伝統芸能がつなぐ心の絆「長期避難と祭り」から見えた、地域再生の希望【福島県双葉町】

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福島県双葉町にある東日本大震災・原子力災害伝承館で、企画展「長期避難と祭り~伝統文化がつなぐ地域住民の絆」が開催されている。震災と原発事故によって一時は途絶えた地域の祭りや伝統芸能が、どのように息を吹き返し、住民の心と歴史をつなぎ直してきたのか─その軌跡に触れられる展示だ。

▲ふだん間近で見る機会のない衣装の展示も (東日本大震災・原子力災害伝承館、2025年2月=筆者撮影)

展示では、浪江町や双葉町など双葉郡8町村と飯舘村を拠点に活動する団体による、伝統芸能の取り組みを紹介。会場には、田植え踊りの衣装や神楽(かぐら)の獅子頭(ししがしら)など、実際に使われている祭具が並んでいる。

「自分たちの代で絶やさない」受け継ぐ覚悟

展示の中心にあるのは、単なる「地域の祭り」の記録ではない。災害によって離ればなれれになった住民たちが、どう再びつながり、消えかけた伝統をどのようにして守り続けてきたのか──その一つひとつの歩みが丁寧に示されている。

▲関係者らが現状の課題などを意見交換した際のパネル(東日本大震災・原子力災害伝承館、2025年2月=筆者撮影)

たとえば、原発事故の影響で避難指示が最も長く続いた双葉町では、神楽を奉納してきた「三字(さんあざ)芸能保存会」が、メンバーの居住地が分散してしまい、活動の継続が困難になったという。また、川内村では、獅子舞を継承するために、演じ手となる子どもたちを確保するのに苦労しているそうだ。人口減少と少子化が進むなか、伝統を未来へつなぐための課題は一層深刻になっている。しかし、これらの伝統芸能の存続は「かつての暮らしの象徴」であると同時に、「新しいコミュニティの形成」にもつながっている。

避難した人、帰還した人、もともと地元にいた人、そして新しく移り住んだ人々など、立場や背景の違いを越えて、祭りが人と人を「再びつなぐ場」となっている。

▲各地の貴重な資料が所狭しと展示されている (東日本大震災・原子力災害伝承館、2025年2月=筆者撮影)

地域を守る「強く、しなやかな人びと」

展示を見て強く感じたのは、「伝統を守ること」が過去を懐かしむだけのためではない、ということだ。そこには、震災という苦難を経験しながらも地域の誇りを失わず、高齢化や人口減少という課題にも向き合いながら、未来に希望の種をまき続ける人々の姿があった。

▲民俗芸能や和太鼓の披露をし、多くの来場者の前でその思いと技を届けた(東日本大震災・原子力災害伝承館、2025年2月=筆者撮影)

最後に──「文化」は生きている

今回の企画展を通して、あらためて「文化とは生きているもの」だと感じた。それは、人と人の心をつなぎ、過去と未来を結ぶ橋でもある。

展示室に並ぶ獅子頭や衣装、パネルにつづられた一言ひとことに、地域を守ろうとする人々の誇りと祈りが込められていた。

祭りは、地域再生の象徴であり、復興の原動力でもあるのだと──。

企画展は2025年8月17日(日)まで開催中。ぜひ足を運び、「伝統文化が今も生き続けている姿」に触れてみてほしい。

※本文中に記載、表示されている情報は取材時点のものです。展示内容は時期によっては変更になっている場合があります。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。

昆愛

昆愛

埼玉県川越市出身。前住地は山形県鶴岡市。会社員のかたわら、地域資源の掘り起こしとその魅力発信活動に取り組む。2023年、「誰もいなくなった町。でも、ここはふるさと~原子力発電所と共存するコミュニティで“記憶”と“記録”について考える【福島県双葉郡富岡町】」で本サイトのベスト・ジャーナリズム賞を2年連続受賞、また2024年、天文活動の報告・交流等を目的としたシンポジウムでの発表「天文文化史で地元の魅力発信?九曜紋が導く新たな誘客構想とは【福島県南相馬市】」で渡部潤一奨励賞を2年連続受賞。

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