株式会社技研製作所は、1967年に高知で土木工事会社として創業しました。その後、自らの工事現場で直面した騒音や振動の問題を解決するため、1975年に世界初の油圧式杭圧入引抜機「サイレントパイラー™」の1号機を完成させ、建設機械メーカーへと事業を広げてきました。現在、その技術は40以上の国と地域で使われています。

同社が広げてきたのは、機械だけではありません。施工する会社が技術を身につけ、地域で仕事を生み出せるようになるまで支える。その根底には、現場の仕事に最後まで責任を持ち、人と機械を大切にする姿勢があります。
1981年の入社以来、国内の施工現場と10年以上にわたる海外事業を経験し、現在は代表取締役社長 CEOを務める大平厚(おおひら・あつし)さんに、土木工事会社から世界初の技術を生み出した歩みと、その技術を人とともに世界へ広げる挑戦を聞きました。
目次
振動と騒音を出す側だった土木工事会社が、「静かに押し込む」という答えをつくった
技研製作所の原点は、創業者で現代表取締役会長の北村精男(きたむら・あきお)さんが、自分たちの工事現場で直面した矛盾にあります。
北村さんは1967年、高知で土木工事会社「高知技研コンサルタント」を創業しました。当時は高度経済成長期。道路や建物などの建設が全国で相次ぎ、同社も杭施工をはじめとする基礎工事を手がけていました。
しかし、当時の杭打ち工事では、大きなハンマーで杭をたたいたり、振動を加えたりする方法が主流でした。工事をすれば大きな音と揺れが生じ、近隣の住宅では屋根瓦がずれたり、壁にひびが入ったり、時には住民が眠れないほどの騒音になることもありました。
社会に必要な道路や建物をつくっている一方で、その工事によって地域の人たちを苦しめている。
北村さんの会社にも、周辺住民から苦情が寄せられました。
「このような仕事を続けていては将来がない。もっと静かに杭を入れる方法はないか」
建設会社として工事を請け負う中で、自分たち自身が出していた振動や騒音を、仕方のないものとして受け入れなかった。それが、技研製作所の技術開発の出発点でした。
北村さんは無振動・無騒音で杭を施工できる機械を探しましたが、国内外を見ても実用的なものはありませんでした。
それなら、自分たちでつくるしかない。
現場で杭を扱ってきた経験から生まれた発想をもとに、垣内商店(現・株式会社垣内)創業者で機械技術者の垣内保夫さんと試行錯誤を重ね、1975年にサイレントパイラーの第1号機を完成させました。

機械の重さではなく、地盤の抵抗を力にする。サイレントパイラーの圧入原理
物を強く押すと、押した側には反対向きの力が返ってきます。その力に負けないよう、一般的な建設機械は機体を重くして安定させます。一方、サイレントパイラーは、すでに地中へ入れた杭を複数つかみ、その杭が抜けまいとする「引抜抵抗力」を、機体を支える反力として利用します。
機械本体が既設杭をしっかりつかむことで、杭を押し込む際に機体が浮き上がるのを防ぎ、その反力を次の杭へ集中させます。大きく重い機体を用意しなくても、地盤が杭を保持する力を生かして、大きな圧入力を発揮できる仕組みです。
「すでに打った杭を介して『地球をつかみ』、その力で次の杭を押し込む仕組みです。大きなハンマーで力いっぱいたたくような方法とは、原理そのものが違います」
サイレントパイラーは、既設杭から反力を得るため、機械を小さく、軽くできます。騒音や振動を抑えられるだけでなく、住宅が密集する場所、橋の下、道路や線路のそばなど、広い作業場所を確保しにくい現場でも使えます。

「私たちが機械をつくる際の原点は、『小さく、軽く、美しい機械』です」
技術を大きく見せるために、機械を大きくするのではありません。周囲の暮らしや交通への負担を小さくしながら、必要な構造物をつくる。その考え方が、機械の姿そのものに表れています。
現場で覚えた「仕事に銘を打て」
大平さんは、施工現場からキャリアを始めました。 1981年、現在の株式会社技研施工へ入社。最初の約10年間は現場監督として、道路、下水道、橋などをつくる一般土木工事に携わりました。
当時の技研グループは、自ら一般土木工事を請け負う一方で、サイレントパイラーを使った専門工事も全国へ広がり始めていた時期でした。
やがて会社は、一般土木工事の元請けから撤退し、サイレントパイラーを使う専門工事へと軸足を移していきます。大平さんもその流れの中で、一般土木の現場から専門工事へと仕事の場を広げ、その後は東京、大阪、海外へと活動の場を移しながら、技術の普及に携わっていきました。
そうした40年以上の仕事人生を通じて、大平さんが大切にしてきたのが、同社の社是「仕事に銘を打て」です。
「刀に作者の銘が刻まれるように、『この橋は自分がつくった』『この仕事は自分が担当した』と胸を張って言える仕事をしなければなりません」
大平さんが現場監督だった頃、高知市の追手筋で、電線を地中へ移し道路を整備する工事を担当しました。
「今でもそこを通ると、少し舗装の状態が気になったりします。それだけ、自分が担当した仕事には思い入れがあります」
自分が手がけた仕事は、その後も道路や橋として街に残り、人の暮らしを支え続けます。だからこそ、自分の仕事に最後まで責任を持つ。大平さんにとって「仕事に銘を打つ」とは、安全に仕事を進めることも、現場を整えることも、機械を丁寧に扱うことも、その一部です。
「環境整備は当社の文化です 。『人を大切にし、機械を大切にする』。この二つは、私が入社した頃からずっと言われてきた言葉です」
整理された現場は事故を防ぎ、手入れされた機械は故障を防ぐ。そうした一つひとつの積み重ねが、最後に「自分がやった」と胸を張れる仕事につながっていきます。
現場監督から専門工事、海外事業、そして経営へと立場が変わっても、「仕事に銘を打て」という言葉は、大平さんの仕事の軸であり続けています。
「百聞は一見に如かず」技術を伝え、人を育てる仕組み
取材に先立ち、筆者は高知県香南市にある圧入技術の情報発信基地「RED HILL 1967」を見学しました。まず目を引いたのは、機械や作業空間が隅々まで整えられていたことです。大平さんが語った「環境整備は当社の文化です」「人を大切にし、機械を大切にする」という言葉は、方針として掲げられているだけではなく、現場の状態そのものに表れていました。


創造館には、世界の杭打ち機や歴代のサイレントパイラーが並び、実証展示場には圧入工法でつくられた構造物があります。模型や図だけではつかみにくかった仕組みも、実機と完成した構造物を前にすると、「地中の杭が持つ大きな抵抗力を、次の杭を押し込む力へ変える」という発想として理解できました。筆者自身、実物が持つ説得力を感じました。
こうした「実物を通じて理解する」仕組みは、技術者の育成にもつながっています。兵庫県丹波市の関西工場には、国内外のオペレーターやメカニックが、座学、シミュレーター、実習を通じて、圧入機の操作、組立・分解、メンテナンスを体系的に学ぶ「圧入道場」があります。
高知で技術の意味を見せ、関西で技術を扱う人を育てる。機械だけを売って終わらない姿勢は、施設のつくりにも貫かれています。

「圧入は、言葉や図だけではなかなか理解してもらえません。そこで、実際の機械、工法、完成した構造物を見てもらい、圧入技術の優位性を体感してもらうために、この施設を整備しました」

機械を売って終わらない。使う会社が利益を上げてこそ、技術は地域に根づく
技研製作所は、サイレントパイラーを販売するだけでは、技術は社会に広がらないと考えています。
機械を購入した施工会社が正しい技術を身につけ、現場を成功させ、事業として利益を上げる。その姿を見た地域の会社が、自分たちも取り組みたいと思う。大平さんは、この積み重ねによって市場が生まれると話します。
「反対に、最初に導入した会社が『この機械は駄目だ』となれば、その地域では広がりません。ですから、1社1社と一緒に仕事をし、確実に育て、きちんと利益を上げてもらうことを大事にしています」
技研製作所は、自ら施工して技術を磨くだけでなく、機械の操作、施工技術、点検や整備まで継続的に支援しています。独自の機械を売ることよりも、それを使う人が仕事を成功させられるかどうかに責任を持つ考え方です。
「高知でつくった技術を、高知の企業とともに世界へ広げていきたいと考えています」
1台の機械から、施工する人が育ち、地域に仕事が生まれ、次の現場へ技術が渡っていく。技研製作所がつくってきたのは、製品だけではなく、人と仕事が続いていく仕組みです。

日本の技術者を送り続けるモデルから、現地の人が市場を動かす仕組みへ
大平さんは、国内の施工現場から海外へと活動の場を広げ、米国、アジア、欧州のグループ企業で事業を担ってきました。10年以上にわたって海外を見てきた大平さんが、最大の課題として挙げるのは「現地化」です。
技研製作所の技術はすでに世界各地で使われていますが、大平さんは「海外はまだこれから」と見ています。日本から技術者や整備担当者を送り続けるのではなく、現地で人を育て、その地域の人たちが中心となって市場を広げていく。その仕組みをつくることが次の課題です。
今後、特に力を入れようとしている地域の一つがインドです。2025年にはグジャラート州アーメダバードに拠点を設け、現地企業と連携しながら市場づくりを進めています。
「日本でここまで広げられた。海外はまだ十分に開拓できていない。だからこそ夢がある。まだまだ広がる」

その視線は、さらに月へ向かっています。同社は、水や空気に頼れない月面でも杭を施工できる技術の研究を進めています。そこで成立する技術は、地球上の施工方法を大きく変える可能性もあります。
大平さんは、研究に取り組む社員へこう伝えています。
「もし月でそのまま杭を入れられたら、地球上でも革命が起きる。何とか実現する方法を考えよう」
工事の騒音と振動に悩む人を守りたいという思いから始まった技術は、半世紀をかけて世界へ広がりました。その技術を受け継ぐ人を育て、現地の仲間と市場をつくり、まだ誰も正解を知らない月面へ挑む。仕事に銘を打つ人たちの歩みが、次の時代の建設を変えていきます。
聞き手・執筆:木場晏門
※筆者撮影写真以外はすべて株式会社技研製作所提供
最も印象に残った言葉
「この橋は自分がつくった、この仕事は自分が担当したと胸を張って言える仕事をしなければなりません」
「もし月でそのまま杭を入れられたら、地球上でも革命が起きる。何とか実現する方法を考えよう」
会社概要
会社名:株式会社技研製作所
取材対象者:代表取締役社長 CEO 大平厚さん
パーパス:オンリーワンの技術で人命・財産・文化を未来につなぐ
創業:1967年1月1日
設立:1978年1月6日
事業内容:無公害工法・産業機械の研究開発、製造販売、レンタル、建設工事、コンサルタント業務 、土木施工技術・工法の研究開発、これらに関する海外事業
本社所在地:高知県高知市布師田3948番地1/東京都江東区有明3丁目7番18号
URL:https://www.giken.com/ja/






