ローカリティ!時代の開拓者たち

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ソース依存から共創体制へ 宮田さんが描く海外と土着の両立【広島県広島市】

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広島発のソースメーカーとして知られるオタフクソースが描くのは、“おいしさ”のその先。

2024年度から始まった中期経営計画において、「食の未来を共創」することを掲げ、国内事業と海外を含む事業と新規事業の二本柱で、新たな市場を切り開いています。その中核を担っている1人が、2025年10月に常務取締役・共創本部 本部長に就いた宮田裕也(みやた・ひろや)さんです。

32年前に入社して以降、国内営業を担当し、2009年から携わった海外事業では体制の立て直しを図り、売上約60億円規模へと導いてきました。現在は“やってみないと始まらない”という精神で、食を通じて人と地域、資源をつなぎ直そうとしています。

お好み焼という“ボーダレスフード”を軸に、世界と地元広島の双方とどう向き合おうとしているのか。宮田さんの言葉から、その考え方と次の一歩をたどります。

オタフクソース株式会社常務取締役・共創本部 本部長 宮田裕也(みやた・ひろや)さん

海外での人気広がるボーダレスフード“お好み焼き”

現在、海外事業全体の売上は約60億円に達しています。特に工場を持つアメリカや中国、マレーシアの拠点が好調です。ソースは、肉料理や揚げ物などさまざまなメニューに使われるようになり、その汎用性が評価されています。

また、日本食レストランでは意外な食べられ方も。

「例えばラーメン屋さんでは、前菜としてたこ焼きが出てくることがある。海外ならではの発想で驚きました」

現場の行動で会社が動く文化

宮田さんがオタフクソースに入社したのは1993年。最初の配属は関西エリアの営業で、大阪や京都、北陸といったまだ商品が並んでいなかったスーパーの売場などを担当しました。その後、東京の営業本部で、スーパーの総菜・デリカ部門の取りまとめを担いました。いずれも「これから伸びていく市場」を任されるポジションで 「今ある仕組みを守るより、新しい市場を切り拓く役割が多かった」と宮田さんは振り返ります。

当時の会社について、「今と比べると人事制度や営業の進め方などは十分に整っていなかった」という宮田さん。一方で、社員の多くは広島出身で会社への愛着が強く、“会社を良くしたい”という気持ちを持っていた」と言います。

6人から再スタートした海外事業が同社の主力へ

大きな転機となったのが2009年。前任者の退職をきっかけに、国際事業部長として海外事業の責任者に就きました。当時の所属は宮田さんを含め6人。主には現地に住む日本人向けで、売上規模も小さく、当時は社内でもまだ存在感が発揮しきれていない部門でした。

そんな海外事業を軌道に乗せるために宮田さんが取り組んだのは、市場拡大よりも部門のマインドづくりでした。「メンバーに一体感がなく、部門としての存在価値が揺らいでいた」と感じたからです。 

少しずつ成果が出てくると、社内での評価が変わり、海外での成功事例が共有されるようになりました。やがて「海外で仕事をしたい」社員が希望してくるようになり、部門の規模と役割は拡大していきました。

部門横断と社内起業で作る挑戦の土台

既存商品の伸び悩みを解決するために、同社は組織体制の見直しを進めています。その取り組みの一つが、共創本部の設置です。マーケティング部、設計開発部、お好み焼文化の普及を担うお好み焼館、新規事業を担当する共創室などを束ね、あらゆる部門を横断して新しい価値づくりを進める役割を持たせています。

社外では、アウトドアブランドや酒蔵と連携しているほか、地元の生産者と協働する加工品づくりにも取り組み、社内だけでなく周囲を巻き込んだ商品開発を行っています。

人の良さを“攻めの力”に変える社風作り

オタフクソースの強みは、「人」だという宮田さん。「真面目で、いい人が多い。特に若い社員はそう感じます」。見学施設「WoodEggお好み焼館」などには多くの来訪者が訪れますが、そこで接する社員がほめられることも多いといいます。

社内教育にも力を入れており、入社1〜3年目までは毎年集合研修を行い、5年目にも集合での研修機会があります。その後も、他部署での実地研修や外部研修の案内、外部プログラムの利用支援などを通じて、学びの機会を個人が選べるようにしています。

一方で、課題も。宮田さんは「元々朗らかな社風なので、先頭を切って新しいことをやる人は多くない」と指摘します。

そんななか、全社員を対象に新しい事業アイデアを募る社内起業チャレンジプログラムを設けることで、社員の挑戦を後押ししています。選ばれたアイデアは、社内の新規事業として実行に移し、将来的に外部起業へつながる可能性も視野に入れています。

「チャレンジの機会を全員に開くことで、新しい行動が生まれるきっかけにしたい」と宮田さんは話します。

お好み焼で世界市場と地元産業をつなぐ

宮田さんは、「地元の生産者や地域の人たちともっと深く関わりを持ちたい」と話します。お好み焼やお好みソース、新商品などで、世界と広島がつながる。オタフクソースはそんな未来を目指しています。

お好み焼は、人と人をつなぐ料理です。海外で日本食が多様な形で受け入れられ、広島にも多くの来訪者が訪れる今、一枚のお好み焼が国や文化を超えた共通の「場」を生みつつあります。オタフクソースはその広がりの先に、「“おいしい”で人と人をつなぎ、地球と共に幸せになる未来」をこれからも実現し続けていきます。

最も印象に残った言葉:
チャレンジの機会を全員に開くことで、新しい行動が生まれるきっかけにしたい

会社概要

会社名:オタフクソース株式会社
取材対象者:常務取締役・共創本部 本部長 宮田裕也(みやた・ひろや)
経営理念:食を通じて「健康と豊かさと和」をもたらし、笑顔あふれる社会に寄与します
創業年月:1922年11月
事業内容:ソース・酢・たれ等の調味料開発製造販売、お好み焼文化普及事業、国内外での食品関連事業 
所在地:広島県広島市西区商工センター7丁目4-27
URL:https://www.otafuku.co.jp/

木場晏門

木場晏門

神奈川県鎌倉市生まれ藤沢市育ち、香川県三豊市在住。コロナ禍に2年間アドレスホッピングした後、四国瀬戸内へ移住。webマーケティングを本業とする傍らで、トレーニングジムのオープン準備中。

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