「時代がどんなに進んでも、人対人でありたい」秋田を代表するいぶりがっこ屋”きむらや”を支え続けるキーパーソン【秋田県湯沢市】

3 min 17 views

みなさんは、秋田県の伝統的な漬物「いぶりがっこ」をご存じでしょうか。秋田県を代表するいぶりがっこ屋「雄勝野きむらや」は1963(昭和38)年に創業し、現在3代目の社長が受け継ぎ、守り続けています。山形県出身である社長夫人の木村淳子さん。山形から湯沢へ移住し、縁の下の力持ちとしてきむらやを支える淳子さんのお話を伺いました。

表から裏方まで全部を見渡す「現場を支える力」

木村淳子さん(左)への取材(筆者は左から2番目)

秋田を代表する漬物「いぶりがっこ」。秋田県湯沢市にある「雄勝野きむらや」では日々さまざまな工夫と苦労が積み重ねられています。社長夫人である木村淳子さんの仕事は工場のシフト調整や人事、製造管理に加え、営業や電話対応、個人注文の対応など多岐にわたります。大企業のように部署ごとに仕事が分かれているわけではなく、工場全体を俯瞰(ふかん)して動かなくてはならないのが一番大変な点だと言います。

従業員には「自分で考えて行動してほしい」と伝える一方で、元気がない方への気遣いや相談対応も欠かしません。人と向き合う姿勢が、現場を支える力となっているように感じました。

特に頭を悩ませるのが「在庫管理」だそうです。いぶりがっこは10月から12月に漬け込んだ大根をもとに、1年間販売を続けます。そのため、「1年間切らすことなくお願いします」と取引先に言われることも多いようです。しかし、”きむらや”では「必ずしも約束はできないです」と断りをいれるようにしているとのことでした。これがトラブルを防ぐための重要なステップであり、多くの取引先から信頼されている証拠ではないでしょうか。

雄勝野きむらやの店内

一方で、「大根が豊作で十分な在庫を確保できるとわかった年は、注文がよく入るので、やっぱりうれしいですよね」とやりがいを満面の笑みで語ってくださいました。特に新米の季節であり、紅葉シーズンでもある10月から11月は秋田県内の人の動きが多く、いぶりがっこの売れ行きも格段に伸びるそうです。

淳子さんは自身の仕事に関して、「数年続けて注文をいただける商品があれば信頼につながり、通年の仕事や納品先の拡大にも結び付く。結局は、大根をどれだけ仕入れて、その限られた3カ月でどれだけ漬け込めるかにかかっているんです。そんなことをやっていると、気づけば1年経ってますね」と社長夫人としての覚悟、その裏にあるやりがいをにじませていました。

いぶりがっこのほかにも、「さくらんぼの酢漬け」や「ちょろぎの味噌(みそ)漬け」といった商品も手がけています。年間を通じて従業員を正社員として雇い続けるには、閑散期をつくらない工夫が欠かせません。「いぶりがっこ以外の漬物も、秋田の食文化として、人がいる限りつなげていきたい」との思いが、この現場を動かし、支える秘訣なのかもしれません。

漬物離れ世代にも好まれる“新しい工夫”

漬物といえば「おばあちゃん世代が作るもの」というイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。「自分で漬物を作りますか?」という問いに対して、淳子さん自身も「作らない」と答えました。若者の漬物離れに関して、「やっぱり残念ですね。同い年の人でも漬物は嫌い、無理っていう人がいるんです。私はえっ、なんで?って思うんですけどね」と寂しそうにこぼしていました。

ただ、”きむらや”では新しい工夫にも取り組んでいます。例えばリンゴ酢などを使って甘酸っぱく味付けをすれば、娘世代の若者にも「お菓子感覚」で食べてもらえるのではないかと考えています。また、いぶりがっこは近年、タルタルソースやポテトサラダ、クリームチーズと合わせるなど、従来の「ご飯のお供」という枠を超えた可能性を見せています。

「いぶりがっこがいろんな形で売れだしたとき、ある意味1つの転換点だったと思います。漬物離れしている若者が食材として受け入れてくれるのは、とてもうれしいことですね」と漬物への思いを語ってくださいました。

“人対人”作り手の思いが伝わる温かさを

近年はいぶりがっこ屋が増えており、売り先を取り合っているとのお話もありました。その中で今後の方向性として注目されているのが、海外輸出と個人顧客への販売です。

「もし輸出に向かうのであれば、やはりしっかりとした品質を守っていかなければならない。一方で、個人のお客さんに特化するなら、ホームページを通じた発信や販売の強化が必要だと思います」。社長の方針に寄り添いながら、共に作り上げ、裏で支える姿勢に大変感銘を受けました。

オンライン通販やメールでの問い合わせが増える中でも、大切にしているのは「人と人とのつながり」です。「最近はメールでのお問い合わせが多くなってきてるんですけど、やっぱり電話対応が1番かなとは思ってて。お客さんの声も直に聞けるし。でも今は人手不足だからと、オンラインやメールでの対応に偏りがちだけど、できるところまでは“人対人”でありたい」とAIが進化していたり、人口が減少したりしている中で、人の温かみを忘れない考え方に触れました。

「ものを売る以上、作り手の思いが伝わるように対応していきたい」

秋田の四季とともに、漬物作りに励む人々。その見えない努力が、私たちの食卓に欠かせない”味”を支えています。

秋山咲奈さんの投稿

情報

いぶりがっこ本舗 雄勝野きむらや
秋田漬物 製造・販売
住所:秋田県湯沢市下院内常盤町91
TEL:0183-52-3650
FAX:0183-52-4570

ふるさとミライカレッジ×ローカリティ!in湯沢院内

ふるさとミライカレッジ×ローカリティ!in湯沢院内

「ふるさとミライカレッジ」は、秋田県が進める地域づくりワークキャンプです。
今回はカリキュラムのひとつとして「ローカリティ!」が湯沢市院内地区においてワークショップを実施し、参加した大学生たちが地域の人に出会い、祭りや地域の宝、そして日々の営みを取材をし、記事制作を行いました。

その土地に、何か想いを持てば、 そこはあなたの大切なふるさとになります。 大学生のフレッシュな視点で綴られた、地元愛爆発の素敵な記事をご紹介します!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です