
「技術社員を企業に送り出す」
この表現だけを見ると、人手不足を補う技術者派遣を想像する人もいるかもしれません。しかし、株式会社ヒップの事業の本質は大きく異なります。
株式会社ヒップは、顧客企業内で開発を支援する技術社員たちが安心して帰ってこられる“ホーム”をつくる会社として1995年に誕生しました。バブル崩壊期に、会社の都合で翻弄(ほんろう)される技術者の姿を見た創業者の「技術者のための会社をつくりたい」という純粋な思いが原点です。
現在、全国約800名の設計開発エンジニアが、大手メーカーを中心に約200社の開発現場で活躍しています。人を中心に据えた経営を貫き、業務を専門性の高い設計開発分野に絞り込むことで、“生涯技術者”として成長し続けられる環境を整えてきました。

「ハイブリッドな技術者のホームであり続ける」という使命、そして“社員アップデート”を掲げるこれからの挑戦について代表取締役社長・田中伸明(たなか・のぶあき)さんにお話を伺いました。
目次
創業の原点にある「人を大切にする」という思想
1970年代に始まった技術者派遣の仕組みは、高度経済成長期にともなう急速な製品開発に対応するためのものでした。しかし、その後のバブル崩壊によって、多くの技術者が会社の事情で突然職場を失うなど、会社の都合に振り回される状況が広がっていました。
田中さんは、創業者・田中吉武さんの思いについてこう語ります。
「会社の事情に合わせて人が振り回される。そんな働き方では、技術者が幸せになれない。技術者出身の創業者は、その疑問からヒップを立ち上げたんです」
この疑問から始まった「人を大切にする」という原点こそ、ヒップの企業文化の根底にある価値観です。
設計・開発分野にこだわり続ける理由
多くの技術者派遣会社が事業領域を広げる一方で、ヒップは創業以来、業務を設計開発分野に限定してきました。設計開発はものづくりの根幹にあたる領域であり、技術者が本物の専門家として成長していくためには、ここで得られる経験の積み重ねは欠かせません。

手広く事業を広げるのではなく、設計開発というコア領域に集中してきたのは、技術者一人ひとりが深い専門性を育み続けられる環境を守るためです。
ヒップが長年にわたり信頼されてきた背景には、こうしたコア領域からぶれない姿勢があります。
変化の時代に求められる「壁を越えて価値をつくる力」
技術者に求められる役割は、この数十年で大きく変わりました。かつて外部の技術者は、人手不足を補うための存在として扱われることが多くありましたが、今では企業が直面する複雑な課題をともに解決し、新しい製品やサービスを生み出すための専門家パートナーとして期待されています。

田中さんは、この変化を技術者にとっての新しいチャンスだと感じています。社名の由来にもなっている「Hybrid Innovation Project」(HIP)は、1980年代に造船業が国際競争で苦境に陥った際、会社の垣根を越えて優秀な技術者が集まり、より良い船をつくろうと挑戦したプロジェクトがルーツです。
異なる企業の技術者が境界を越えて力を合わせることで、新しい価値が生まれたのです。その「壁を越えて価値を作る力」こそがヒップの原点であり、現在にもつながっています。
実際、ヒップのエンジニアたちが多様な現場へと飛び込み、そこで得た経験や視点が、別の現場で生かされることは珍しくありません。ある現場で培った知識が、別の業界の製品開発のヒントにつながり、小さな改善が積み重なって大きな成果を生むこともあります。
田中さんは、こうした現場から生まれる気づきこそが、技術者の価値を高め、顧客企業のものづくりを前に進める原動力になると考えています。
ヒップは、ただ技術者を送り出す会社ではありません。目指しているのは、企業の壁を越えて学び合い、経験を混ぜ合わせながら、新しい価値を生み出せる技術者が育つ“場”であることです。
ここに、ヒップという会社の特異性がはっきりと現れています。
ヒップが大切にしてきた“技術者を育てる文化”
ヒップの強さを語るとき、外せないのが技術者を育てる文化です。人を中心にした経営を掲げる同社では、技術者を一つのリソースとしてではなく、“共に未来をつくる仲間”として捉えてきました。
ヒップの教育は「スキルを身につけるための研修」という枠には収まりません。新卒や未経験者が最初に学ぶ基礎研修から、専門分野の技術教育、さらには社会人としての姿勢を磨くプログラムまで、すべてが長く活躍する技術者を育てるために丁寧に設計されています。

研修を受けた社員が現場に出て、そこでの経験を持ち帰り、次の世代に伝えていく。そんな自然な循環が、会社全体の成長を支えています。
近年では、本社ビルを拠点に始まった「ナレッジシェア」という取り組みが、社員の学びをさらに広げています。

例えば、あるベテランエンジニアが長年の経験を語ると、若手は自分の現場と重ねて新しい視点を得る。別の若手が失敗談や工夫を話せば、周囲が刺激を受け、自分自身をアップデートしようとする。年齢も役職も超えて知識が行き交うその空気には、技術者としての誇りと、互いを尊重する文化が根づいています。
田中さんは常々、「技術者が長く活躍し続けるためには“学びを止めない意識と環境”が欠かせない」と語っています。技術の進化は速く、一度身につけた知識だけでは通用しない時代になりました。だからこそ、ヒップでは“アップデート”という価値観を大切にし、人が自ら成長したいと思えるような環境づくりに力を注いできました。
技術者一人ひとりが自分のキャリアに誇りを持ち、学び続けることを楽しみにできる。ヒップの育成文化には、そんな“技術者としての生き方”を支える力があります。
30年後の技術者像と、組織の未来
さらに急激に変化している時代の中で、ヒップはこれからどこを目指していくのでしょうか。
田中さんは、次のように語ってくれました。
「正解がなく変化が大きい今、技術者は一つの会社の中だけで成長し続けるのが難しい時代になっています。だからこそ、壁を越えて学び、壁を越えて働くことが必要になる。私たちは、そんな技術者が安心して挑戦できる“ホーム”であり続けたいと思っています」
技術者の未来に寄り添いながら、会社も共に成長していく。
ヒップが描く新しい時代の姿は、技術者が自分らしく働き続けられる社会の実現につながっています。
最も印象に残った言葉:
「正解がなく変化が大きい今、技術者は一つの会社の中だけで成長し続けるのが難しい時代になっています。だからこそ、壁を越えて学び、壁を越えて働くことが必要になる。私たちは、そんな技術者が安心して挑戦できる“ホーム”であり続けたいと思っています」
※写真はすべて株式会社ヒップ提供
企業情報
会社名:株式会社ヒップ
取材対象者:代表取締役社長 田中伸明さん
設立年月:1995年9月13日
ミッション:ハイブリッドな技術者の「ホーム」であり続ける。
事業内容:機械設計、電気・電子設計、システム設計の技術サービスを提供するアウトソーシング事業(技術者派遣、業務請負)URL:https://www.hip-pro.co.jp/
所在地:神奈川県横浜市西区楠町8-8






