ローカリティ!時代の開拓者たち

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 「コーヒーが飲めなくなる未来」をなくす。心にゆたかさをもたらす一杯を次の100年へつなぐキーコーヒーの覚悟【東京都港区】

4 min
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  • コーヒーの2050年問題
インドネシアの直営農園(パダマラン農園)でコーヒーの木を観察する柴田さん

1920年、横浜の小さなコーヒー店から始まった キーコーヒー。 「コーヒーを究めよう。お客様を見つめよう。そして、心にゆたかさをもたらすコーヒー文化を築いていこう。」という企業理念のもと、日本の喫茶文化とともに100年以上歩んできました。 

「誰もがコーヒーを楽しめる世界、おいしいコーヒーに出会う感動を絶えず提供していくために、『コーヒーという情熱』を胸に、挑み続ける」

代表取締役社長の柴田裕さん

そう語るのは、同社代表取締役社長の柴田裕(しばた・ゆたか)さん。 一杯のコーヒーが“心にもたらすゆたかな時間”から、気候変動によって揺らぐコーヒーの未来まで、 キーコーヒーが見据える「次の100年」と、その覚悟を、柴田さんの言葉からひもときます。 

創業の原点にあるのは「新しい時代を開く鍵」 

キーコーヒーの創業は1920年。 当時の日本ではまだ珍しかったコーヒーを扱う店として、横浜で産声を上げました。創業期には、関東大震災をはじめ、事業の継続そのものが危ぶまれる出来事も起こりましたが、そのたびに知恵を絞り、歩みを止めることなく、コーヒーと向き合い続けてきました。 

「創業当時、コーヒーは“新しい時代の扉を開く鍵”のような存在でした。その思いを込めて、キーコーヒーという名前を付けたと聞いています」 柴田さんは、祖父から受け継がれた社名のエピソードをそう語ります。 コーヒーは単なる嗜好(しこう)品ではなく、文明や文化、人々の生活そのものを象徴する存在であるという捉え方が、原点にあります。

父から受け継いだのは、「コーヒーで世界を見る視点」 

直営農園看板の前で

柴田さんが語るキーコーヒーの価値観の根底には、父であり、先代経営者から受け継いだ思いが大きく影響しています。 

「父から教えられてきたのは、コーヒーそのものだけではありません。『コーヒーを通して世界を見る』という視点でした」 

1970年代、まだ「サステナビリティ」という言葉が一般的でなかった時代から、キーコーヒーは海外の生産地と真正面から向き合ってきました。インドネシア・スラウェシ島でキーコーヒーが展開している農園事業も、その一つです。 

現地赴任社員と直営農園でコーヒーの苗木観察をする柴田さん

「現地の人たちが安定した生活を送らなければ、良いコーヒーは生産できません。父は、常に“コーヒーの向こう側に人がいる”という考え方を大切にしていました」 

コーヒーの品質を守ることと、生産者と一緒においしいコーヒーをつくるという思想は、今も柴田さんの軸のひとつになっています。 

企業理念は、一杯のコーヒーと向き合い続けた価値観の結晶 

「コーヒーを究めよう。お客様を見つめよう。そして、心にゆたかさをもたらすコーヒー文化を築いていこう。」 

現在掲げられているこの企業理念は、創業以来、一杯のコーヒーと誠実に向き合い続けてきた歩みのなかで、大切にされてきた価値観の結晶です。

一杯のコーヒーの背景にある人の営み、生産地の暮らし、飲む人の時間、そしてその先に続く未来。そうしたすべてを見つめ続けてきたからこそ、今の理念にたどり着いたのです。 

だからこそキーコーヒーは、ただ“売り続ける”ためではなく、“心にゆたかさをもたらすコーヒー文化を築く”ために、コーヒーと向き合い続けています。 

「誰でも、簡単に、おいしく」そして「楽しく、興味深く」が信頼を積み重ねてきた 

心にゆたかさをもたらす文化を築くためにキーコーヒーが大切にしてきたこと。それは「コーヒーに関して、信頼度No.1の会社であること」。その信頼は、どのように築かれてきたのでしょうか。 

「私たちはこれまでの100年、『誰でも、簡単に、おいしく』を大切にしてきました。そして次の100年に向けては、『楽しく、興味深く』という視点から、コーヒーの魅力を広げていこうとしています」柴田さんは同社の根幹にある価値観を語ります。 

象徴的な取り組みが、1955年から70年以上にわたって続く「コーヒー教室」です。一般の生活者から、喫茶店やホテルの現場で働く人まで、幅広い人たちとコーヒーを介して向き合ってきました。

コーヒー教室の様子

「教えることだけではなく、一緒に学んできた感覚もあります。現場の声を聞き、それを商品づくりや品質向上に生かしてきました」 

この姿勢は、生産地との関係にも一貫しています。それは柴田さんが父から受け継いだ、“コーヒーの向こう側に人がいる”という考え方そのものです。 「生産者の思いがあって初めて一杯のコーヒーになります。それを、日本のお客様にもきちんと伝えたい」 と柴田さん。

生産地では、キーコーヒーが求める厳格な品質基準を満たした豆を「TYPE KEY(タイプキー)」と呼びます。それは単なる呼称ではなく、品質への考え方そのものが現地と共有されている証しでもあります。 

コーヒーが飲めなくなるかもしれない「コーヒーの2050年問題」

「コーヒーの2050年問題」栽培適地減少のイメージ図

キーコーヒーにとって、次の100年に向けて、避けて通れない課題があります。 

気候変動によるコーヒー生産の危機、「コーヒーの2050年問題」です。 気候変動は、コーヒーの生産環境そのものを揺るがしています。 世界で最も多く飲まれているアラビカ種は、寒暖差のある高地など限られた環境でしか育たず、平均気温の上昇や降雨パターンの変化によって、将来アラビカ種の栽培適地が大幅に減少すると予測されています。

専門機関の試算では、現在のアラビカ種の栽培適地が、2050年までに半減する可能性も示されています。「コーヒーが当たり前に飲めなくなる未来」が、現実的なリスクとして語られているのです。 

この課題に真正面から向き合うため、キーコーヒーはいち早く外部への発信を始めるとともに、コーヒーの未来を守るために向けた取り組みを推進すべく「コーヒーの未来部」を立ち上げました。 

「コーヒーの未来部」では、気候変動が生産地にどんな影響をあたえているかの現地調査や、気候変動に適応する品種開発につながる栽培試験など、生産地での持続可能な取り組みを進めています。 

心にゆたかさをもたらすコーヒー文化を100年先に手渡すために 

近年、ライフスタイルの変化に合わせコーヒーの飲み方や楽しみ方は多様化しています。柴田さんはその状況を十人十色ではなく、「一人十色」と表現します。 

「コーヒーの楽しみ方は多様化し、『一人ひとりに、それぞれの楽しみ方』があるだけでなく、一人の人が複数の楽しみ方を見つけています。味や飲み方を楽しむだけではなく、コーヒーの裏側にある物語や生産地についてまで深掘りすることも楽しみ方のひとつです」と、言葉を続ける柴田さん。

私たちが何気なく飲んでいる一杯のコーヒーには、遠く離れた生産者の方々の思いや物語が存在します。コーヒーを飲むときに、そのことにも目を向けることで見えてくるものもありそうです。このコーヒーはどうやって私たちの手元に届いているのか。どんな人と人の物語が、そしてつながりがあったのか。そのつながりが忘れ去られたとき、「コーヒーが楽しめる日常」は、静かに失われていくのかもしれません。

「だからこそ、キーコーヒーはコーヒーへの情熱を胸に歩み続けます。生産地とのつながりを守り、コーヒーを未来につなげていく。喫茶文化の伝統を守り続けていく覚悟が、私たちの原動力です」

創業から100年以上にわたる歩み、受け継いできた生産地との関係、そして「コーヒーの未来を守る」ための使命。柴田さんの言葉には、経営者としての責任と、文化を託された者としての重みがにじみます。 

コーヒーを究めること。 お客様を見つめ続けること。 そして、心にゆたかさをもたらすコーヒー文化を、次の100年へ手渡すこと。 

「コーヒーが飲める未来をいつまでも」キーコーヒーが描くのは、一杯のコーヒーを通じて「人と人」「生産国と消費国」がつながり続ける未来です。

※記事中の写真・画像はすべてキーコーヒー株式会社提供

最も印象に残った言葉:
「現地の人たちが安定した生活を送らなければ、良いコーヒーは生産できません。父は、常に“コーヒーの向こう側に人がいる”という考え方を大切にしていました」
 

企業情報

会社名:キーコーヒー株式会社
取材対象者:代表取締役社長 柴田裕さん 
創業年月:1920(大正9)年
企業理念:コーヒーを究めよう。お客様を見つめよう。そして、心にゆたかさをもたらすコーヒー文化を築いていこう。
事業内容:海外におけるコーヒー農園事業から、コーヒーの製造、販売ならびにコーヒー関連事業経営に至るまでのコーヒーに関する総合企業
所在地:東京都港区西新橋2-34-4URL:https://www.keycoffee.co.jp/

天野崇子

天野崇子

副編集長/第1期ハツレポーター/1968年秋田県生まれ。東京の人と東京で結婚したけれど、秋田が恋しくて夫に泣いて頼んで一緒に秋田に戻って祖父祖母の暮らす家に入って30余年。

ローカリティ!編集部のメンバーとして、みなさんの心のなかのきらりと光る原石をみつけて掘り出し、文章にしていくお手伝いをしています。

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