
質の良いお肉を手頃な価格で食べられるステーキ専門店「いきなり!ステーキ」。お客さまの目の前でその場でカットするスタイルで人気を集め、一時は全国に500店舗を展開しました。しかし、急速な店舗拡大によって珍しさや新規性が喪失し、自社競合などが発生したことにより赤字を出す店舗が多くなり、経営が傾き始めました。
そんな中、いきなり!ステーキを運営する株式会社ペッパーフードサービスの2代目として社長に一瀬健作(いちのせ けんさく)さんが就任。経営再建への挑戦が始まりました。一瀬さんが就任後、ペッパーフードサービスは2年で黒字化。なぜ、2年という短期間で経営再建が図れたのか、そして社長就任までのキャリアや今後の展望について一瀬さんに伺いました。
目次
社長である父の背中を見て育ち飲食の道へ
「私が子どものころ、父が小さな洋食屋を始めました。物心ついたときから店で働く両親の姿を見て育ち、『いつかは飲食の道へ』という思いがあったんだと思います」
一瀬さんの父・邦夫さんは1970年に「キッチンくに」を開業し、その後会社を設立。ペッパーフードサービスの初代社長として経営を担ってきました。邦夫さんの影響を受け、飲食の道を志した一瀬さんは飲食業を学ぶため、20代前半に静岡の人気ハンバーグ店「さわやか」で修行を経験。
「驚いたのは従業員の方々の仕事に対する姿勢です。飲食店での仕事というと、ネガティブなイメージを持たれることが多いのですが、さわやかでは従業員の方々が自発的に会社を良くする動きを行っていたのが印象的でした」
4年ほどの修行を経てペッパーフードサービスに戻り「ペッパーランチ」の現場で店長などを経験した一瀬さん。その後は運営部門や管理部門を経験しました。
いきなり!ステーキ急拡大による業績不振、立て直しのための一大決心

2013年にいきなりステーキの一号店がオープン。質の良いお肉が安価に食べられ、お客さんの目の前でカットするスタイルで話題となり、たちまち人気店となります。店舗数も急拡大し、2019年には全国で500店舗を超えました。
しかし、急拡大により珍しさや新規性が失われ、赤字の店舗が増え始めてしまいます。2019年下期から一部の店舗を閉店し、新規出店の計画を見直すなど、立て直しを図りました。そこに新型コロナウイルスの流行もあり、業績不振に。危機的な状況に陥ってしまいます。
その時、財務を担当し金融機関との交渉の矢面に立っていた一瀬さん。会社を立て直し、会社存続のため、ある一大決心をしました。
「前社長は攻めの経営を大事にしていて、2022年のコロナ禍が少し落ち着いてきた時にも『新店を出したい、新しい挑戦もしたい』と話しました。しかし、会社の業績は下向き、再建を図らないといけない時期でした。前社長と私の間で意見が合わないことも増えてきました。そして、会社や従業員を守るため、自分が社長にならないといけないんじゃないかと思うようになり、前社長から引き継ぐことを決心しました」
2022年8月に父の邦夫さんから引き継ぎ、一瀬さんは社長に就任。当時の心境について「前社長は影響力がとても強い人なので、あえて社長退任後は名誉職や会長などのポジションにもついてもらいませんでした。前社長にはとても寂しい思いがあったと思いますが、私にとっても本当に苦しい判断でした」と話します。
そして、社長を引き継いだ一瀬さんのペッパーフードサービス再建の挑戦が始まります。
堅実な事業再建をしつつ、新業態にもチャレンジ
社長就任後も会社のピンチな状態は続き、赤字が続いている状況でした。そこで一瀬さんが取り組んだのがメニューの改定。肉のクオリティーを下げずに原価率を下げるためにメニューを見直し、段階的な値上げも行っていきました。そして、過剰であった店舗数を減らすため、赤字幅が大きい店舗の閉店も行っていきました。その結果、2024年8月には黒字化を達成しました。
そして、長期的に持続可能な経営をしていくため新たな事業の柱を作る取り組みも実施。「私たちはいきなり!ステーキに代表されるようにカウンタービジネスを得意としているので、ゆっくりとカウンターに座りながら質の良いおいしいお肉を食べてもらいたいというコンセプトですきやき店をオープンしました。最初はつまずきもありましたが、お客さまの声を大切にしながら少しずつ改善しています」と一瀬さんは話します。

また、同社は2025年3月に海鮮系居酒屋「かいり」をM&Aし、事業継承しました。これまで、いきなり!ステーキをはじめとする事業展開でしたが、「海鮮」という同社にとっては真逆の領域への挑戦をスタートしました。そして、2025年11月1日に事業継承をして初の新店舗となる吉祥寺店をオープンしました。

新規事業を担当する新規事業開発室・室長の川野秀樹(かわの ひでき)さんは今回の新店舗オープンについて「デザインコンセプトを新たに『月に一回は行きたい』と思ってもらえるように既存店にはないメニューを取り入れました」と話します。また、「ペッパーフードサービスの第二の柱になるような事業を作っていきたい」と今後についても意気込みます。

父の思い受け継ぎ、「お客さまや従業員に正直な経営を」

社長就任から2年で事業再建に成功し、新しい業態にもチャレンジをする一瀬さん。事業を運営する上で大切にしていることを伺いました。
「私たちは飲食業を提供していて、お客さまに満足いただくことが使命です。その中でやってはいけないことが商品やサービスの価値を下げること。だからこそ、お客さまの信頼を裏切らないことを大切にしています」
そして、その考え方の根幹になるものは父の邦夫さんが影響していると言います。「前社長は『正笑』という言葉を大事にしていました。『嘘やずるいやり方をするのではなく、いつも誠実に正しくやる。そして、その先に本当の笑顔がある』という考え方です。この考え方を私自身も大事にしているので、お客さまや従業員に対していつも正直にいたいと思っています」
父の思いも受け継ぎ、正直で誠実な経営を進める一瀬さんですが、今後はいきなり!ステーキの新たな取り組みやこれまでの思いを詰め込んだ新店舗のオープンも検討しているとのこと。今後の挑戦にも期待が広がります。
最も印象に残った言葉:
「お客さまの信頼を裏切らないことを大切にしています」
会社概要
会社名:株式会社ペッパーフードサービス
取材対象者:代表取締役社長CEO 一瀬 健作さん
経営理念:お客様の笑顔 お取引先の笑顔 皆が喜ぶ私の仕事 地域社会も 豊かにします
設立年月:1970年2月
事業内容:飲食店運営
所在地: 東京都墨田区太平四丁目1番3号オリナスタワー17F
URL:https://www.pepper-fs.co.jp/






