55年前の海難事故から生まれたウェザーニューズ。命、そして地球を守るインフラへ【千葉県千葉市】

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1970年、福島県沖を襲った爆弾低気圧によって貨物船が沈没し、15名の船乗りの命が失われました。その船の手配に関わっていたのが、当時商社で船舶業務を担当していた石橋 博良(いしばし ひろよし)さん。

当時の気象技術ではこの爆弾低気圧の予測が困難であったこと、また船乗りのための気象情報は存在していませんでした。

「本当に役立つ気象情報があれば、この事故は防げたかもしれない」

深い悔しさを胸に、石橋さんは気象情報の世界へ飛び込み、のちに株式会社ウェザーニューズを創業しました。

それから半世紀以上経った現在、「船乗りの命を守りたい」という志を受け継いだ息子・石橋 知博(いしばし ともひろ)社長のもと、ウェザーニューズは事業を海から陸、空と地球全体へと広げています。

今回、ウェザーニューズの広報を担う中村 好江(なかむら よしえ)さん、「ウェザーニュースLiVE」のキャスター江川 清音(えがわ さやね)さんにお話を聞き、その理念がどのように受け継がれ、いまの事業へと発展しているのかを探りました。

「地球の未来も守りたい」。公共インフラへと成長する使命感

いま、世界は気候変動による自然災害の激甚化という脅威にさらされています。ウェザーニューズは、その現実から目をそらさず、地球環境が脅かす未来に真正面から向き合っています。

こうした背景のなか、同社は「第五の公共インフラ」を目指すことを掲げています。水道や電気のように、私たちの生活に欠かせない存在になるという決意です。

1995年の気象業務法改正以降、同社はいち早く民間気象会社として独自で気象予報を開始。1999年には、NTTドコモのiモード向け個人サービス「WNI気象情報」をスタートさせました。開始当初は月420円で4人分、収益はわずか67円からのスタートだったといいます。その小さなサブスクから始まったサービスは、今ではスマホアプリ「ウェザーニュース」として、累計5,000万ダウンロードを超える国内最大級のお天気アプリへと成長し、「第五の公共インフラ」へと進化しつつあります。

「『船乗りの命を守る』という理念に、ここ数年で『地球の未来も守りたい』という言葉が付け加えられました。その思いを胸に、私たち一人ひとりが誇りを持って働いています」と中村さんは話します。

ウェザーニューズは防災・減災の最前線を担う公共的な存在でありながら、テクノロジーで気象を革新する挑戦者として社会からも大きな期待を集めています。

「自分たちに何ができるか」理念を行動に変える文化

ウェザーニュースLiVEのキャスターを担当する江川さんはこう話します。

「わが社の社員たちは、よく『一匹目のペンギン』という言葉を使います。危険な海に最初に飛び込むペンギンのように、誰もやったことがない挑戦を恐れずに進める文化を表しています」

荒天が迫ると、社員たちは自然に集まり、「自分たちに何ができるか」を考え、行動するのだそうです。「命に関わる情報を届けるとき、理念の重さを強く感じます」と江川さんは続けます。
 

近年は「命を守る」だけでなく「地球の未来を守る」へとミッションが進化していることから、一人ひとりが未来を自分ごととしてとらえ、創業者の思いが詰まった理念を文化として受け継いでいます。

サポーターの声が挑戦を育てる「感謝のリサイクル方程式」

同社は、自治体にとっては住民を守る防災パートナーであり、企業にとっては気象リスクをともに乗り越える伴走者です。単なるデータ提供者ではなく、意思決定を支える存在として信頼を得ています。

個人ユーザーとの関係も特別です。2004年、全国のユーザーが地域の桜の開花を報告する「さくらプロジェクト」をきっかけに、双方向の気象コミュニティーが生まれました。翌2005年には「JOIN & SHARE」を掲げた気象投稿サービス「ウェザーリポート」が正式にスタート。現在では、1日あたり約20万通の天気報告と3〜4万枚の写真がや動画が寄せられ、予報精度を支える重要なデータになっています。

また、2008年の神戸・都賀川の水難事故をきっかけに開発されたゲリラ雷雨予測システムでは、AIが雲を自動判別し、発生30分前に通知する仕組みが実現しました。

ウェザーニューズでは、こうして双方向で情報をやり取りする会員を「サポーター」と呼んでいます。サポーターが投稿したデータや声が次のサービスを生み出し、その成果がまた新たな価値を生む。この循環を同社は「感謝のリサイクル方程式」と呼び、得た知識や情報を次の挑戦へと活用してきました。

「サポーターの皆さんから届く情報が、私たちのサービスを育てています。その声やデータが、次の価値をつくる原動力になっているんです」と中村さん。

こうした感謝のリサイクルが、創業から受け継がれてきた使命を次の時代へ押し進めています。

あらゆるつながりの原点はひとつ「命を守り、未来をともにつくる」

公共インフラとしての使命、地球を守るという挑戦、そして挑戦を育てるサポーターの声の循環。関わる人の立場や役割が違っても、共通している原点は「命を守り、未来をともにつくる」という精神です。

ウェザーニューズでは、創業者・石橋博良さんの「船乗りの命を守りたい」という思いが半世紀を経ても受け継がれ、石橋知博社長のもとで「地球の未来も守りたい」へと広がりました。社員一人ひとりがその使命を自分ごととして捉え、サポーターとともに挑戦を重ねています。

この文化こそが、ウェザーニューズを公共インフラへと進化させ、誰もやったことのない挑戦を続ける原動力になっています。

受け継がれた思い×AIが描く次の100年

ウェザーニューズはいま、AIを取り込みながら新しいステージへと進んでいます。全国2,700カ所の空を結ぶライブカメラネットワーク「ソラカメ™」や、生成AIが天気の質問に答える「お天気エージェント」など、未来型のサービスが次々と登場しています。

個人向けには、気候変動が今後の私たちの暮らしにどのような影響を与えるのかを伝える「100年天気予報」を展開。法人向けには、気象データを活用した事業最適化や脱炭素支援を進めています。

取材の最後に中村さんが口にしたのは「サービスを通して、一人ひとりが空を見上げたり、天気へのリテラシーを高められたらいいな」という言葉。その穏やかな願いのなかに、指示ではなく自らの意思で育まれた「命を守る」「地球の未来を守る」という思いが息づいていました。

「命を守る」から「未来を守る」へ。その思いを受け継いだ社員と世界中のサポーターが、新しい技術を得ながら、力を合わせて未来への挑戦を続けています。

最も印象に残った言葉:

「『船乗りの命を守る』という理念に、ここ数年で『地球の未来も守りたい』という言葉が付け加えられました。その思いを胸に、私たち一人ひとりが誇りを持って働いています」

【会社概要】

会社名:株式会社ウェザーニューズ
取材対象者:広報 中村 好江さん・「ウェザーニュースLiVE」キャスター 江川 清音(えがわ さやね)さん 
設立年月:1986年
サービス一覧:航海気象・洋上エネルギー気象・海上気象・海上物流気象・沿岸気象・エアライン気象・ヘリコプター・小型機気象・ドローン気象・道路気象・鉄道気象・物流気象・防災気象(自治体防災)・イベント気象・建設気象・施設・工場気象・保険気象・学校気象・流通気象・エネルギー気象・ダム気象・農業気象・気候テック・スポーツ気象・登山気象・モバイルインターネット・放送気象
所在地:千葉県千葉市美浜区中瀬1-3
URL:https://jp.weathernews.com/

天野崇子

天野崇子

第1期ハツレポーター/1968年秋田県生まれ。東京の人と東京で結婚したけれど、秋田が恋しくて夫に泣いて頼んで一緒に秋田に戻って祖父祖母の暮らす家に入って30余年。

ローカリティ!編集部のメンバーとして、みなさんの心のなかのきらりと光る原石をみつけて掘り出し、文章にしていくお手伝いをしています。

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