香川県三豊市の父母ヶ浜(ちちぶがはま)では、いまも海辺でたき火を囲む風景が残されています。全国の海岸で火気利用が制限されるなか、地域の事業者が指定管理制度を活用して自主的に運営を続けてきました。

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年間50万人がおとずれる、香川のウユニ塩湖
香川県の西側に位置する三豊市仁尾町(におちょう)の父母ヶ浜は、遠浅の海が約1キロにわたって広がる穏やかな海岸です。干潮時に潮だまりができることで、夕日や人の姿が水面に映り込み、「日本のウユニ塩湖」と呼ばれるようになりました。SNSをきっかけに人気が高まり、2024年度には年間約50万人を超える観光客が訪れるほどの場所になりました。
一方で、地元の人々にとっての父母ヶ浜は、観光地である前に「生活の延長線上にある浜」です。仕事帰りに立ち寄って夕日を眺める、散歩をしながら友人とあいさつを交わす。そんな日常の風景がいまも残っています。その中で季節ごとに姿を変える浜の風景とともに、人々の時間もゆるやかに流れています。父母ヶ浜では、海辺でたき火を囲む光景を見ることができます。多くの海岸でたき火が禁止される中で、こうした場面が日常的に見られるのは全国でも珍しいことです。

みんなで守る、父母ヶ浜のたき火文化
たき火が続けられるのは、三豊市が設けた「父母ヶ浜公園指定管理区域」として、地域の事業者「瀬戸内ビレッジ株式会社」が運営を担っているからです。行政が直接管理する多くの海岸とは異なり、地域の民間事業者が指定管理者として現場の判断と責任のもとに環境を維持しているため、たき火のような活動も実現できています。たき火に使われるのは、まちの建築現場などから出る廃材を再利用した木材です。燃やし終えた灰やごみは持ち帰り、最後まできちんと処理されます。ルールを守ることで、行政管理の公園では難しい「火を囲む自由」が保たれています。
この場を支えているのは、世代を超えた多くの人たちです。70代の浜を守る男性たちが清掃を続けたり、ボランティアとして観光客の写真を撮ってあげたりしています。そのそばでは、父母ヶ浜の飲食店で働く若いスタッフが仕事帰りに立ち寄り、まちの移住者や地元の地域プレイヤーたちとたき火を囲みます。世代も立場も違う人たちが自然に交わり、たき火を中心に会話が生まれる。穏やかなつながりが、父母ヶ浜の空気を作っています。
夕暮れに集う人々と、たき火のぬくもり
秋から冬の夕方になると、私はよく父母ヶ浜に行きます。平日の夕暮れ、波の音を聞きながらたき火を囲む時間がとても好きです。
誰かと待ち合わせをしているわけではありません。それでも行けば誰かがいて、自然にあいさつや会話が生まれます。ゆっくり座る日もあれば、3分ほどで帰る日もあります。そんな何気ない時間の中に、たき火と夕日があることが最高です。
父母ヶ浜のたき火は、単なるレジャーではなく、地元が自ら責任を負って続ける文化の継承です。指定管理という制度のもと、地域と行政の信頼関係によって守られてきた火の灯は、人と人を結びつけ、まちの風景を静かに照らし続けています。夕日が沈む海辺で燃えるたき火は、これからもこの浜の暮らしを象徴する小さな光であり続けるでしょう。




