
自動車用防振ゴムで世界トップシェア(同社推定)を誇り、世界20カ国以上に展開、グループで2万5千人以上の従業員を抱える住友理工株式会社。1929年に三重県四日市市でコンベヤーベルトの製造会社として始まった同社は、いかにしてグローバルに展開する大企業へと飛躍を遂げたのでしょうか。
今回、2018年に入社し、防振事業本部長を経て2019年トップに就任した清水和志社長にインタビューを行いました。
清水社長は、細胞培養バッグや圧力を可視化するセンサーなど、自動車部品の枠を超えた最先端の技術開発を推進する一方、江戸時代から続く「住友事業精神」を経営の根幹に据えているといいます。
「目の前の利益にとらわれず、当社ができることで貢献し、できないことはできないと誠実に伝える」。そのような姿勢で仕事に向き合った結果、世界で成長することができたのではないかと、清水社長は語ります。変化の激しい現代において、理念や哲学がいかにして企業の成長エンジンとなり、多様な人材を束ねる力となっているのか。清水社長の言葉から迫ります。
目次
6社目を経てトップへ。「リアルが一番いい」と国内外100拠点を駆け巡った1年目
「私はね、実は住友理工で6社目なんですよ」
インタビューの冒頭、清水社長は笑顔でそう語り始めました。住友電気工業(以下、「住友電工」)に入社後、自動車部品メーカーやアフターマーケットの企業など、複数社を経験してきた清水社長が、住友理工(入社当時は住友電工からの出向)にやってきたのは2018年のことでした。
「突然の決定でしたが、着任してすぐ国内外に100拠点ほどあった事業所を、全部見て回ろうと決めて動きましたね。1年では足りないくらいでした」
現場を回って、清水社長が伝えていたのは、「理念」でした。
「私が入社した当初に、海外拠点を20~30箇所ほど回って、誠実に住友事業精神を伝えました。一回ではなかなか伝わりませんでしたが、その後の拠点視察時にもずっと話し続けていたら、理解を得られるようになってきましたね」
2年目にメイン事業である防振事業本部長を務め、3年目には社長に就任。世界20カ国以上、グループで2万5千人を超える従業員を率いるトップとして、現在も月に1回は海外拠点のどこかへ足を運んでいます。
「年に1回は海外の拠点長全員に日本へ来てもらい、当社が目指すべき方向性を伝えていますが、やはりリアルで話すことが一番いいと思っています。画面越しではなく、直接対話する場面や現場に足を運んで話す機会をなるべく作るようにしています」

「相手以上に相手の目指す世界を考え、提案する」世界シェアNo.1の礎となった「鉄とゴムの接着」
同社の歴史は1929年、コンベヤーベルトなどの製造から始まりました。現在では自動車用防振ゴムで世界トップシェアを誇るグローバル企業ですが、その最大の転機はどこにあったのでしょうか。
「当社のコアコンピタンスは『高分子材料技術』と『総合評価技術』です。当社は、素材の配合から全部自分たちで設計し、できた材料を自社で評価、製品まで作れる総合メーカーなんですよ。もともとはベルトメーカーだった私たちが、自動車部品の事業を始めた契機は1953年ごろのことでした」
当時、国内大手自動車メーカーが国産のエンジンマウントを採用したいと考え、数社によるコンペが行われました。
「当時の東海ゴム工業(現・住友理工)だけでは難しかったため、1937年から当社が経営傘下に入っている住友電工と一緒になって一生懸命開発しました。鉄とゴムの接着って、なかなか難しいんです。また、振動耐久性も要求され、それらをやり遂げて採用が決まったのが、初めてのエンジンマウントでした」
そこから同社の歩みは加速します。
「世界トップクラスのシェアになれた秘訣をありのままに言えば、愚直に地道にやったことでしょうね。日本の自動車メーカーさんが要求してくることに対して、顧客の求めていることはもちろんですが、顧客が求めている以上のことを『こういうのができましたけど、どうですか?』と提案し続けた。それが大きかったんじゃないかと思います」

海外メーカーとも共通の未来を描き共に実現する提案型パートナーシップを築く
日本国内での確固たる実績を重ね、1988年のアメリカ進出を皮切りに、世界へと市場を広げていきます。2013年には欧州の防振ゴム・ホースメーカーを買収し、グローバルな供給拠点を確立。海外の大手自動車メーカーからも絶大な信頼を得ています。
「海外で選んでいただいた理由は、技術を一生懸命突き詰めていく姿勢だと思います。言われたことに対してただお応えするだけでなく、『もう少しここを変えよう』と何回もディスカッションできる。自分が思ったことがパッと返ってくるとうれしいじゃないですか。顧客側のエンジニアに、そういう話が分かるパートナーだと思ってもらえたのではないかと考えています」
単なる発注者と受注者という関係性を超え、共通の未来を描きディスカッションを重ねて開発を進めるのが住友理工の強みです。
「ゴムのことは、顧客側も全て分かっているわけではありません。だから我々が、どうやって使われるかをしっかり聞いて、『要求性能はこうおっしゃっているけど、本当はここまで求められているのではないか?』と気持ちまでくみ取って提案するんです。だからこそ、相手との相互理解、課題への解像度が高くなるんですよ」

世界中の工場に貼られた「心の基盤」――現代に生きる住友事業精神
グローバル企業として多様な人材を抱える中、清水社長が最も大切にしているのが「住友事業精神」です。
「住友事業精神は、住友家初代の住友政友(すみともまさとも)が江戸時代に書き残した『文殊院旨意書』を源流とし、その核心部分を『営業の要旨』として明治時代に成文化されました。その第1条と第2条が、『信用確実』と『不趨浮利(ふすうふり)』です。『信用確実』は、信用・信頼を大切にしなさい。『不趨浮利』は、目先の利益にこだわるのではなく顧客や社会に認めてもらったうえで利益を出しなさい。そして(住友事業精神の)もう一つが、『萬事入精(ばんじにっせい)』。どんな時でも自分が持てる力を出して、ベストを尽くしなさいということです」
驚くべきことに、この江戸・明治時代から続く精神は、住友理工の世界中の工場に現地語に翻訳されて貼られているそうです。
「アメリカの工場でも、中国の工場でも、世界中に貼っていますよ。日本企業らしい考え方ですが、海外でもこの精神に共感してくれる人が活躍してくれていますね。パーパス経営やミッション経営と言われますが、結局はすべて通ずるものがあると思うんです。昔からある企業は、みんなこのような事業精神を大切にしてきたからこそ、続いているんだと思います。それこそ歴史ある大企業から、戦後にゼロから立ち上がって世界を舞台に躍進したメーカー、近代の名経営者が率いた企業まで。だいたいみんな共通していますよね。 ずっと長く続いていらっしゃる会社は、その精神というものを大事にしています。 グループの何万人もの方々を引っ張っていくには、住友事業精神のような経営指針や理念って大事だと思いますよね」
目先の利益よりも信用のために。営業に「怖がらずに言ってこい」と伝える誠実さの教育
理念を掲げるだけでなく、それを日々の業務、特に厳しい営業の現場でどう実践するのか。清水社長の言葉は、熱を帯びます。
「顧客と仕事をしていて、こちらの良いように話を進めようという時があるかもしれません。でも、それをしたら絶対何年か後にボロが出ます。その場限りの話をするのではなく、損してでも信念を貫く。それが、企業が長く続く秘訣(ひけつ)ではないでしょうか」
「最近の例でいくと、むちゃくちゃ安いコストと短い期間で開発できます、と手を挙げる他社さんもいます。しかし当社は、営業に『できないことを偽って対応できますとか絶対に言わないで』『できないことはできないと言おう』と伝えています。それで注文が取れなくて帰ってきても、『いいんだよ』と。結果的に納期・品質などの観点から他社ができいことが分かり、後から顧客に『やっぱり住友理工でやってくれないか』と連絡が来ることは、結構あるんですよ」
また、原材料が高騰した際や関税リスクの価格交渉でも、トップが率先して逃げずに向き合う姿勢を示しています。
「材料が高騰した時はすぐ、コストアップになりますと最初から全部お話しに行きます。顧客に値上げの話をするのはとても不安ですよ。でも、納品直前になって『納品できません』と言われる方が、顧客にとっても一番困ることだと思います。だから最初に言いに行く。そこが誠実さであり、責任なんです。当社の営業には『怖がらずに行ってこい』と言っています」
「一生懸命やる、信用確実でやる、新しい課題を持てる力で解決していく」時代が変わっても気持ちは変えない
直近の業績では、売上高・事業利益ともに過去最高益を更新するなど、事業成長の背景にはこの「理念の浸透と実践」があるのではないでしょうか。最後に、2029年の創立100周年、そしてその先の未来に向けた想いを伺いました。
「社会課題が時代によって変わってくる中で、それに対して真摯(しんし)に、我々の持てる力で対応していくという姿勢だけはずっと続けていこうと思っています」
「社会課題に向き合ってそれを解決していくと、自然と事業になっていきます。今ある事業を大切にしつつ、そこに固定化されてはいけない。我々の持っている強みを社会でどう生かせるかを常に考える。事業というのは、そういうものだと思います」
100年後も会社がこの会社らしくあり続けるために必要なことは何か。
「その気持ちを変えないことですね。100年前から一生懸命やって、信用確実でやって、新しい課題を当社の持てる力で解決していくという気持ちだけ忘れないようにする。製品は変わっていくけれど、そこは一緒だと思います」
「日本の企業が発展してきたコアは、この精神にあったんじゃないかなといつも思います。それを忘れちゃったら良くないですよね」
誠実さを貫き、技術を磨き、社会課題に挑み続ける。住友理工の強さの根底には、決してブレることのない強靭(きょうじん)な「理念」が息づいていました。
聞き手:ローカリティ! 編集長 中野 宏一 書き手:ローカリティ! 編集部 記者 猪股 豪
最も印象に残った言葉:『できないことはできないと言おう』
企業情報
会社名:住友理工株式会社
代表者:代表取締役 執行役員社長 清水 和志
事業展開エリア:世界20カ国以上・地域でグローバルに事業を展開
公式HP: https://www.sumitomoriko.co.jp/
住友理工グループ経営理念
住友事業精神(萬事入精・信用確実・不趨浮利)を踏まえ、
- 技術革新を基盤にお客様の要望に応え、優れた製品・サービスを提供します。
- 安全を経営の最重要課題と位置付け、人・社会の安全確保に努めます。
- 地球環境に配慮し、よりよい社会環境づくりに貢献します。
- 高い企業倫理と遵法の精神で、世界各国の地域社会から信用・信頼される企業を目指します。
- 従業員の多様性、人格、個性を尊重し、活力溢れる企業風土を醸成します。






