ローカリティ!時代の開拓者たち

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シリコンバレーで見た変化を経営へ。未来の「必要」をつくる技術商社・高千穂交易【東京都新宿区】

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高千穂交易株式会社代表取締役 社長執行役員 井出尊信さん

オフィスの入退室管理、店舗の万引き防止システム、ネットワークセキュリティ、半導体や機械を動かす部品。高千穂交易株式会社(以下、高千穂交易)が扱う事業は幅広く、一言では説明できません。

同社は1952年、土木建設機械の輸入・販売から始まりました。創業当初から一貫しているのは、世界の新しい技術や製品を見つけ、日本の企業や社会で使える形に変えて届けることです。現在では、全社員の約4割をエンジニア系社員が占める技術商社として、システム設計・構築から保守・障害対応まで担い、製品を仕入れて販売するだけではない価値を提供しています。

代表取締役 社長執行役員の井出尊信(いで・たかのぶ)さんは、設計や現地でのトラブル対応に向き合う現場からキャリアを始めました。その後、アメリカ・シリコンバレーで世界を変える企業が次々と生まれる時代を目の当たりにします。

その経験は、社長就任後の経営判断にもつながっています。変化の速い時代に、どのように新しい技術を見つけ、会社の事業に変えていくのか。井出さんは何に影響を受け、何を大切にしながら、高千穂交易の未来を描いているのか。お話を聞きました。

世界の技術に付加価値を加え、日本仕様に変えて届ける 

高千穂交易が創業した1952年、扱っていたのは土木建設機械でした。海外の力強い機械や、日本にはまだ入っていなかった製品を見つけ、国内に届けるところから事業は始まりました。当時はインターネットもなく、海外の雑誌を読み「これは日本に必要になる」と思うものを探し、電話で連絡を取って輸入につなげていたといいます。

現在は、ビジネスセキュリティとエレクトロメカニクスの二つが大きな事業の柱です。店舗の万引き防止システム、オフィスやデータセンターの入退室管理、監視カメラ、ネットワークセキュリティ、クラウドサービス、半導体、電子部品、機械をなめらかに動かす機構部品などを扱っています。

「創業当初から変わらず、世界の新しい技術や製品、サービスを発掘して日本に持ってくるということをやってます。ただ、世界で通用しているものが、そのまま日本で通用するとは限りません。我々の技術によって、日本で使えるようにカスタマイズしたり、日本の市場に合わせてアレンジして展開していくことで付加価値を加えています。設計から設置、保守、メンテナンスまで一気通貫でできる商社は、そんなに多くありません。目利きができて、技術力もあって、アレンジもできる。そこが強みだと思います」

扱う商材は時代に合わせて変わってきました。しかし、世界の技術を見極め、日本の顧客に届く形へ変える姿勢は変わっていません。

シリコンバレーで見た、変化を恐れない経営の原点 

井出さんが高千穂交易に入社したのは、1994年。当時は大企業に入れば一生安泰という考え方がまだ強く残っていました。しかし井出さんは、規模の大きな会社よりも、自分で手を挙げれば「挑戦ができる」環境に魅力を感じ、高千穂交易を選びました。その風土は、入社後も変わらなかったといいます。 

大学では理系を学び、入社後はIT系のエンジニアとしてキャリアを始めました。ネットワーク製品の設計から設置、現地でのトラブル対応や修理まで、顧客の現場に近い仕事を経験してきました。大きな転機となったのが、1997年ごろからのシリコンバレー駐在です。

シリコンバレーの街:高千穂交易株式会社提供写真

「Googleがスタートアップとして立ち上がり、AmazonやNetflixも出てきた時代でした。半導体メーカーのNVIDIAも、当時はパソコンの画像処理を担うグラフィックボードを手がけ、その中核となる半導体からGPUという言葉が広く使われるようになった時期です。テクノロジーの進化が日々変わっていく。今、経営をしていても、変化に対応していかなければならないという感覚は、その頃に見た劇的な変化が背景にあります」

シリコンバレーの街:高千穂交易株式会社提供写真

高千穂交易を選んだ時に感じた「挑戦できる会社」という魅力は、入社後の現場経験、そしてシリコンバレーでの経験を通じて、より確かなものになっていきました。その経験は、井出さんが社長となり、新しい技術の情報を“待つ”のではなく“取りに行く”判断へとつながっていきます。

写真中央が井出さん:高千穂交易株式会社提供写真

社長就任翌月、未来の技術情報を自ら取りに行く仕組みへ 

シリコンバレーで井出さんが見たのは、技術そのものだけではなく、新しい企業が次々と生まれ、技術が社会を変え、ビジネスの形まで一気に変わっていくその速さでした。その経験は、社長に就任した時の危機感につながります。

高千穂交易は創業以来、世界の新しい技術を見つけ、日本に合う形で届けてきた会社です。しかし、その「見つける力」は、長くアメリカで人脈を築いてきた創業メンバーの存在に支えられていた部分もありました。投資家や弁護士など、さまざまな人とのつながりから情報が入り、新しい商材の種を見つけていたのです。しかし、その人が引退すれば、情報の入口は細くなります。

「その人脈が弱くなっていくことに、すごく危機感を持っていました。だから社長になった翌月にはアメリカに行きました。新しい情報は、お金を出して買うしかない。そう考えて、VC(ベンチャー・キャピタル)投資をしようと判断しました」

VCとは、これから成長しそうなベンチャー企業に投資し、技術や市場の動きを近くで見ている存在です。井出さんにとってVCとつながることは、未来の商材につながる情報を偶然待つのではなく、自ら取りに行くための方法でした。

社長として最初に取り組んだのは、単なる投資ではなく、新しい技術との出会いを、個人の人脈や偶然に頼らず、会社として続けられる仕組みに変えることでした。

そして、技術も事業も変わり続けるからこそ、会社にはもう一つ必要なものがありました。社員一人ひとりが、変化の中で何を基準に判断するのか。そのための言葉です。

変化し続ける会社に必要だった、迷った時に戻る言葉 

新しい技術は、優れていればすぐに社会に受け入れられるわけではありません。むしろ、まだ必要性が理解されていない段階では、違和感や抵抗を持たれることもあります。だからこそ高千穂交易には、技術を見つける力だけでなく、その技術を顧客の現場に合う形へ変え、社会に根づかせていく力が必要でした。

2024年に策定されたパーパス「技術の力と、人へのやさしさで、空間に『新しい必要』をつくる。」には、その姿勢が表れています。

「技術が進化し、情報もあふれる中で、社員一人ひとりが迷った時に戻れる場所が必要ではないかと思いました。立ち止まった時、悩んだ時、必ず戻る場所になる言葉。それが今回のパーパスだと思っています」

パーパスは、約50人の社員がワークショップに参加し、会社の歴史や強みを振り返りながら作り上げました。浸透に向けて、パーパスにある「技術の力」「人へのやさしさ」「新しい必要」を体現している社員を、社員自身が考え、投票するパーパス表彰も行っています。

「やさしさ」は、技術を社会に根づかせる力 

中でも井出さんが高千穂交易らしいと感じているのが、「人へのやさしさ」という言葉です。

「高千穂交易の社員はやさしい人が多い。最初は、『やさしさ』という言葉に少し弱い印象も感じていましたが、逆に強みなのではないかと思うようになりました。エッジの効いた尖った商材や新しい技術をお客さまに展開していく時にも、お客さまの立場に立って、思いを巡らせる必要があります」

その象徴の一つが、万引き防止システムです。

今では店舗に同システムがあることは珍しくありません。しかし、導入当初は「お客さまを疑うような装置を店に置くのか」と受け止められることもありました。

「万引き防止システムは、当社が50年以上前から販売してきた製品です。当時は『お客さまは神様』という考え方が強く、神様が来てくださる場所に、盗みを防ぐような装置を置けるかと言われることもありました。カタログを捨てられることもあり、営業活動は厳しかったと思います。でもシステムを導入するお客さまの考えを尊重しながら、対話を重ね、製品を試行錯誤していくことで、今では、店舗にあることが当たり前になっています」

新しい技術を届けるとは、ただ「便利です」「必要です」と押し出すことではありません。相手の違和感や不安を受け止めながら、現場に合う形で届け続けることです。高千穂交易にとっての「やさしさ」とは、弱さではありません。まだ理解されていない技術を、社会に受け入れられる価値へ変えていく力なのです。

真っ先に相談される会社であり続けるために

高千穂交易が目指しているのは、顧客が困った時、真っ先に相談される会社であり続けることです。

「新しい技術は、10年後、20年後も必ず世界の中で出てきます。それをいち早く見つけ、日本に持ってきて、日本に合うようにアレンジする。あるいは日本から海外へ展開していく。その役割は、これからも変わらないと思います。お客さまに課題がある時に、真っ先に相談していただけるポジションであり続けたい。そのためには、情報やソリューション力、課題解決能力を持っていなければなりません」

「当社は会社全体で見ると、決して大きな会社ではありません。ただ、それぞれの業界では、高千穂交易のことを知っていただいている領域があります。そういう意味では、業界の中で頼られ、信頼される存在であるという自負はあります」

国内の代表的企業や官公庁などとの取引も多く、長く選ばれ続けてきた関係性も、高千穂交易の強みです。 

世界の技術を見つけて日本の現場に合う形へ変える。顧客の課題を受け止める。その積み重ねが、高千穂交易を「真っ先に相談される会社」に近づけています。

「日本から海外、海外から海外へ」新しい事業の軸をつくる

将来的に井出さんが目指しているのは、単に会社の規模を大きくすることではありません。社員を増やし、雇用を生み、納税を通じて社会に還元する。事業を成長させることを、社会への貢献を広げることにつなげようとしています。

「社員が増えれば、社会への貢献も大きくなります。雇用も生まれますし、納税も含めて、会社として社会に返せるものも大きくなる。その一つの手段として、グローバル展開があります。世界から日本へだけではなく、日本から世界へ、さらに海外と海外をつなぐような展開もしていきたいです」

目標の一つが、2030年に海外売上比率を4割にすることです。東南アジアやインド、アメリカ、中国などでの展開を広げ、創業以来続けてきた「世界から日本へ」という流れを、「日本から世界へ」、さらには「海外から海外へ」と広げようとしています。

同時に、井出さんは現在のセキュリティ系、半導体・機構部品という2本柱に続く、第3の事業の軸もつくろうとしています。

「早い段階で、もう一つの大きな軸をつくり、グローバル展開も含めて土台をつくっていくことが、今の私の仕事だと思っています」

新たな技術や事業の可能性を見つけ、それを国内外の市場へ届ける。井出さんが描く次の成長は、既存事業を大きくするだけではなく、新たな事業の柱と世界への販路を同時につくることにあります。

未来の「必要」を見つけ、社会に届く形へ変える高千穂交易。その挑戦は、日本の外へ、そしてまだ見ぬ新しい事業領域へと広がっていきます。

もっとも印象に残った言葉

「最初は、『やさしさ』という言葉に少し弱い印象も感じていました。やさしいばかりでいいのか、という思いもありました。ただ、高千穂交易の社員はやさしい人が多い。そのやさしさは、逆に強みなのではないかと思うようになりました。エッジの効いた尖った商材や新しい技術をお客さまに展開していく時こそ、お客さまの立場になって、使いやすいものにしていく必要があります。そこには、相手を思う気持ちが必要です」

聞き手:丸山夏名美 執筆:天野崇子
※提供写真以外は、2026年8月21日 丸山夏名美 撮影

企業情報

会社名:高千穂交易株式会社
取材対象者:代表取締役 社長執行役員 井出尊信さん
設立年月:1952年3月13日
経営理念:技術商社として「創造」を事業活動の原点に据え、テクノロジーをとおして顧客満足を高め、技能と人間性を磨いて世界に通用する信用を築き、豊かな未来を拓いて社会に貢献することを掲げています。
パーパス:技術の力と、人へのやさしさで、空間に「新しい必要」をつくる。
事業内容:セキュリティシステム、情報ネットワークシステム、半導体および機構部品等の輸出入・販売・据付・保守サービス、システム設計・システム運用受託等サービス
所在地:〒160-0004 東京都新宿区四谷一丁目6番1号 YOTSUYA TOWER 7F
URL:https://corp.takachiho-kk.co.jp/

天野崇子

天野崇子

第1期ハツレポーター/1968年秋田県生まれ。東京の人と東京で結婚したけれど、秋田が恋しくて夫に泣いて頼んで一緒に秋田に戻って祖父祖母の暮らす家に入って30余年。

ローカリティ!編集部のメンバーとして、みなさんの心のなかのきらりと光る原石をみつけて掘り出し、文章にしていくお手伝いをしています。

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