
今年の夏も野球が熱い展開を迎えている。甲子園で行われた夏の全国高校野球では、沖縄尚学が西東京の日大三高を3対1で破り見事初優勝を果たし、メジャーリーグではパドレスと首位攻防戦を繰り広げるドジャースの大谷翔平選手が45号ホームランを放ち、ピッチャーの山本由伸投手が6回2失点の好投で11勝目を挙げ、8対2で快勝した(2025年8月25日時点)。
興奮冷めやらぬ思いで日本の野球を応援している筆者だが、実は地元である秋田県大仙市神岡地区は「秋田県少年野球発祥の地」と言われている。その歴史は古く、1885(明治18)年に秋田医学校教師の細井修吾(薬学士)さんがベースボールを生徒に指導したのが始まりであり、1903(明治36)年には神宮寺小学校教員の富樫武治さんが子供たちに「野球選手任命状」を交付したのをきっかけに少年野球はますます盛んになり、町全体が「野球の町」となった。そんな神岡地区は今でも野球が盛んであり、500歳野球や世界少年野球大会などが毎年開催され、王貞治さんや中畑清さんといった球界のレジェンドも子供たちに野球を教えるためにこの地に何度も訪れている。
今回は日本野球の歴史と魅力が凝縮された「かみおか嶽雄館」を紹介しよう。

目次
少年野球大会の黄金期と野球の発展に全力投球した人たち。
秋田県における少年野球の礎を定着させたのが富樫武治さんであり、1902(明治35)年に神宮寺小学校に着任し、6月には高等科(当時は尋常小学校と高等小学校に分かれており、高等小学校は現在の中学校1、2年生に相当する。)の3、4年生を13名引率し、秋田市へ修学旅行に出発し秋田市高等小学校・土崎小学校と野球の試合を行った。1903年には「野球選手任命状」を交付。子供たちは富樫監督の指導を得て、町内で盛んに野球が行われた。

1921(大正10)年8月には県内から12チームが参加して「第1回全県少年野球大会」が秋田市で開催された。第1回と第2回は高等科の大会のみだったが、第3回目からは尋常科も加わり、神宮寺小学校は尋常科で念願の初優勝を果たすと翌年から毎年のように好成績を収め、1932(昭和7)年に野球統制が始まる前年の第11回大会まで尋常科と高等科の合わせて優勝5回、準優勝6回を果たし、少年野球の黄金期を築きあげた。また当時の野球関係者で秋田魁新報社の元社長である人見誠治と親交のあった佐々木広之輔さんや秋田県野球協会元会長の高橋政泰さんらの尽力により、現在の少年野球や学童野球の発展、全県500歳野球大会の普及へとつながった。

幅広い年代に支持されているかみおか嶽雄館。
かみおか嶽雄館は少年野球で地域活性化を図ろうと自治省のふるさとづくり事業で建設され、1996(平成8)年6月5日にオープンした。施設を1カ所に集中して効率的に管理するために2階には野球資料館とビデオシアターホール、1階には図書館と柔道場、教育委員会事務室などを配した多目的学習施設となっている。図書館には野球に関する本や資料が多数展示されており、県外からの来訪者も多いようだ。また敷地内には温泉施設「かみおか温泉嶽の湯」や体育館、テニスコート、改善センターが集中している。

神岡には熱狂的な野球文化が根付いている。
「神宮寺の野球バカ」というパワーワードを教えてくれたのは、大仙市教育委員会事務局に所属し神岡中央公民館の副主幹を務める髙橋寛光さんである。髙橋さんも学生時代は野球部だったそうで、先祖の髙橋金治さんも子供たちに野球を熱心に教えていたようだ。嶽雄館はそんな先人の残した貴重な野球資料をメインに、全国的にもまれな野球に特化した資料館を作る目的で計画された。しかし当初は「選手任命状」の他に目立った資料がなかったが秋田県の野球協会関係者や全県500歳野球大会の参加チームや選手、学校や関連企業が少年野球を通じて培われた様々な方々の協力で多くの資料を提供してもらい、今日に至っている。なお全県500歳野球は1979(昭和54)年に産声を上げた全国屈指の野球イベントであり、当初は8チームのみだったが、今では184チームにまで増えており、4000名を超える選手が一堂に会する。ちなみに大会にはあの柳葉敏郎さんも参加している。

全国の野球ファンの聖地としての側面も兼ね備えている。
かみおか嶽雄館の多目的ホールには少年野球から学生・社会人野球・プロ野球に至るまでの資料が多数展示されている。山田久志さんや落合博満さんといった秋田県出身のプロ野球選手に関わる資料の他に故佐々木吉郎さんが大洋ホエールズ時代に達成した完全試合のトロフィーも展示されている。


他にも都市対抗野球大会関連では最優秀選手賞・橋戸賞のトロフィーも収蔵され、アマチュア野球関連では、県内外の野球関係者から寄贈された写真やスクラップブックなどが展示されている。もちろん全県500歳野球大会の記録も見る事ができる。






野球資料第2展示室にはかつての秋田県経済連と秋田県信連が全盛期に獲得した数々の優勝旗や賞状が展示されており、もちろん神岡出身の選手が活躍していた。同階の神岡野球ミュージアムには野球を科学の目でとらえた野球科学コーナーや野球関連の珍しいポスター、ユニフォームが展示され、野球盤も設置している。毎年2月中旬には野球盤を使った「野球盤交流大会」が開催され、大人も子供も楽しめるイベントになっている。髙橋さんいわく、「野球を知るきっかけ作り」なのだそう。




ああ青春よ、いつまでも
このようにかみおか嶽雄館は年代を問わず様々な世代に愛されている場所であり、かつての野球少年たちのハートを熱くさせる聖地なのである。残念ながらこの神岡地区も少子高齢化の影響で、地元の神岡小学校も連合チームを組まなければならないほどに野球少年が減ってきているようだ。しかしこれからも全県500歳野球大会は続いていき、日本野球の歴史も新たな1ページが刻まれ続けるだろう。いつまでも彼らの青春を大切に守り続けてほしいと筆者は願う。


情報
かみおか嶽雄館
住所:〒019-1701 秋田県大仙市神宮寺下川原前開102
TEL:0187-72-2501
営業時間9:00〜22:00 有料(大仙市のホームページに料金表が掲載されている。)
公式URL:https://www.city.daisen.lg.jp/archive/contents-1069
アクセス JR神宮寺駅下車徒歩15分
駐車場 40台
野球資料館
営業時間 9:00~17:00 無料
神岡図書館
営業時間 9:00~17:00 無料
休館日 毎週月曜日・第三日曜日・勤労感謝の日