過疎地から生まれた高品質ブランド地鶏「阿波尾鶏」で地域再生に挑む <貞光食糧工業株式会社 辻 貴博さん>【徳島県つるぎ町】

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地域に根ざし、鶏肉の生産・加工事業を行う企業が、困難な環境下で新たな挑戦に取り組んでいます。四国の限られた資源を最大限に生かし、ブランド地鶏「阿波尾鶏(あわおどり)」を通じて、地元の特性を生かしながら、全国にその価値を広めています。地元の農業や経済を支えるだけでなく、持続可能な未来を目指し、成長を続けているのが貞光食糧工業株式会社(以下、貞光食糧工業)です。

貞光食糧工業株式会社代表取締役の辻さん

貞光食糧工業株式会社が実現しようとする未来とは何か。代表取締役社長 辻 貴博さんに、その挑戦の原点と展望についてお聞きしました。

四国発、地域を生かしたたブランド地鶏「阿波尾鶏」の誕生

四国という地理的・経済的に不利な環境で、どのようにして差別化を図り全国で通用するブランドを作り上げるか。この企業は、その挑戦を昭和から続けています。もともとは麦の精麦事業からスタートし、その後、事業の多角化を進める中で養鶏事業に目を向け、成長を遂げてきました。昭和44年に鶏の処理工場を立ち上げ、次に手がけたのが、徳島県の地元と連携して開発したブランド鶏「阿波尾鶏」です。

四国は、大規模な農場を作るには不利な地域であり、また輸送コストも高くつきます。しかし、この企業はその逆境を逆手に取り、小規模農家を巻き込みながら高品質な鶏肉を生産することで、他にない差別化を実現しました。小ロットでの生産により、鶏のストレスを最小限に抑え、肉質の向上にも成功。阿波尾鶏は、地域ブランドとして日本全国に認知されるまでに成長しています。

社員との対話の末、品質強化へ新たな挑戦

現在の代表が就任したのは、41歳の時でした。それまでは営業や経営の基礎を学び、家業である鶏肉の加工事業に従事していましたが、経営者として引き継ぐ際には、大きな課題がありました。社内には、伝統的な硬直した文化が根強く、新しいことに対する抵抗があったといいます。特に、品質管理のためのISO認証取得に向けた取り組みでは、社内の多くの抵抗や障壁に直面しました。

しかし、辻さんは「もっと良い会社にしたい」という信念のもと、品質管理の徹底や人事制度の改革など、地道な努力を積み重ね、改革を進めました。現在では、従業員の育成を重視し、農家との連携も強化することで、地域全体に貢献する企業へと成長しています。

後継者育成支援によって、支え合う地域農業へ

貞光食糧工業の大きな強みは、地域の農家や労働者との密接な関係を築いている点です。四国という地域は過疎化が進んでおり、農家の高齢化や後継者不足が深刻な課題となっています。そこでこの企業は、若い世代や外国人労働者を積極的に採用・育成し、地域農業の持続可能性を高める取り組みを行っています。農家への支援として、重労働をサポートするための技術提供や、若手農業者の育成を通じて、地域農業の再生を目指しています。

また、従業員に対しては、目標管理制度を導入し、個々の成長を促す育成型の人事制度を採用しています。これにより、従業員が自ら成長を実感できる環境を整備し、企業全体の成長を後押ししています。

品質を支える加工技術とトレーサビリティ

この企業が目指すのは、単なる養鶏業の拡大ではなく、食文化全体への貢献です。鶏肉の生産から加工、販売までを一貫して行い、トレーサビリティを確保することで、安全で高品質な製品を消費者に提供しています。特に、鶏の処理過程においては、空気冷却方式を採用しており、一般的な冷水による冷却よりも肉質が水っぽくならないという特徴があります。この技術は、他社にない強みとなっています。

さらに、鶏肉を熟成庫で15時間以上熟成させ、死後硬直を経た後、硬直が解ける時に解体することで、肉の縮みや硬化を防ぎ、より柔らかくジューシーな肉質を実現しています。この熟成技術をライン化しているのは全国でも少数です。この企業は、鶏肉の加工品製造にも力を入れており、唐揚げや照り焼きなどの製品も全国に供給しています。さらに、地元の米を活用した新たな食品事業にも挑戦しようとしており、地域の資源を最大限に生かした事業展開を目指しています。

地元への感謝と未来を見据える経営者の食と流通への思い

辻さんの思いは、地元への感謝とともに地域を支える存在であり続けることです。過疎化が進む中で、地元の農家や労働者との共存共栄を目指し、地域に密着した経営を行っています。また、地域に新たな価値を生み出すために、常に新しい挑戦を続け、これからの食文化を支える一翼を担う企業として成長し続けたいという強い思いがあります。

また、地域の未来を支えるためには、現状に甘んじず、常に新しい挑戦を続けることが重要だと辻さんは語ります。加工品の製造だけでなく、EC販売の拡大や、農業とIT技術を組み合わせた効率化など、新しいビジネスモデルにも積極的に挑戦し、「これからの食文化を創り出すために、地元と共に歩み続ける企業として、これからも努力します」と、辻さんは語りました。

聞き手、執筆者:木場晏門

木場晏門

木場晏門

香川県三豊市

編集部記者

神奈川県鎌倉市生まれ藤沢市育ち、香川県三豊市在住。コロナ禍に2年間アドレスホッピングした後、四国瀬戸内へ移住。webマーケティングを本業とする傍らで、トレーニングジムのオープン準備中。

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