株式会社COMMUNE 代表取締役
Ryo Ueda
上田 亮氏
ショップや飲食店のロゴやパッケージデザインをはじめ、企業のブランディングやプロデュースまで幅広く手がける北海道の株式会社COMMUNE(コミューン)。クライアントの悩みに対して一から考え、デザインで問題を解決していく同社の代表・上田 亮(うえだ りょう)さんは、1年のうち1カ月をスウェーデンで暮らす「1/12SWEDEN PROJECT」や、仕事と暮らしがつながるシステムづくりを実践。その活動や思いについて話を伺いました。
2年半の会社員生活を経て独立。顧客開拓で行ったこととは
デザインを始めたきっかけをお聞かせください。
滋賀県信楽町生まれで、実家が信楽焼の窯元だったこともあり、幼い頃から自然ともの作りに興味がありました。高校卒業後はデザインとは関係のない札幌の大学に進学しましたが、卒業後に「やっぱりデザインがしたい」という気持ちがあって。そこからデザインの専門学校に入り直しました。
2000年頃はクリエイターブームがあり、Macさえあれば何でも作れると、若いクリエイターが活躍している時期でした。僕たちも学生の頃からその姿に憧れていて、すぐに独立してフリーランスとして働きたいという思いを持っていました。ただ、実際に食べていくだけの仕事を得るのは単価的にも数的にもこなせないという実感がありましたので、足りない知識や経験を増やそうと思い、デザイン会社に就職しました。
そこから独立にいたるまでの経緯を教えてください。
就職後は2年半デザイナーとして実務をこなしていました。その会社は比較的代理店の仕事が少なく、飲食店やホテルなどの多ジャンルの直案件が多かったですね。今ほどブランディングという言葉は使われていませんでしたが、トータルでクライアントの仕事を請け負うことが多かったです。
忙しかったですが、デザイナーとしてはいい勉強をさせてもらいましたし、仕事環境には恵まれていたと思います。でも、自分の力でやってみたくて04年10月に独立を決意。そこから1カ月間スウェーデンに行き、翌年からフリーランスになりました。クライアントもなく、すぐに仕事もありませんでしたので、最初は地道に開拓する日々でしたね。どこに人との出会いがあるか分かりませんので、学生の頃から常にポートフォリオを持ち歩いていましたし、会社を辞めてからもいろいろな人に見せていました。ときには居酒屋で隣り合わせになったおじさんにも見せるなど、かなり必死でしたね(笑)。そうこうしているうちに人とのつながりも生まれ、1年半後にはスタッフを1人雇えるくらい仕事が広がっていました。
国内外からも注目され、自然と人が集まるように。社名に込めた「仲間と一緒に何かをしたい」
会社を設立しようと思ったのはなぜですか?
「仲間と一緒に何かをしたい」という思いが強かったですね。「共同体」の意味を持つ「COMMUNE」という社名も、そんな思いからつけました。最初のメンバーは母校の先生に相談して後輩を紹介してもらいましたが、そのうち一緒に働きたいという人が自然と集まってくるようになり、国内外からインターンの申し込みも増えました。現在はインターンや海外在住も含めて8人のスタッフが在籍しています。
海外と日本とでクリエイティブへの向き合い方の違いを感じますか?
一般的な労働意識や人生観に大きな違いはあると思いますが、クリエイターは時間があればそれを新たな可能性に全部つぎ込みたいと思ったり、時間ギリギリまで努力します。それは日本も海外も変わらないと思いますね。
今でも世界各国からポートフォリオが送られてきますが、経済成長中の国は比較的商業的なデザインが多く、ヨーロッパはもう少しパーソナルなものやコンセプチュアルなものが多いと感じます。
悩みや必要なことの本質を読み解いて言語化。デザイン会社でも「約7割はブランディング」
現在のメインの仕事を教えてください。
いわゆるルーティンの仕事はほとんどありません。独立当初は広告やポスターなどのグラフィック色が強かったですが、次第にクライアントの依頼が、ロゴやパッケージ、ブランドコンセプトなどをトータルで考えるブランディングやコンサルティングの役割に変わっていきました。
クライアントは飲食店やアパレルショップ、農業・漁業者、エネルギー系企業など幅広いです。それぞれがきちんと利益を生み出すようにブランドコンセプトを考えたり、ロゴや既存商品のパッケージリニューアル、商品開発などを行ったりしています。
デザイン会社ながら手を動かすことが比較的少なく、仕事の約7割はブランディングの言語化に費やしています。悩み相談に対して何が必要かを考え、応えるのが僕たちの役割ですね。
デザインをするうえで大切にしていることは何ですか?
デザイナーは比較的アーティスト的に捉えられることが多いと思いますが、僕たちの場合は表層的にデザインをたくさん提案して好みで決めてもらうということはしません。デザインをするうえで「本質的であること、シンプルであること、美しいこと、機能的であること、協同的であること、永続的であること」を大切にしていて、しっかりとクライアントにヒアリングをし、相手にとって何が必要か本質の部分を読み取ったうえでコンセプトを組み立て、それに基づいたデザインを提案しています。
1年のうち1カ月のスウェーデン暮らし。事務所を道内移転し、ライフスタイルストアやカフェも運営
1年のうち1カ月をスウェーデンで過ごしていると聞きました。なぜスウェーデンなのですか?
大学時代にスウェーデンのストックホルムに短期留学をしていたので友人もいますし、コネクションもあって。少し言葉も勉強していましたので、それを生かしたいという思いもありました。
スウェーデンはヨーロッパのなかでは比較的日本人と人間性が似ています。口数は多くなく落ち着いていて、人を慮(おもんぱか)れる人が多いです。一緒にいて居心地がいいですね。
会社員時代は忙しくてなかなか行くことができませんでしたが、退社して久しぶりに行ってみたらやっぱりいいなと思って。何かしらスウェーデンと関わりたいと思い、11年から毎年行くことを決めました。
スウェーデンではどのように過ごしているのですか?
スウェーデンの朝は日本の夕方なので、午前中はリモートでミーティングや仕事をして、午後は現地で友人たちと遊んだりしています。旅行というよりは普通に暮らすという感じでしょうか。途中からそれもプロジェクトにしたら面白いと思い、「1/12 SWEDEN PROJECT」と名付けて1年のうち1カ月をスウェーデンで過ごしています。
今はパソコンがあればどこでも仕事ができますし、何より日本にスタッフがいてくれるので安心して留守にできます。
昨年は事務所の移転もありましたね。
そうですね。23年に前の事務所のビルが取り壊しになったため、札幌の中心部から手稲区に移転しました。前より広くなった建物の1階には、ライフスタイルストア「WONDERING(ワンダリング)」とイベント&レンタルスペース「VOID(ボイド)」、コーヒースタンド「YETI STANDING(イエティスタンディング)」を設け、YETI STANDINGオリジナルブレンド豆で淹れるコーヒーを提供しています。営業は金〜日曜のみですが、オープン以来たくさんの地域の方たちが足を運んでくださいます。
ソフトクリームは砂川の岩瀬牧場のもので、さっぱり系でおいしいですよ。僕の地元の滋賀県の信楽町に朝宮という日本最古といわれているお茶の産地があってそこの抹茶とほうじ茶と煎茶を仕入れてカフェラテやアフォガードにもアレンジしていますので、ぜひ味わっていただきたいですね。
ショップに並ぶ商品は、僕が旅先で見つけたプロダクトやいい作り手のもの、10年以上前に出合ったもの、実際に自分が使っているものなどをセレクトしています。まだ取り扱いにはいたっていない商品もこれから少しずつ紹介していきますので、楽しみにしていてください。
仕事と暮らしがつながる「ワークアズライフ」が理想。“たくさんデザインを見る”大切さ
カフェの運営やイベントの企画なども行っていますが、その背景にはどのような思いがあるのですか?
デザイナーは一見キラキラしているように思われがちですが、実は超労働者です。時間と成果が比例しないことも多いですし、クオリティーを追求すればその分時間もかかります。どうしたってプライベートな時間は削られるので、ワークライフバランスを取るのは不可能だとすら思っていました。
そんなときに出会ったのが「ワークアズライフ」という言葉です。個人的にやりたいことが仕事につながったり、仕事がプライベートとつながって半分趣味みたいな状態を成立させる。そうすれば仕事も生活も豊かになると知り、これなら自分でもできるんじゃないかと思ったんです。
例えば、エネルギーを自給自足するオフグリッドの実現に向け、専門家を呼んでソーラーパネルを自作するワークショップを行ったり、ヴィーガンカフェを通して社会問題に触れたりするなかで事業になり、さらに自分の暮らしや生き方にもいい影響を与える。そんなシステムを作っていけたらいいなと思っています。
そういった働き方を続けていくために、一緒に働くスタッフにはどういったことを求めますか?
デザインに関わるスタッフに関しては当然デザイナーとしての高いレベルが必要ですが、僕たちの仕事は考えるところから始まるので、同じように考える力も求められます。今は異業種経験者が増えていますが、彼らは主体性や能動性が高く、物事を自分事として捉えられる。それにより自然とできる仕事も増えますので、そういう意味では主体性と能動性があるといいですね。
最後にクリエイターを目指す人にアドバイスをお願いします。
今までは先を見ながら仕事をしてきましたが、40歳を越えた時点で人生の折り返しを意識するようになりました。時代も変わっていますし、僕が辿った道が今の人に同じようにあるか分かりませんが、若い人にいろいろ自分が経験したことを伝えたいですね。
例えば、良い料理人になるために大切なことは3つ。1つめが、良いものを食べて美味しさを感じられる舌を肥やすこと、2つめが、なぜそれが美味しいのかを理解すること、3つめが、それを再現する技術。その3つのステップをクリアして初めてちゃんとした料理ができる。それはデザイナーも同じです。若いときにそれが分かっていれば、自分が今何をすればいいかが見えてくると思います。
それと、いい映画監督が誰よりも映画を見ているように、デザイナーを目指している人にはたくさんデザインを見てほしいです。その蓄積がいずれ自分に返ってきますから、とにかくいろいろなデザインをしっかり見ることを大切にしてほしいです。
取材日:2024年9月13日
株式会社COMMUNE
- 代表者名:上田 亮
- 設立年月:2005年1月(2012年4月法人化)
- 資本金:300万円
- 事業内容:パッケージ、グラフィック、Webサイトなどのデザイン。企業やショップのブランディングなど。
- 所在地:〒006-0832 北海道札幌市手稲区曙2条3丁目5-35
- URL:https://commune-inc.jp
- お問い合わせ先:011-797-4561
この記事は株式会社フェローズが運営する、クリエイターに役立つコンテンツを発信する「クリエイターズステーション」にも掲載されています。