送迎、電球交換、産直…地域と生きる総合スーパー。課題を可能性に変える“秋田の未来づくり”〈株式会社マルシメ遠藤宗一郎さん〉【秋田県横手市】

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秋田県横手市十文字(じゅうもんじ)にある株式会社マルシメ(以下マルシメ)は、昭和20年代に遠藤商店として酒類の小売販売を始め、1961(昭和36)年に法人化されました。

同社が運営する「スーパーモールラッキー」では食料品・日用品はもちろん、書籍、カー用品、ホームセンター、アウトドアショップなど、約3500坪の広さの店舗に多様な商品が並んでいます。

このほか、同社では秋田市や大仙市のほか、県外にも数店舗を構えるなど、挑戦を続けています。

父が病に倒れ、20代で社長に。競合が相次いで開店、経営危機に 

代表取締役の遠藤宗一郎(えんどう・そういちろう)さんは、もともと都内で大手コンビニエンスストアの運営会社に勤務していました。しかし、父親の急病をきっかけに帰郷し、2006年に、20代の若さでマルシメの社長に就任します。

遠藤さんは「まさに大混乱のさなかでした」と、当時を振り返ります。

大型店舗の出店に対する規制が緩和されたことで、マルシメの店舗周辺にはショッピングモールや専門店が次々と開店していたといいます。

かつて年間50億円を超えていたマルシメの売り上げは徐々に下降し、2011年には30億円ほどにまで落ち込みました。

遠藤さんは店舗の統廃合や人員の整理といった苦渋の決断を迫られ、現実と向き合う精神的なプレッシャーや、数字通りにうまくいくのかという不安などから眠れないこともあったといいます。

▲遠藤宗一郎さん(左)と、当時の遠藤さんを支え続けたゲストリレーション部部長・柴田一幸さん(右)※筆者撮影

ほかのスーパーにはない魅力をもつ店舗へ

経営立て直しの柱として遠藤さんが注力したのが、地域密着型の店舗づくりです。

秋田県の主要産業は農業ですが、重労働で収入が安定しづらいなどの理由から、いつまで営農できるか分からないという農家も少なくありません。

遠藤さんは、農家を応援することでその所得を高め、秋田県を元気にすることにつながるとの考えから、店内に設けた「ファーマーズマーケット」コーナーで、農家や加工業者に売り場を提供する試みを始めました。

この取り組みは、マルシメの顧客にとっても地元の新鮮な野菜や果物、懐かしの郷土食などが購入できるとして喜ばれています。

現在はマルシメの各店舗でも産直商品の取り扱いを行っており、契約農家も約550件まで広がっています。

▲人気コーナーのファーマーズマーケット。地元の新鮮な野菜や果物、懐かしの郷土食が並ぶ。なかでも旬の時期には特産のリンゴが多品種そろい、圧巻の品ぞろえに※筆者撮影

スーパーモールラッキー店内のファーマーズマーケットに隣接する食品売り場では、青果コーナーや鮮魚コーナーに東京・豊洲市場から直接仕入れた全国えりすぐりの商品が並びます。ガラス張りの鮮魚コーナーでは、担当スタッフがその場で魚をさばき、刺し身やすしとして提供されています。

▲豊洲市場から仕入れた魚を店内でさばき、刺し身やすしにして並べる鮮魚コーナー※筆者撮影

店内中央部には、遠藤さんがこだわって作ったコミュニティスペースも広く設けられています。

隣接する自社運営のレストランComer+(コメール・プラス)では、イタリアに本拠地を置くナポリピッツァ職人協会の認定を受けたシェフが薪窯(まきがま)で焼いたピッツァやファーマーズマーケットの産直野菜を使った総菜を味わうことができます。

買い物や食事だけでなく、地域の集まりなどにも気軽に利用でき、地域のコミュニティ活動を応援する場所となっています。

▲地域の憩いの場にもなっている広々としたコミュニティスペース※筆者撮影
▲県外からも顧客が来店するというアウトドアショップでは、定番商品からこだわりのある商品まで幅広く取り扱われている※筆者撮影
▲お買い物バス乗り場※株式会社マルシメ提供

さらに、人手不足などの影響で路線バスの減便・廃線が相次いでいたことから、車を持たない高齢者や交通手段のない方のために、2011年から無料で利用できる会員向けの「お買い物バス」の運行をスタート。

運行は平日5日間で、14ルートを回ります。そのひとつである、人口約330人(2025年3月末時点)の豪雪地帯・横手市増田町狙半内(さるはんない)地域では、狙半内共助運営体と運行協定を結び、バスの運行をともに行うことで”地域の足”を担っています。

▲冬のお買い物バス運航のようす※株式会社マルシメ提供

秋田県は、全国の中でも特に少子高齢化が進んでいる地域です。スーパーモールラッキーがある横手市も例外ではなく、平成初期に約12万人いた人口は、現在では約8万人にまで減少※1。そのうち65歳以上の高齢者の割合は、実に40.78%※2にのぼります。マルシメのお買い物バスの年間利用人数も約1万7000人となり、2024年にも地域からの要請を受けてバスの運行ルートの拡大・見直しを行いました。

一方で、人件費や燃料費が高騰している中、車両費や運行費をすべて自社で負担しているため、持続可能な取り組みにできるかどうか模索が続いています。2024年に初めてクラウドファンディングを実施したところ、利用者の家族や地域住民、地域出身者などから、多くの応援が集まったといいます。

“暮らしの相談窓口”を目指す「お客様サポートサービス」

お買い物バスの運行は、マルシメにとって顧客とのつながりの強化や地域の新たなニーズの掘り起こしにもつながりました。

▲お客様サポートサービスでは、さまざまな困りごとに応じたサポートを行っている※株式会社マルシメ提供(過去のチラシのため金額などは現在と異なる可能性があります)

例えば、高齢になると、家の電球が切れて電球を買って帰っても、自分で脚立に登るのが不安で、電球の交換ができないことがあります。高齢者のみの世帯が増える中で、これまで各家庭で当たり前のように担ってきた生活の役割が、少しずつ担いきれなくなっています。

そこで、草刈りや雪囲い、清掃、電球の交換など暮らしの困り事に関する相談を受け付け、その解決につながるサービスを提供しています。

▲お客様サポートサービスのようす
※株式会社マルシメ提供 

顧客の多様なニーズに応えられるよう、地域の事業者などと「マルシメネットワーク」を形成し、顧客からの相談内容に応じて事業者と共にサービスを提供する仕組みです。

「買い物ついでに、ちょっと相談」。日々の買い物はもちろん、生活の中で生じるさまざまな困りごとにも応えられる“暮らしの相談窓口”のような存在を目指しています。

アイデアをつなぎ、新たな世界を広げる

「就任当初、最悪の状態からのスタートだったので、ストレスにはだいぶ耐性がつきました」。 そう笑う遠藤さんの原動力は、苦境を乗り越えた経験と、幼い頃からレゴやゲームなどで親しんできた「ゼロから世界をつくり上げる楽しさ」にあります。

課題にぶつかるたびに、「どうアイデアをつなぐか」を考える遠藤さん。ヒントや着想を得るために幅広い分野にアンテナを張り、時にはYouTubeを眺めながら新たな発想を探ることもあるといいます。

 「たぶん、ものを売ったり、考えたりすることが、もともと好きなんでしょうね」と、遠藤さんは笑顔を見せます。

未来をつくるスーパーモールへ

そんな遠藤さんがたどり着いたのは、地域密着型の経営。人口が減少し、市場の縮小や地域課題の複雑化が想定されているからこそ、現状維持では留まらず、常に一歩先の展開を見据えています。

今後は、ファーマーズマーケットでつながった地元の生産者たちと連携し、「秋田でしか生まれない商品」を展開していく構想もあるのだとか。合わせて、「食を核にした豊かなライフスタイル」を提案し、地域コミュニティの中心となるスーパーモールを他地域にも展開していきたいという夢も描いています。

「やりたいことは、まだまだ山ほどあります。 秋田という土地は、暮らすには本当にいい場所。生活を支える収入の選択肢がもっとあればと思います」

地域の雇用を生み出し、働き方の幅も広げながら、「暮らしを支えるスーパー」から、「未来をつくるスーパー」へ。マルシメは、今日も一歩ずつ歩みを進めています。

出典:横手市ホームページ ※1住民基本台帳人口※2年齢別人口(令和5年度)https://www.city.yokote.lg.jp/shisei/1001179/1001479/1003655.html

情報

株式会社マルシメHP:https://sm-lucky.com

天野崇子

天野崇子

第1期ハツレポーター/1968年秋田県生まれ。東京の人と東京で結婚したけれど、秋田が恋しくて夫に泣いて頼んで一緒に秋田に戻って祖父祖母の暮らす家に入って30余年。

ローカリティ!編集部のメンバーとして、みなさんの心のなかのきらりと光る原石をみつけて掘り出し、文章にしていくお手伝いをしています。

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