
大手企業の内定を辞退し、秋田に残る道を選んだ湯沢市院内出身の長谷川由美さん。
2025年春、秋田公立美術大学を卒業した彼女は「安定よりも挑戦を」と、スタートアップ企業に新卒で飛び込んだ。働く中で地域活動に取り組む仲間と出会い、自分の原点である故郷の存在を改めて強く意識するようになったという。
現在、スタートアップ企業は退職したものの、「塗り絵ではなく真っ白な紙から作り上げたい」と語る長谷川さん。その言葉の背景にある価値観と、次の一歩に込めた思いを探った。

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大手企業の内定…でも選んだのは秋田
長谷川さんは、大学時代に学び、真剣に取り組んできたこともあり、地域づくりをしたい!まちづくりをしたい!という強い気持ちがあった。そして、まだ存在しない新しい製品、サービス、ビジネス、または価値などを、ゼロの状態から生み出す「ゼロイチ」という考え方も大好きだった。
実は、就職活動をする中で大手製造小売業からの内定があった長谷川さん。安定した環境で全国的に展開する企業だ。それは多くの学生にとっては憧れの進路だったはずだ。
しかし長谷川さんは、その内定を辞退し、秋田に残る道を選んだ。
「大手企業で働くのは、すでに描かれた“塗り絵”に色を足していくようなものに感じてしまって。私自身は、まだ何も描かれていない真っ白な紙に向き合い、ゼロから形を作りたいと思ったんです」
そう語る彼女が選んだのは、秋田市に拠点を置くスタートアップ企業。新しい製品やサービスを生み出す挑戦の場であり、安定よりも変化を求める自分の価値観に合った舞台だった。
生まれ故郷のコミュニティに心動かされる
スタートアップ企業で働いていた時期に、長谷川さんは生まれ故郷の湯沢市院内で活動する「いんない未来塾」のメンバーと出会った。
いんない未来塾は、人口減少が進む地域でありながら、若い世代を中心に地域や世代の枠を超え「幸福を感じられる地域づくり」を掲げて活動している団体だ。
代表の佐藤拓弥さんをはじめ、世代や地域の枠を超えて地域づくりに取り組む人々の姿は大きな刺激になったという。
「地元でこんなに熱い思いを持って動いている人がいるんだ」ということが長谷川さんの胸に強く刻まれた。すでに秋田に残る選択はしていたが、いんない未来塾との出会いによって「秋田に根を張って活動していきたい」という気持ちはいっそう確かなものになった。


「人と関わり人を助ける」自らの原動力をコミュニティから学ぶ
スタートアップ企業を退職した現在、長谷川さんは県内企業の本社人事として新たな一歩を踏み出す。胸にある思いは「どんな形でも人と関わり、人を助けたい」ということだ。
そこには生まれ故郷、院内の出身である長谷川さんだからこその視点がある。
高齢で一人暮らしをしていたが亡くなってしまった方、院内に留まりたいけれど、家族の事情で引っ越しを余儀なくされた方など、高齢化が著しい地方ならではのどうしようもできない苦しい状況を見てきたという。
さらに、長谷川さん自身も仕事やプライベートを通して思いがけない苦しさや立ち止まる時期を経験した。しかし、そんな時に長谷川さんを支えてくれたのは院内に住んでいる周りの人たちの存在だった。「依存できるコミュニティがあるのは大事。そしてそれがうまく回っている必要がある」と長谷川さん。
院内にあるのは、まさに長谷川さんの原動力となる「人と関わり人を助ける」“お手本”といえるコミュニティだったのだ。
「『塗り絵』だけの人生はつまらない!真っ白な紙から作りあげたい」
私が長谷川さんにこれからどうしたいかと尋ねたら出てきた言葉だ。美術大学出身の長谷川さんらしい言葉が私の心を震わせた。
長谷川さんはこれから秋田市を拠点に活動していく。真っ白な紙に何を描くのか、それはまだ始まりの途中にある。彼女がこれから多くの人たちと関わり、人を助けながら作り上げる未来は、彼女を中心に生まれ故郷の院内にも静かに広がっていくだろう。
鈴木心暖さんの投稿