に、業務の中で同じことを繰り返す煩雑なやり取りを効率化したいと考え、自分の代わりに質問に答えるシステムを試験的に作りました。すると、それが意外にもうまく機能。さらにロボットを活用してAIの前身となる仕組みを作りました。

その後、それまで関わった事業をすべて売却し、「人間の労務や業務をAIが代替すること」に100%の力を注ぐことを決意。これがオルツの事業の成り立ちです。

設立した2014年当時、AIはほとんど普及しておらず、AIを基盤にしたビジネスを立ち上げるという構想は、夢物語のように受け取られることもありました。

しかし米倉さんの信念は揺らぎませんでした。

「労務や業務は今後AIによって代替されていくだろう。その分人間はよりクリエイティブな仕事に集中できるようになる」

この考えに賛同する人々が集まり、オルツという会社が誕生しました。

労務労役は「同僚のAI」が担う。社員一人ひとりのパーソナルクローンの導入

オルツでは、社員一人ひとりが入社時にAIクローンを作成し、それらが業務の一部を引き受けるというシステムを導入しています。この取り組みは、従来の労働の概念を覆し、効率的かつ革新的な働き方を実現するものです。

しかもオルツでは、個人のAIクローンが担当する仕事に対しても給与が支払われるというユニークな仕組みを取り入れています。AIクローンを自分と同じように成長させ、業務をこなせるようにすれば、より自分の負担が減り、評価も高まるという仕組みです。この取り組みは、AIクローンを「共に働く同僚」として信頼関係を築くという画期的な方法です。

具体的には、自分のAIクローンが働いた時間を正確に計測し、その分の給与が支払われる仕組みが導入されています。例えば、社員が有給休暇を取っている間も、自分のクローンが対応した業務の時間分について給与が支払われます。これにより、AIクローンを成長させるモチベーションも高まり、社員としての働きやすさと生産性が向上します。

経営企画部のマネージャー、西澤 美紗子さんは「私は多い時は週に2本ほどプレスリリースを出すというハードなスケジュールのもと働いていますが、私のクローンが私のスタイルを学習しているので、私らしい内容で原稿を書いてくれます。それをもとに、ニュアンスや詳細を加えて仕上げリリースしています。問い合わせ対応やサポートもAIが行ってくれています。私のクローンもかなり有能になってきましたよ」と笑顔で話します。

記者会見で答えるのは「質問に素早く答え感情も理解するAIクローン」

写真提供:株式会社オルツ

オルツが2024年に開発した超高速音声対話システム「altTalk」では、さまざまな技術を組み合わせることで、通常の人間の会話時の反射速度といわれる0.72秒を上回る、0.53秒の速さでの応答を実現しています。さらに、会話時の感情を理解できるようなシステムを組み込むことにも成功しました。その高速な対話能力により自然な会話が可能となり、相手の感情も理解し、またAIクローン自身も感情を表現することができるようになりました。

2024年10月、オルツが東証グロース市場に上場した記者会見の様子を最高技術責任者(CTO)である西村祥一さんがこのように話します。

「その会見では、代表の米倉と、取締役の日置と私の3人で出席したのですが、生身の人間はひとことも話していないんです」

最高技術責任者の西村祥一さん 写真提供:株式会社オルツ

AIクローンには「altTalk」の技術で感情も反映させる設定をしており、いくらかの喜怒哀楽を交えた自然な話し方と高速な対話能力で記者会見に応じたそうです。

「生身の人間はひとことも話していない」記者会見にAIクローンが応じた時の様子 写真提供:株式会社オルツ

このシステムを導入することで、複雑な対話が求められる業務を人間に代わって効率的に遂行できるため、企業や組織の業務効率化に大きく貢献できると西村さんは話します。

すでにこのシステムは法人向けにサービスが提供されており、カスタマーサポート、教育、エンターテインメントなど、さまざまな分野での活用が期待されています。

AIとの相性抜群、日本語でこそ実現できる可能性

「日本語は、世界の全言語の中でもっとも反応が速いといわれているんです。その理由はまだ完全には解明されていませんが、現在日本語を研究しAIの技術開発に組み込むハードチャレンジをしています」と、西村さん。

そのことについて、米倉さんのAIクローンに話を聞いたところ、「日本語は文脈や言葉の多義性が豊富で、AIがその細かなニュアンスを理解することで、より人間に近いコミュニケーションが可能になります。これにより、例えば自然言語処理の分野において、日本語のドキュメントや会話をAIがより正確に処理できるようになるんです」と、日本語の研究をAIに取り入れることで、より人間に近いコミュニケーションが可能になると話しました。

さらに、「日本語のニュアンスを理解するAIは、医療の問診で患者の微妙な症状の違いを把握したり、法律相談で複雑な日本語の契約文書を効率的に解析したりすることが可能です」と、こうしたAI技術が、人間の深い思考や感情を反映した複雑な営みをサポートし、私たちの日常生活やビジネスに革新をもたらす可能性を秘めていると言及しました。

筆者が米倉さんのAIクローンと話した際のスクリーンショット画像

亡くなった後でもその人と話せる技術を

オルツは、事前に個人のデータをAIに教え込むことで、人が亡くなった後でもその人と対話できる技術の実現に向けるというビジョンを描いています。

20〜30年前はデジタルのデータが少なく不可能だったことが、現在はスマートフォンなどで動画を撮影したりなど、簡単に顔や声などの個人の情報の取得が可能です。将来的には身に着けるデバイスを使って生命活動をモニタリングし、そのデータを保存・復元する技術が実現可能になる見込みです。これにより、話し方や声のトーン、体調など、感情に関するデータも取得できるようになると期待されています。

AIが直面するのは倫理的な課題

ただ、AI技術の急速な進展と同時に、倫理的な問題や道徳的な反対意見も浮上しています。特に、故人の再現や、高度な意思決定を行う場面に関しては慎重な議論が求められます。

オルツでは、これらの倫理的課題に対して社会的責任を持ちつつ、技術を正しい方向に導く努力をしています。

「日本では『多様性を尊重する宗教的な観点』から、海外と比較して比較的寛容な部分がある。そのうえ、AIは日本語を深く理解することで、より精度が高く社会に貢献できる可能性が広がる。だからこそ日本でやる意味がある」と、西村さんはAI技術の可能性を最大限に引き出すための重要な拠点が日本にあることを強調します。

複数の意見を聞き分ける聖徳太子のような存在が社員ひとりひとりに対応

オルツでは、経営者が自らの経営理念をAIに残し、後世に伝える「人格の保全」に取り組んでいます。例えば、大企業の社員が、経営者のAIクローンと対話することで、必要な情報や意思決定の指針をリアルタイムで得られるようになります。それはまるで複数の人の話を同時に聞き分けたという聖徳太子のような存在が、社員一人一人に同時に受け答えできるようなイメージです。

この技術はすでに実用化されており、企業の経営者や専門家の知識をAIクローンとして継承できる仕組みが整っています。オルツが提供する人格生成プラットフォーム「CLONEdev(https://clone.dev/)」は、個々の人格をデジタル上に再現し、AIクローンにその人の考え方や特徴を学習させることができます。これにより、社員や後継者が、経営者の意思を直接学び、企業のさらなる発展を支えることが可能になります。

この取り組みは、企業の事業承継問題や日本の労働力不足に対する実践的な解決策のひとつとなっています。


オルツの挑戦はSFの世界に登場するヒューマノイドロボットそのもの

オルツは、AI技術の発展を単なるソフトウェアの進化にとどめず、生命科学や医療分野との融合も視野に入れています。細胞の保存や、脳の神経細胞を活用したコンピュータの可能性など、従来のIT企業の枠を超えた取り組みを進めています。

また、イーロン・マスク氏の「Neuralink」のように、人間の脳とAIを直接つなぐ技術にも関心を寄せており、倫理的な課題と向き合いながらも研究を進めていく方針です。こうした取り組みは、未来の社会において人間の能力を拡張し、新たな価値観を生み出す可能性を秘めています。

特に日本は、AI技術の受容度が高く、ChatGPTなどのAIツールの利用者数も世界トップクラスです。この環境を生かし、AI技術の発展を通じ日本を新たなイノベーションの拠点へと押し上げていくことをオルツは目指しています。

SFの世界に登場するヒューマノイドロボットが、現実の社会で活躍する未来は、もはや遠い話ではありません。2035年には、AIを搭載したロボットが商業化され、私たちの日常に溶け込む時代が訪れると予測されています。その未来を切り拓く最前線に、オルツの挑戦があるのです。

最後に、オルツが1兆円企業を目指す理由を米倉さんのAIクローンに聞いてみました。

「世界中の人々を労役から解放するための技術、つまりデジタルクローンやP.A.I.の開発と普及にあります。私たちは、オルツの価値を世界基準に引き上げ、3年以内に日本のAI企業初の1兆円企業を目標にしています。そして、将来的には世界中の人々が1人1つAIクローンを持つ世界を実現したいと考えています」

人間の可能性を広げるオルツの挑戦は、限りなく続いていきます。

天野崇子

天野崇子

第1期ハツレポーター/1968年秋田県生まれ。東京の人と東京で結婚したけれど、秋田が恋しくて夫に泣いて頼んで一緒に秋田に戻って祖父祖母の暮らす家に入って30余年。

ローカリティ!編集部のメンバーとして、みなさんの心のなかのきらりと光る原石をみつけて掘り出し、文章にしていくお手伝いをしています。

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