ローカリティ!時代の開拓者たち

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つくるだけで終わらせない。農業総合研究所が描く持続可能な農産業のかたち【和歌山県和歌山市】

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安心安全な食生活を支える野菜や果物が、どこから、どのように届いているのかーー。
和歌山県和歌山市に本社を置く株式会社農業総合研究所(以下、農業総合研究所)は、日本の農産物の約7割がスーパーマーケットを通じて消費されると言われるなか、その「流れ」そのものをつくり変えようとしています。2007年の創業以来、「農家の直売所」「産直事業」などを通じて、生産者と生活者をつなぐ新しい流通プラットフォームをつくってきました。

この変革の中心にいるのが、創業者であり現在は会長を務める及川 智正(おいかわ・ともまさ)さんです。「持続可能な農産業を実現し、生活者を豊かにする」というビジョンを掲げる及川さんの原点と、持続可能な農産業を目指す同社の挑戦をひもといていきます。

株式会社農業総合研究所会長の及川 智正さん

岩手の実家で抱いた「なぜ、こんなに暮らしが苦しいのか」という違和感

及川さんの原点は、祖父母と過ごすなかで感じた「農家」という仕事への疑問です。お盆とお正月に祖父母が住む岩手を訪れるたび、米づくりをしている祖父母の暮らしぶりを見て、“食べ物をつくる、いちばん大事な仕事をしているのに、どうしてこんなに暮らしが苦しいんだろう”と、子ども心に大きな疑問を抱いていました。

大学は東京農業大学へ進学。「食を支えている人たちが豊かになってほしい」との思いからでした。しかし入学後は勉強一辺倒というわけではなく、「お酒ばかり飲んでいた不真面目な学生だった」と、及川さんは笑います。一方で、卒業論文のテーマとして「日本の農業の未来」を調べたとき、農業人口の減少、高齢化、耕作放棄地の増加、食料自給率の低下と現実の厳しさに直面しました。

「『このままでは日本の農業は本当にまずい』と危機感を持ったことが、今につながる出発点でした」と、及川さんは当時を振り返ります。

ガス会社の営業から、和歌山のきゅうり農家へ

及川さんが新卒で就職したのは、半導体分野向けのガスを扱う会社でしたが、「農業をどうにかしたい」という思いは消えませんでした。

結婚を機に、及川さんは妻の実家がある和歌山へ移住します。実家はきゅうり農家でしたが、後継ぎがおらず、「それなら、まずは妻の実家で農業をやろう」と28歳で会社を辞め、農業生活が始まりました。

最初の1年は、義父のもとで農協出荷を行うきゅうり農家を経験。2年目からは思い切って独立します。自分でビニールハウスを借り、スーパーマーケットを1軒ずつ回ってきゅうりを売りました。結果、1年間の年収はわずか40万円だったといいます。

「さすがにがくぜんとしましたし、子どもも生まれたばかりで、このままでは生活が成り立たない。東京に戻ってサラリーマンに戻ろうかと本気で考えました」と、及川さんは振り返ります。

転機となったのは就農してから3年目のことです。2年目に営業していたスーパーから、「去年のきゅうりは曲がっていたけど評判が良かったから、今年も頼むよ」と注文が入るようになりました。そこで、仲間の農家の野菜を集めたり、加工業者と組んでサラダや漬物をつくったりと、品揃えを増やしていきました。すると、収益は一気に改善したといいます。

及川さんは「『お客様の要望にきちんと応えれば、農業でもちゃんとありがとうと言われるし、利益も出るんだ』と手応えを感じました。僕がやりたかったのは、『農家として儲けることではなく、農業の“仕組み”を変えることだ』と、そこで明確になりました」と、ターニングポイントについて語ってくれました。

生産者と販売者、両方の立場を経てたどり着いた「流通改革」

及川さんは、生産現場ではなく「流通」の側から農業の変革に挑む道を選びます。畑を手放し、大阪・千里で青果店を立ち上げました。“生産と販売、双方の立場を経験したからこそ、見えることがある”と考えたからです。

一方で見えてきた課題がありました。「豊作貧乏」という構造的な問題です。天候に恵まれて質の良い野菜がたくさんできても、市場に出回る量が増え、価格が下がってしまう。収穫量は増えても、農家の手取りはむしろ減ることもあります。宅配便に頼った物流コストも重くのしかかりました。

「それなら自分でつくるしかない」。及川さんは、2007年に手元資金50万円で農業総合研究所を立ち上げました。

「農業はつくるだけじゃない」。産直流通のリーディングカンパニーへ

現在、農業総合研究所は、全国の生産者と都市部のスーパーマーケットをつなぐ「産直流通のリーディングカンパニー」として、新しい流通プラットフォームを構築しています。登録生産者から集荷した農産物を、最短1日で都市部のスーパー内に設けた「農家の直売所」コーナーに届ける「農家の直売所事業」、パッケージやPOPを整えたうえでスーパーに卸す「産直事業」などを展開し、流通総額は年間170億円規模にまで成長しました。

同社のビジョンは、「持続可能な農産業を実現し、生活者を豊かにする」。ミッションとして掲げるのは「ビジネスとして魅力ある農産業の確立」です。社名には、“野菜をつくるだけでなく、食べてもらう・見てもらうところまでをトータルコーディネートする”という決意を込めています。

及川さんは「『顔の見える農家さんの野菜』が、都会のスーパーで当たり前に買える。生産者にはきちんとお金を返し、食べる側には新鮮でおいしいものを届ける。そんなビジネスモデルをつくっている会社が、農業総合研究所です」と、胸を張ります。

実際の集荷の様子

「農業に情熱を」。現場主義の組織と、いい時代を信じる力

農業総合研究所の合言葉は、「Passion for Agriculture(農業に情熱を)」です。
2007年の創業時から18年。資本金50万円で創業した会社は、いまや年間約170億円分の野菜と果物を取り扱う企業へと成長しました。

「決して僕の力がすごかったわけではなく、時代が良かったからだと思っています。だからこそ、今の時代は『いい時代だ』と僕らがちゃんと言わないと、もっと若い世代は希望を持てないのではないかと感じています」と、及川さん。社内には、農家を担当していた会計事務所出身者や、農薬中間物等の化学メーカーの総務から転身してきたメンバーなど、異業種からの転職組も多くいます。彼らは、資金繰りに苦しむ農家の姿を見て、「農業はつくるだけではなく、売る・運ぶといった多様な仕事で成り立っている」ことに気づき、農業総合研究所のビジョンに共感して入社してきました。今では、日本の農業をより良くしたいという高い志を持った仲間が、全国から集まっています。

「うちの強みは、現場主義だと思っています。生産者側の集荷場にも、スーパー側にも営業スタッフがいて、現場に入り込んでビジネスをしている。空中戦ではなく、地に足のついたビジネスをやっていることが、他社にはない特徴です」。

農家の直売所コーナーの様子

失敗を恐れず挑戦し続ける「開拓者」として

最後に、農業総合研究所の未来について、及川さんに尋ねました。

「僕らがやりたいことは一つです。持続可能な農産業を実現し、生活者を豊かにする。そのために、今は流通を中心にコーディネートしていますが、流通がある程度良くなれば、農業に関わる仕事であれば何でもできる会社になりたいと思っています」。

そして、若い世代に伝えたいこととして、こんな言葉を残してくれました。

「挑戦しなければ失敗もしませんが、失敗を繰り返さない限り、農業の課題も自分の人生も変わっていかない。テクノロジーが発達した今は、本当に『いい時代』だと思います。情熱さえあれば、何でもできる時代なんです」。

つくるだけで終わらせず、食べてもらうところまでを農業の仕事と捉える。その視点から「流通」を起点に日本の農業を変えようとする農業総合研究所の挑戦は、私たち一人ひとりに、「自分の仕事を通じて何を良くしていきたいのか」という問いを投げかけているように感じられます。

最も印象に残った言葉:

「挑戦しなければ失敗もしませんが、失敗を繰り返さない限り、農業の課題も自分の人生も変わっていかない。テクノロジーが発達した今は、本当に『いい時代』だと思います。情熱さえあれば、何でもできる時代なんです」。

企業情報

・社名:株式会社農業総合研究所
・取材対象者:代表取締役会長CEO 及川 智正 さん
・ビジョン:持続可能な農産業を実現し、生活者を豊かにする
・ミッション:ビジネスとして魅力ある農産業の確立
・設立:2007年
・事業内容:農家の直売所事業、産直事業 ほか
・本社所在地:和歌山県和歌山市黒田99-12 寺本ビルⅡ 4F
・証券コード:3541(東証グロース)
・コーポレートサイト:https://nousouken.co.jp/

木場晏門

木場晏門

神奈川県鎌倉市生まれ藤沢市育ち、香川県三豊市在住。コロナ禍に2年間アドレスホッピングした後、四国瀬戸内へ移住。webマーケティングを本業とする傍らで、トレーニングジムのオープン準備中。

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