「米がない!?」日本の農業の現状を楽しみながら知って欲しい。秋田から世界に体験を広げる個人農家の挑戦【秋田県秋田市】

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秋田県秋田市雄和地区で農業を営む「農家キク」の代表で山内朋宏(やまうち・ともひろ)さん。山内さんは普段、警備の仕事をしながら、原木しいたけ栽培や米の栽培をしています。

年々減少する日本の農業生産人口を危惧し、少しでも農業のことを知って考え行動する人が増えてほしい、そんな思いで自宅の敷地や水田で、農業体験を広く伝える活動をしています。

原木しいたけができるまで

しいたけ栽培を始めるにはまず原木を伐採しなければなりません。最も適しているのは、主にクヌギ、コナラ、ミズナラで、カシ、シイ類なども利用できるそうです。 山が紅葉し始めた頃から春の新芽が出るまでの期間に、原木の伐採が始まります。その後伐採した原木にしいたけの植菌作業(原木に種菌を植え付ける事)を進めます。使用する原木の数や太さ、発生の開始時期など様々な品種や種菌のタイプも変わります。「オガ菌」「駒菌」、山内さんの家ではこの二種類が用いられています。

▲山内さんが使用している種菌(筆者作成)
▲山内さんの家で行われている原木しいたけ栽培。

植菌された原木はほだ木とよばれます。植菌作業後、菌糸の活着(植菌した菌糸が原木に移り、伸長し始める事)を図るため、ほだ木を棒積み(横積み)にし、日当たりの良い林の中に置いたり、また、ハウス内で行う場合や裸地や庭先など、乾く場所によっては覆いをして保湿が必要です。

しいたけの発生量や発生時期は、使用した品種やほだ木の状態、環境等によって変化しますが、自然発生の場合、本格的に発生が始まるのは植菌して二夏経過後で、4年から5年継続します。

しかし、しいたけを定期的に発生させる目的で、ほだ木を浸水させることによって年間の発生量は多くなりますが、発生期間は2年から3年と短くなります。

上質なしいたけを栽培するのには、原木の伐採から植菌、ほだ木の環境の整備など、手間のかかる作業がとても多く、個人で取り組むには大変な労力が必要です。

環境の変化と米の価格の変化。このままでは食糧不足になってしまう!

米の栽培については、ここ数年は敷地内にクマが出没したり、暑い日が続いたりと作業がはかどらないことが多いそうです。

山内さんが5年ほど前から育てている有機栽培米は、化学農薬を使用せず栽培するため、普通の栽培法なら8〜9俵収穫できるところ、雑草や害虫・病気などの影響があり、状態の良い年で6〜6.5俵ほどの収穫になります。しかし、人手が足りず、毎年だいたい2〜3俵ほどの収穫しか見込めないそうです。

新型コロナウィルスの影響で外食向けの米需要が落ち込み、米の価格が下落しました。現在、米の価格は飲食や観光の需要により上がってきたところですが、安全安心な米を提供するために有機栽培に取り組んでいる山内さんのところでは、元が取れていない状態だそうです。農政による何らかのサポートがあればそのようなミスマッチが発生せずに済むのではないかと山内さんは考えています。

「日本酒の国内の需要は伸び悩んでいるものの、海外への輸出が伸びつつある。日本政府も2030年に農林水産物・食品の輸出額5兆円を目標に掲げており、チャンスは十二分にあるといえる。しかし、現状のままでは、個人の農家は経営が立ち行かなくなり、このままでは食糧不足になってしまう可能性がある」と山内さんは嘆いています。

そこで2022年から、多くの人にその問題点や実際の作業を知ってもらうために、自宅近くにある国際教養大学(AIU)と提携して農業体験イベントを行うことを思いつきました。

国際交流を通じて日本の農業を知ろう

2022年から始まった農業体験は、AIUの世界各国の様々な留学生が参加し、賑わいを見せています。

▲田植えの様子。地元の子供達も参加している。

2023年からはKids Village Akita(キッズ ヴィレッジ アキタ)という市民団体を通じて、地元の子供達にも農業体験と田舎暮らしを経験してもらうべく、様々なボランティア活動も行っています。

▲除草作業中のAIUの学生

これらのイベントには「日本の農業がこのままでは立ち行かなくなる。なんとかしなければならない。秋田、ひいては日本の食文化を維持していきたい」という山内さんの熱い思いが原動力となって継続して行われています。

作業後には、山内さんの家族の手料理がふるまわれ、秋田の郷土料理や山内さんの栽培したしいたけを味わうことができます。

▲留学生には自国の農業の基礎となるように体験させている

より深いつながりを求めて

▲地域のイベントで日本酒をふるまう山内さん

過去に秋田県埋蔵文化財センターに勤務したことがあり、日本の歴史に興味があり詳しい山内さん。また、日本酒や陶芸品にもとても詳しく、自身のコレクションの器で日本酒を楽しんでもらいたいという思いで知り合いを招待し、2010年から「日本酒の会」を随時開催しています。

「知り合いが知り合いを連れてきて続けているうちに、たくさんの人が参加してくれるようになりました。この場所は秋田空港からほど近い場所。県内だけでなく県外からも訪れる人が増えました。そこにAIUなどの農業体験をしてくれる人や地域の子どもも加わり、国際色豊かで年齢もバラエティ豊かになりました。秋田の自然の豊かさや貴重な農業体験、歴史について話したりお酒のおいしさや陶芸品について話したり、さまざまな活動を考えてやっています。団体でも個人でも参加してくださる方がいらしたら大歓迎します!」

▲クマによって古いほこらが破壊されてしまい、修復と同時に新築をしたので山内家には二つのほこらがならんでいる。

大学生や留学生、地域の子どもやそこに集まる人たちのつながりが生まれています。そこに集まる人たちそれぞれの立場の相互理解にもなり、知識を共有できる非常に素晴らしいイベントが個人農家である山内さんの発案から生まれています。

「米がない!」などと騒がれている昨今、少しでも多くの人に農業に興味を持ってもらえれば、秋田の農業をはじめとした日本の農業がより良い方向に進んでいくのではないでしょうか?

関わりしろ

農業体験
稲刈り・9月中旬
しいたけ原木伐採・11~4月
田植え・5月中旬
有機栽培米の水田内の除草作業・5月下旬~6月下旬ころ
草刈り・6~9月

日本酒の会

不定期開催(2か月に1回程度)

問い合わせ先

農家キク

代表:山内朋宏
住所:〒010-1211 秋田市雄和椿川字中村71
Email:shanneipenghong@gmail.com

「あきたの物語(https://kankei.a-iju.jp/)」は、物語をとおして「関係人口」の拡大を図ることで、県外在住者の企画力や実行力を効果的に生かした地域づくりを進め、地域の課題解決や活性化を促進する事業として秋田県が2023年度から始めました。秋田県や秋田にまつわる「ローカリティ!」のレポーターや地域の関係者が、秋田県各地の人々の活動を取材し「あきたの物語」を執筆して秋田県を盛り上げています。

亀田健太

亀田健太

秋田県大仙市

第7期ハツレポーター

1995年生まれ。生まれも育ちも秋田育ちで、大学時代に観光学科に所属してました。ローカリティ!の一員として秋田の魅力を発信していきます。

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