株式会社アイディエーション 代表取締役
Akitomo Shiraishi
白石 章兼氏
リサーチして得た情報は商品企画から販促活動などの営業活動において一貫して重要なデータとなります。しかし、広告代理店や専門的な調査会社など関わりのある人以外からしたら身近な業界ではありません。マーケティングリサーチやSaaS事業を展開する株式会社アイディエーションの代表取締役・白石 章兼(しらいし あきとも)さんは、リサーチ業界の存在価値の向上を目指しています。同時に地方創生にも力を入れる白石さんにデータ業界の実情と変革していきたい未来について、お話を伺いました。
営業力獲得のために不動産営業を経験。IT黎明期(れいめいき)にIT業界へ転職し、起業へ
創業までのキャリアを教えてください。
大学を卒業後、不動産の営業マンとしてキャリアをスタートしました。3年ほど在籍したあと、IT業界に転職したのですが、その会社が楽天グループに買収され、楽天リサーチ株式会社(現:楽天インサイト株式会社)の立ち上げメンバーとして9年ほど勤務しました。
楽天リサーチで展開していたリサーチ分野を仕事にフリーランスとして1年半ほど活動し、株式会社アイディエーションを設立しました。
もともと独立への思いはありましたか?また、なぜ不動産業界から未経験のIT企業へ転職されたのですか?
学生時代から独立志向が強く「なにかで独立したい」とは考えていました。そんな考えを持ちながら就職活動を行っていたのですが、入社した当時の社長が「会社を経営するには営業力が必要」といっており、起業に向けて一番実力をつけることができるのは不動産営業だと思い入社しました。
そこで営業成績1位を獲得できた時に、デジタル社会の発展が著しいこれからの時代はITスキルが必要だと考え、タイミングよく誘っていただいたこともあり、IT業界へ転職しました。会社員として働くのは3年と自分の中では決めていたのですが、楽天グループの一員として新設したリサーチ事業を拡大させることに喜びを覚え、合計9年程在籍。その後、独立しました。
ベテランばかりが活躍する業界で若手を育成するには「リスクを取ってでもやってみる」
現在の事業内容を教えてください。
二つの事業を行っています。一つはマーケティングリサーチ事業。事業会社が新商品の開発などをする際に、アンケート調査やグループインタビューなどを行うのですが、その中で「定性調査」と「定量調査」の企画・実行・運用・レポートまで一貫して受託しています。
もう一つはSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)事業を行っています。これはホテルの宿泊客が宿泊体験の感想を述べたアンケートを収集・分析するツールです。宿泊客がアンケート(紙・Web)に答えると、回答データが弊社のシステムにすべて蓄積されて、顧客満足度の調査結果をいつでも簡単に閲覧することができます。
マーケティングリサーチ事業の他社とは異なる強みを教えてください。
インタビュー調査が一番の強みです。消費者の深層心理を掘り下げ、その内容をレポートして提供するインサイトファインディングを行っているのですが、モデレーター(インタビュアー)の質とラインナップが強みです。
モデレーターは業界的に高齢化問題が起こっていて、それに比べてうちは「若い」ことが特徴です。世の中にいるプロインタビュアーの平均が個人的には50代後半から60代半ばが大多数を占めていると思っています。なぜかというと、例えば、自動車業界のクライアントから調査を依頼された際、担当モデレーターに対して、自動車業界への知識や、過去のインタビュー実績などを求められることが多く、結果的に経験豊富な年齢層のモデレーターが選ばれやすくなり、若手が育たないという業界の風潮があったので、一石を投じるためにも若手教育に力を入れています。
若手でも活躍できるようにどのような教育を行っているのでしょうか?
思考の部分もあるかもしれないですが、基本的には「リスクを取ってでもやってみる」ということを教育方針としています。 私自身、若手を教育する時には、自分がやっているところを見せたり、質問にはていねいに答えたりと「教えることに価値を感じ、時間をかける」ということを心がけています。若手が失敗をしても、経営者としてアドバイスをし、再度背中を押して、挑戦させています。
ほとんどありませんが、クライアント満足度が低い場合にすぐ代わりのインタビュアーをアサインするなどバックアップ体制も整えています。
社内でも、インタビューのやり方やレポート制作の型を高いクオリティーで体系化しているほか、マネージャーが最適に指導できるような体制も整えています。すべての業務において、「当たり前の基準値を高く」することによって活躍できていると思います。
SaaS事業でホテル業界に目をつけたワケ
SaaS事業を始められた経緯を教えてください。
アンケートやインタビューの企画から調査までを行うマーケティングリサーチ事業との親和性が高かったからです。また、海外と比例すると日本ではマーケティングリサーチの普及が十分ではないので、業界自体を底上げしたいと思いました。製造業やサービス業などリサーチの重要性を理解している事業会社の中には、年間10億円程度の費用を投じてマーケティングリサーチを行っているほど有用なサービスなのですが、マーケティングリサーチの必要性や価値がすべての企業に浸透しているわけではないのが現状です。
マーケティングリサーチをもっと簡単で安価に提供するためのサービスとして、SaaS事業を企画し、まずはホテル業界に目をつけました。宿泊施設自体は日本全国で約8万件ほどあるのですが、利益が出ている宿泊施設も、その利益の投資先として、費用対効果がわかりにくいマーケティングリサーチよりも集客活動に重きを置き、そこにマーケティングコストを投じる宿泊施設がほとんどです。
まずは月数万円で、簡単にリサーチできるような仕組みを提供したいと思い、SaaSのサービスを2020年3月にローンチしました。ですが、タイミングが悪く新型コロナウイルスが流行したこともあり、現在の注力事業はマーケティングリサーチ事業になります。
「東京水準で働ける会社を愛媛に」。業界の知名度アップも目指し
愛媛オフィスの役割を教えてください。
私の出身ということもあって愛媛にオフィスを設立しました。本社は東京ですが、展開している事業はまったく一緒になります。設立した経緯としては、愛媛で働く未来ある若者の「給料を上げたい」という思いでした。
マーケティングなどの仕事は利益率が高い業界ですが、比較的東京に集中しています。愛媛などの地方都市は利益率の高い仕事が東京と比べると少なく、それが給与水準の差分につながっていると考え、「東京に集中する利益率の高い業務を愛媛に流したい」と思ったのがきっかけでした。弊社のオフィスの社員は、同年代の愛媛で働いている人と比べても100万から200万円程年収が高いです。
愛媛で採用された方の具体的なエピソードがあれば教えていただきたいです。
ケーキ屋で勤務していたある人が「マーケティングをやりたい」と弊社に入社しました。まったくの未経験ではあったのですが、ある分野に趣味で精通しており、ポテンシャルを感じて採用しました。その結果、愛媛にいながら大手企業のUI(ユーザーインターフェース、ユーザーと製品やサービスをつなぐ接点)とUX(ユーザーエクスペリエンス、ユーザーが商品やサービスを利用して得られる体験)の調査インタビューができるようになりました。
この事例は、とても夢があると思いました。地方で働く人たちにとっては、日本中でだれもが知っているような大企業と仕事をしてみたくても、その機会はほとんどなく、とても遠い存在に感じると思うのですが、それが地方でも実現したのです。大手企業の本部のマーケティング責任者の方々と、まったく別の分野で働いていた人が、同じポジションで仕事ができるようになったことがとても印象的でした。
今後、愛媛の地方創生に関してはどのように取り組んでいきたいと思っていますか?
愛媛の方にリサーチ業界を知ってもらうと同時に、雇用を通じて県全体の賃金アップをはかりたいと思います。
採用広告を1カ月ほど掲載すると、東京からは平均して約150人の応募がきます。一方で愛媛からの応募はほとんどきません。応募が来ないのは、こういった「マーケティングリサーチ」自体を知らないからではないかと思っています。東京の人であれば広告代理店やメーカーで働く友人・知人が周囲にいて、リサーチ業務を知る機会があるのかもしれませんが、愛媛だとそういった分野の仕事が身近ではないので想像できないのだろうと思います。
なので、「リサーチ業界」としての認知を獲得し、愛媛でこの業界を志す人が増えたらうれしいです。また、業界全体のイメージをスタイリッシュかつ、権威性のあるとても重要な仕事という明るいイメージを全国的に広げていきたいと考えています。
取材日:2024年7月26日
株式会社アイディエーション
- 代表者名:白石 章兼
- 設立年月:2015年11月11日
- 資本金:10,000,000円
- 事業内容:マーケティング・リサーチ事業/デジタルマーケティング事業
- 所在地:
本社:〒150-0013 東京都渋谷区恵比寿4-6-10 恵比寿ホークビル7F
松山事業所:〒790-0062 愛媛県松山市南江戸2丁目9-17せとかんビル301号 - URL:https://www.ideation.co.jp/
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