
明治元年創業のホットマン株式会社は、150年以上にわたり東京・青梅の地で繊維製品の製造に取り組んできました。1963年から開始したタオルづくりでは、織りから染色、縫製、検査に至るまでを自社で担う「一貫生産」に加え、自社直営店で販売まで行う「製販一貫」の体制を構築した国内で唯一の存在です。現場を知る坂本 将之(さかもと まさゆき)社長は「現場が止まれば会社は止まる」と語り、理念である「快適で心豊かな生活に貢献する」を判断軸に、本物を追求し続けています。
目次
デニム好きで入社。原点に立ち返る「ものづくり出身」の社長
明治元年に創業し、150年以上の歴史を刻むタオルメーカー・ホットマン株式会社。東京・青梅を中心に、織りから染色、縫製、検査、販売に至るまで、すべての工程を自社で担うことができる「製販一貫」の体制を守り続けています。この仕組みは、国内のタオル業界において唯一無二の存在で、国内のあらゆる産業においても製造から販売まで一貫して自社で行っている稀有な企業です。
舵を取るのが代表取締役の坂本氏です。岡山県出身で、高校時代は古着屋に通っていたデニム好き。信州大学繊維学部に進学し、ホットマンに入社。織機や染色など現場で汗を流し、ISO事務局、工場長を経て、2015年に7代目代表取締役に就任しました。ホットマン創業家とも直接接点を持った最後の世代でもあり、経営の原点を知る数少ない存在です。
長らく営業畑や財務畑の経営者が続いていた同社において、「ものづくり出身」のトップが誕生。背景には、業界全体の厳しさと「原点に立ち返る」という強い意志がありました。
「日本のタオル業界は、人口減少や贈答文化の衰退、さらに中国・ベトナムからの安価な輸入品の増加によって非常に厳しい状況にあります。そんなときこそ、“ものづくり”が原点であるべきだ、と会社は判断したのだと思います」と坂本氏は語ります。
現場に敬意を払い、本物を追求する製販一貫の姿勢



坂本氏の言葉から伝わってくるのは、自身が工場で働き続けてきたからこその現場に対する揺るぎない敬意です。「現場が止まれば会社は止まる。私は方向を示すだけで、価値を形にするのは現場の人間です」
織りから染色、縫製、検査、販売に至るまで、すべての工程を自社で担うことができる仕組みは、「肌に直接触れる製品だからこそ、すべてに責任を持ちたい」という信念から生まれました。糸一本から販売までを自分たちの目で確かめることで、初めて「本物」を名乗れる。坂本氏は「本物とは何かを、今も現場とともに探し続けている」と語ります。その姿勢こそが、ホットマンを唯一無二の存在にしているのです。
コロナ禍の混乱時期に、マスクを製造するという案が出たときに、坂本氏は「混乱の中、急ピッチでの商品作りをするにあたっては、性能を保証できないと判断し、マスクは作らないと決断した」と言います。苦渋の判断で、今も正しかったかと思い悩むことがあるという坂本氏ですが、本物へのこだわりを軸にした決断でした。
社会に対しても「快適で心豊か」。理念からの逆算でフェアトレード製品づくりがスタート
「『快適で心豊かな生活に貢献する』という経営理念は存在意義であり判断軸。何か決断をするときには必ず立ち返ります」と坂本氏。この理念は、「一貫生産の製品づくり」に生かされているのはもちろん、社会や環境への姿勢にも表れています。
坂本氏が仕入れ担当だった頃、タオルの原料である綿の世界にも僅かながら搾取の構造が存在することを知りました。「毎日触れている綿にもこんな現実があるのかと、強いショックを受けました」。そこから「タオルに関わるすべての人が快適で心豊かな生活を送れているか」という理念を逆算し、公正な取引によって開発途上国で働く人を支えるフェアトレード認証を取得した製品づくりがスタートしました。
寄付ではなく、自立を支援する仕組みとして現地とともに歩む、この選択も理念にある、「快適で心豊かな生活」を追求する姿勢の表れなのです。
技術をつなぐ挑戦。「本物」を作り続けるために

未来に向けて坂本氏が強調するのは、人材の育成と技術継承です。「人の手だからこそ生まれる品質を守りたい」という坂本氏は効率化のための自動化や設備刷新を進めつつ、「どこを機械化し、どこを人の手に残すのか」というバランスを模索しています。次の世代にも「本物を作る喜び」を伝えて、ホットマンのタオルを社会に提供し続けたいと考えています。
思いの原点には、本社で開催された工場感謝祭での体験があります。ものづくりを担う社員が接客に立ち、お客さまから「このタオルが本当に大好き」「最高よね」と直接声をかけられる。若かった坂本氏は「自分が作ったタオルで誰かが喜んでくれている」と実感し、ものづくりの楽しさと責任を深く理解したといいます。
害がある可能性があるものは決して使わず、肌が弱い人が使えないタオルを作りません。
「うちのタオルを買おうとした人が、肌に合わないから買えないってなったら、悲しいじゃないですか?」と坂本氏。誰も悲しませない、どんな人にとっても快適なタオルを作り続けます。
最も印象に残った言葉
「現場が止まれば会社は止まる。私は方向を示すだけで、価値を形にするのは現場の人間です」
【会社概要】
会社名:ホットマン株式会社
取材対象者:代表取締役 坂本 将之さん
設立年月:明治元年
経営理念:お客様の快適で心豊かな生活に貢献する
事業内容:繊維製品の製造・加工および販売
URL:https://hotman.co.jp/
所在地:東京都青梅市長淵5-251




