
日本では、書類整理の方法として穴を開けてひもでつづるのが一般的だった1927年。既存のやり方を前提から問いなおし、「整理」という行為そのものを変えようとした創業者・宮本英太郎氏の発想から、キングジムの歴史は始まりました。
2027年に創業100周年を迎える株式会社キングジム(以下、キングジム)は、ファイルやラベルライター「テプラ」に代表される文具・電子文具を軸に、近年では家具やキッチン雑貨などのライフスタイル分野へと事業領域を広げています。
2024年に同社代表取締役社長に就任した木村美代子(きむら・みよこ)さんは「キングジムは文具ではなく、文化をつくる会社」だと語ります。キングジムが100年にわたり問い続けてきた「整理」の思想と、今も変わらず挑戦し続ける理由を木村さんにお伺いしました。
目次
常識を超え、「ファイリング」という文化を生んだ創業者の発想
キングジムの原点は、整理の方法としてひもで書類をつづるという当時の常識を、そのまま受け入れなかったところにあります。創業者・宮本氏は発明家として、はがきの表面(宛名面)を一覧できるファイル人名簿を考案しました。

木村さんは、キングジム創業期のものづくりについてこう語ります。「最初から『文具をつくろう』というよりも、『どうしたら情報を扱いやすくできるか』を考えていたのではないでしょうか」
その発想はやがて、1964年に発売されたパイプ式ファイル「キングファイルG」へとつながり、日本に「ファイリング」という新しい整理の文化を根づかせていきました。 単なる道具ではなく、仕事の進め方そのものを変える。キングジムのものづくりは、創業当初から“文化をつくる”ことに向いていたと言えます。

ものづくりへの姿勢は後に、「独創的な商品を開発し、新たな文化の創造をもって社会に貢献する」というキングジムの経営理念となっていきました。
独創的な商品の開発と新たな文化の創造。この循環が、100年にわたって受け継がれています。
紙はなくならない。ファイルの存在そのものを変えた「テプラ」

パソコンやコピー機などが普及しはじめた1980年代、「書類はペーパーレス化されるのではないか」と言われていました。しかし、従来の制度や業務慣習の壁もあり、紙は減るどころか、むしろ増えていきました。
キングジムはそうした状況を予測し、「どう整理し、どう共有するか」という課題に先立って取り組んでいました。その問いに応える形で1988年に生まれたのが、ラベルライター「テプラ」です。ラベルライターとは、ラベルに文字や記号を印刷できる電子機器のことで、「テプラ」はキーボードで文字を入力しボタンを押せば、簡単に印刷することができ、ラベルの剥離(はくり)紙をはがして貼るだけで、ラベリングすることができます。
ファイルの背表紙をきれいに表示することで、情報の所在が一目でわかる。「テプラする」という言葉が生まれるほど、整理の行為そのものが社会に浸透していきました。
「テプラ」は、単に文字を印字する機械ではありません。ファイルを「個人の管理物」から、「組織で共有する情報」へと変えるための道具でした。
木村さんは、ファイルの本質についてこう語ります。
「ファイルは、ひとりで見るためのものではありません。会社で使う以上、誰でも開けて、差し替えやすく、何が入っているかが一目でわかることが大切なんです」
情報を囲い込むのではなく、開き、共有し、次の行動につなげていく。「一人のものから、オフィスのみんなのものへ」その発想こそが、キングジムが生み出してきた整理の文化です。
“ファイルの会社”にとどまらないために。「どんな価値を提供したいか」を突き詰める
その後、時代とともに人口減少やペーパーレス化が進み、ファイル市場は次第に縮小していきました。「ファイルの会社」として知られてきたキングジムにとって、事業のあり方そのものを問い直す転換期でもありました。
文具という軸にとどまるのか、それとも発想を広げるのか。キングジムが選んだのは、事業の多角化でした。2001年にフォトフレームなどを取り扱っていた長島商事株式会社(現:株式会社ラドンナ)をグループ会社化。その後M&Aを通じて事業領域を広げ、家具やキッチン雑貨、アーティフィシャルフラワーなど、ライフスタイル分野を展開。現在では、グループ会社が生み出す売り上げ全体の約4割を占めています。

「文具も、暮らしを構成する一つの要素です。だったら、暮らし全体をもっと良くする提案ができてもいいと思ったんです」この判断の背景について、木村さんはこう語ります。
重要なのは、「何を売るか」ではなく、キングジムが問い続けてきた「どんな価値を提供する会社でありたいのか」を突き詰める文化でした。
整理とは、書類だけの話ではなく「働く環境、暮らしの動線、気持ちの切り替え」それらすべてを含めて整えていくことなのではないか。こうしてキングジムは、「文具の会社」という枠を越え、「暮らしや働き方を整える会社」へと、自らの立ち位置を広げていきました。


丸いドーナツで感謝を伝える「サンクスドーナツ」。人と人の関係を整える
キングジムの特徴は、製品だけにとどまりません。社内の文化づくりにも、「整理」や「共有」という思想が貫かれています。

オフィスには、部門を越えてアイデアを持ち寄るための「Meets(ミーツ)」という共創スペースが設けられています。また、朝礼後にはQRコードを使って感想や気づきを集め、現場の声をそのまま次の改善につなげていく仕組みもあります。トップからの一方通行ではなく、日々の小さな気づきが自然と循環していく仕組みです。
勤労感謝の日には、「サンクスドーナツ」と名付けた取り組みも行われています。会社から社員一人ひとりに、丸い形に「感謝がつながっていくように」という思いを込めたドーナツを贈ります。受け取った社員は、感謝の気持ちを写真とともに社内共有ツールへ投稿する取り組みで、マスコットキャラの「キングファイルくん」のかぶり物をしたり、おそろいのポーズをとったりと新しいコミュニケーションが生まれました。
誰かの「ありがとう」が見えることで、職場の中に小さな会話や笑顔が生まれていく。キングジムが大切にしているのは、会社が何かを一方的に与えることではありません。感謝や気づきが行き交う“場”や“きっかけ”を、そっと手渡すことなのです。
木村さんはこう話します。
「整理って、モノを片づけることだけじゃないと思うんです。人と人の関係を整えることでもあるんですよね」
だからこそキングジムは、コミュニケーションが自然に生まれる「場」をつくり続けています。整理の先に、人の動きや会話が生まれること。その積み重ねが、キングジムらしい文化を形づくっているのです。
「新しい整理」とは何かを問い続ける。100年先もユニークな提案を
「成功体験にしがみつかず、変わり続けることが大事だと思っています」と、木村さん。
キングジムでは、文具という枠にとどまらず、工場の現場や幼稚園など従来の枠組みでは捉えきれなかった場所に向けた提案も始めています。安全を伝える表示、子どもが迷わず動けるためのサインなど、整理や表示の工夫によって、人の動きや安心感が変わっていきます。
ラベルライター「テプラ」も進化を続けています。書類整理のためだけでなく、リボンに印字して気持ちを伝えたり、文字や表示の工夫で場の雰囲気をやわらかく整えたりなど、「表示」や「整理」は、効率化のためだけのものではなく、気持ちや関係性をつなぐ手段へと広がっています。

さらに、AIやデザインの力を掛け合わせ、「整理」や「表示」の価値を、これまでにない形で届ける構想が動き始めています。
「50年後、100年後も、ユニークな提案をし続ける会社でありたい。全員が『クリエイティブ集団』であり続けたいんです」
創業者の発明から始まった「整理」の思想は、時代を超えて受け継がれてきました。そして今もキングジムは、この時代にふさわしい「新しい整理」とは何かを問い続けています。
その問いこそが、次の文化を生み出していくのです。
※写真はすべて株式会社キングジム提供
最も印象に残った言葉:
「成功体験にしがみつかず、変わり続けることが大事だと思っています」
企業概要
会社名:株式会社キングジム
取材対象者:代表取締役社長 木村美代子さん
創業年:1927年
経営理念:独創的な商品を開発し、新たな文化の創造をもって社会に貢献する
事業内容:文具・事務用品、ライフスタイル用品の企画・製造・販売
所在地:〒101-0031 東京都千代田区東神田二丁目10番18号
URL:https://www.kingjim.co.jp/






