
テクノロジーが人の営みを変える時代に、「人にしかできない仕事がある」と語る西尾義隆(にしお・よしたか)さん。株式会社さくらさくプラスは、事業を通じて“人のぬくもり”を社会に取り戻そうとしている。リーマン・ショックをきっかけに起業し、共働き世帯の支援から地域とのつながりまで、保育を“社会のインフラ”と捉えて歩んできた15年。

「便利さや効率だけでは豊かになれない」
西尾さんが見据えるのは、子どもが伸び伸びと育ち、大人が寛容に見守る“豊かな国”の姿だ。
目次
「優秀な人が働けない社会を変えたかった」保育事業に踏み出した原点

2008年、リーマン・ショック。当時、不動産関連の仕事をしていた西尾さんは、突如として訪れた経済の崩壊を前に、「これからどう生きていくか」を考えた。
「その頃、周囲の女性が『保育園に入れないから仕事に戻れない』と悩んでいるのを見て、優秀な人が働けない社会はおかしいと思った。だったら、保育園を増やせばいいじゃないか。そう思ったのがすべての始まりです」
2009年に認可外保育施設を開設。同年、保育所の運営を目的として、「株式会社ブロッサム」(現:株式会社さくらさくみらい)を設立。その後、保育を“社会課題の解決事業”として位置づけ、2017年に設立したのが、現在の株式会社さくらさくプラスだ。グループ体制(ホールディングス化)となり子ども・子育て支援事業を行う会社となった。いま同社グループは首都圏を中心に多数の保育施設を展開し、共働き家庭の暮らしを支えている。
「勝ち筋なんてなかった」。社会の変化を信じて始めた保育への挑戦
西尾さんは当時を「勢いだった」と笑う。
「保育の知識なんてほとんどありませんでした。でも、女性の活躍がこれから必ず広がる。都市部の核家族化も進む。だから保育ニーズは伸びると感じたんです。分からないなりに、社会の変化に賭けたというのが正直なところです」
当時、保育業界は社会福祉法人などが中心で、民間企業の参入はほとんどなかった。それでも「必要とされるならやる」という思いで参入した。
「株式会社が保育をやることに違和感を持たれることも多かったですが、社会に求められる数を出せるのは企業のスピード感だと思った」と話す。
給与水準が低く、待遇も厳しかった保育業界はこの10年で大きく変わった。「社会の必要性が増して、保育士の数も処遇も良くなってきた。私たちも、業界全体を少しでも良くしたいという思いでここまできました」
子どもを産み育てやすい社会をつくる。保育を通じた“インフラづくり”
“共働き家族の支援”をテーマにしている同社。
「家事や育児の負担はまだ女性に偏っている。子どもを産み育てやすい社会をつくることが、これからの日本には必要だと思っています」と西尾さんは語る。
その背景には、少子化と人口減少という構造的な課題がある。
「このままでは日本が消えてしまうという危機感があります。だからこそ、子どもを育てやすい環境を社会全体でつくらなければいけない。私たちの仕事はその一部です」
「意思やぬくもりは代替できない」AI時代にこそ、人が人を育てる
「AIがどんどん進化して、無人レジや自動化が進んでいます。でも、人にしかできない仕事が必ず残る。それが、意思やぬくもりを育てる仕事だと思うんです」
「保育はその象徴です。子どもの心を育てるのは人しかできない。私たちはその“人を育てる人”を支える仕事をしている。人の成長こそ、企業の成長につながると信じています」
その考え方は社内にも根づいている。現場職員のアンケートでは「子どもの成長が自分のやりがい」と答える人が最も多い。
「人の心が通じる瞬間にモチベーションを感じる人が多い。人が育つ環境を守ることが、長く続く経営につながると思っています」
孤立した社会をつなぎ直す。つながりを生む場所としての保育の可能性

西尾さんは、保育園を「地域のハブ」にしたいと考えている。
「昔は子どもが道路で遊んでいても誰も怒らなかった。でも今は“かわいいね”と声をかけるだけで不審者扱いされてしまう。社会全体が不寛容になっています」
地域とのつながりを再構築することが、保育園の役割のひとつだと語る。
「地域のお祭りやイベントに参加して、子ども、保護者、地域がつながる場所をつくりたい。セキュリティの問題もありますが、お互いを知ることでしか安心は生まれない。保育園は、その接点になれる場所です」
保育を超えて、社会のために。西尾さんが見据える“豊かな国”のかたち
「強いものが生き残るのではなく、変化できるものが生き残る」と語る西尾さん。社会や技術の変化を受け入れながら、事業のあり方も柔軟に変えていく。
「時代が求めるなら、別の分野でも挑戦します。人のためになり、社会にとって意味があるなら、どんな事業でもやる価値がある」
その信念の根底には、常に“人の心を豊かにしたい”という思いがある。
最も印象に残った言葉:
「時代が求めるなら、別の分野でも挑戦します。人のためになり、社会にとって意味があるなら、どんな事業でもやる価値がある」
会社概要
会社名:株式会社さくらさくプラス
取材対象:代表取締役社長西尾義隆さん
設立:2017年8月
経営理念:事業に取り組むうえで、私たちが常に中心に置くのは「人」です。ここまでの会社の成長は、人との関わりの中から生まれた信頼や価値の高い情報、現場の悩みにスピーディーに対応する現場重視の姿勢など、「人」に真摯に向き合ってきた結果です。これまで育んできた「人の心に向き合い、寄り添う」というさくらさくプラスグループの想いを大切に、共働き家族の課題解決に取り組んでいます。
事業内容:子ども・子育て支援事業
所在地:〒100-0006東京都千代田区有楽町1丁目2番2号東宝日比谷ビル
URL:https://www.sakurasakuplus.jp






