チケットぴあを“裏で支える主役”たち。札幌のエンジニア組織「PIA TECH LAB」誕生の舞台裏【北海道札幌市・東京都渋谷区】

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チケット販売やファンクラブ運営を支えるシステムの裏側で、エンターテインメントを“止めない”ために奔走する人たちがいます。

チケットぴあを運営する、 ぴあ株式会社のエンジニア組織「PIA TECH LAB(ぴあテックラボ)」は、そんな技術者たちが自らの力を発揮し、挑戦できる環境をつくるために誕生しました。

セールスプロモーション局・内製化推進部長 小林洋一さん

今回は、立ち上げを牽引(けんいん)したセールスプロモーション局・内製化推進部の部長・小林 洋一(こばやし・よういち)さんに、創設の背景や札幌拠点の狙い、そして組織としての挑戦についてお話を伺いました。

「エンジニアが自己実現できる会社をつくりたい」

コンサート・演劇・スポーツ・映画・イベントなどの公演チケットを販売している「チケットぴあ」。会員数は延べ2,200万人以上にのぼり、その裏側では、ライブや舞台、スポーツイベントを支えるための大規模なシステムが日夜止まることなく動き続けています。

「チケット販売やファンクラブ運営、電子チケットなど、ぴあのビジネスは技術の力なしには成り立ちません。自社サービスを育てていくためには、外注よりも自社でエンジニアを抱えて、自分の仕事に誇りを持ち、エンジニアもエンターテインメントの領域で自己実現できる環境をつくりたいと考えています」と、小林さんは話します。

現在、「PIA TECH LAB」では、チケットぴあを中心とし、数十のチケッティングサイト、ファンクラブ、物販といったWebフロントでのビジネスを中心としたサービスの開発・保守・運用を担っています。将来的には新しいエンタメ体験を創出する技術拠点としての役割を目標としています。

「エンジニアが自ら考え行動する」、そんな自走型の組織を育てることを目指しています。

札幌という選択に込めた意図

ぴあ株式会社は東京・渋谷に本社がありますが、PIA TECH LABは東京ではなく札幌に拠点を構えています。そこには、こんな理由がありました。

札幌のシステム会社の多くは受託開発を行っており、PIA TECH LABのように自社サービスの開発、それもエンターテインメント領域を扱っている会社は、東京と比べると多くありません。こうした状況を見て、小林さんは次のように考えるようになりました。

「北海道の方たちは地元への愛着が強く、地域に根ざして働きたいという思いを持つ人が多い。長期的な就労が求められる内製化には、そうした環境が向いていると考えました。また、大学などでヒアリングを行うと、変化の早い東京の仕事を求めて上京する方も多いとのこと。そんな方にも“札幌で暮らしながら東京の仕事に挑戦できる”受け皿になれたらと思うようになりました」

地方に拠点を置くという選択は、単なる組織の分業化ではなく、「地域とともに成長する」新しい企業のあり方を示すものでもあります。


札幌だからこそ生まれる働き方やコミュニティーが、組織の価値をさらに豊かにしています。

技術者が「提案する側」へ

PIA TECH LABの立ち上げとともに進めたのが、開発体制の変革でした。これまでのぴあでは、各事業部の依頼を受けて開発する「受託型」の構造が中心でしたが、小林さんはその構造も変えていきたいと考えています。

「周りから“これを作ってほしい”と言われて動くだけでは、どうしても受け身の仕事スタイルになってしまいます。私たちが目指しているのは、“この機能があればもっとお客さまに喜ばれる”、“こうすればサービスが良くなる”とエンジニア自身が提案できるチームです。その意識の転換こそが、ぴあ全体を変える力になると思っています」

実際、内製化を進めたことで対応スピードが上がり、チーム内での協働も活発になりました。特に印象的なのは、障害発生時の対応だといいます。

「一人が困っていたら、全員で支える。 “自分の担当ではないから”ではなく、“誰かが困っているなら助ける”という文化が生まれました。今はみんなが、“自社のサービスを守る”という誇りを持って動いてくれています」

「火中の栗を拾った人が偉い」挑戦を支える企業風土 

小林さんは、目指す組織文化のうちの一つに「火中の栗を拾った人が偉い」という考えをあげています。それは、誰かが課題や障害に気づいたとき、率先して向き合う人をたたえるという文化です。

「完璧に解決できなくても、まず手を挙げて動いた人を評価する。そうすることで、安心して挑戦できる雰囲気が生まれます。 失敗を恐れるより、“やってみよう”と前に進むことを大事にしています」

また、東京と札幌の距離を感じさせないために、両拠点を常時オンラインでつなぎ、気軽に声をかけ合える仕組みも整えました。

 「いつでもつながっている安心感を保ちたい」と、小林さんは話します。

札幌から広がる「ぴあの新しい形」

2025年、ぴあは札幌市と「さっぽろまちづくりパートナー協定」を締結しました。
それは、エンタメ企業としての役割を地域へ広げる新たな挑戦でもあります。

この取り組みについて、小林さんはこう語ります。

「PIA TECH LABを含めた、ぴあという会社の取り組みを通して札幌と共に成長していきたいと考えています。雇用や教育、文化、子育てなど、ぴあだからできる貢献があります。エンタメの仕組みを支えるだけでなく、街そのものを楽しくしていくことができたら理想です」

また、2025年10月からは教育体制を整え、未経験者のWebエンジニア採用も開始しました。

「たとえ今は技術がなくても、“いつか自分の手でライブエンターテインメントの業界を変えてやる”という強い思いを持った人を、現場は求めています」

ぴあが培ってきた「人が集まる場所をつくる力」は、今、札幌という街全体に広がろうとしています。

これからも「ぴあ」は、現場から紡いでいく

小林さんが目指しているのは、築いてきた歴史や理念を大切にしながら、今の時代にふさわしい形へと進化している、ぴあの姿。

企業理念である「ひとりひとりが生き生きと」を、現場の社員一人ひとりが実感し体現できるように。そして、 自分の仕事に誇りを持ち、エンタメの価値を自らの手で広げていく、その姿こそが、小林さんの描くこれからのぴあです。

「“ぴあが現場で紡いでいく”というのは、時代や求められているスピードに応じて現場が変わることです。エンジニアが自分の技術でエンタメを支えるだけでなく、より良い体験へと変えていく。それこそがPIA TECH LABが目指す姿だと思っています」

札幌から始まったこの挑戦は、やがてぴあ全体の文化を変えていきます。 “技術の力でエンターテインメントを進化させる”という旗を掲げた新たな挑戦は、静かに、しかし確かな熱をもって進んでいます。

最も印象に残った言葉
「完璧に解決できなくても、まず手を挙げて動いた人を評価する。そうすることで、安心して挑戦できる雰囲気が生まれます。 失敗を恐れるより、“やってみよう”と前に進むことを大事にしています」

企業情報

会社名:PIA TECH LAB(ぴあ株式会社)
取材対象者:セールスプロモーション局・内製化推進部長 小林洋一さん
企業理念:ひとりひとりが生き生きと。
URL:https://tech-lab.pia.jp/index.html
オフィス:〒060-0042 札幌市中央区大通西6丁目10番地4 エナスクエア大通ビル

天野崇子

天野崇子

副編集長/第1期ハツレポーター/1968年秋田県生まれ。東京の人と東京で結婚したけれど、秋田が恋しくて夫に泣いて頼んで一緒に秋田に戻って祖父祖母の暮らす家に入って30余年。

ローカリティ!編集部のメンバーとして、みなさんの心のなかのきらりと光る原石をみつけて掘り出し、文章にしていくお手伝いをしています。

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