村長からヨソモノまで同じ舞台で舞う。130年続く小永田神代神楽が今年も開催。【山梨県小菅村】

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山梨県小菅村の無形文化財に指定されている「小永田神代神楽(こながたじんだいかぐら)」は、明治時代に伝承されたとされ100年以上、小永田集落に住む村民が継承をしてきました。高齢化や新型コロナウイルスの影響で全国ではお祭りが消滅していくなか、小永田神代神楽は村長から移住者、さらには村には住んでいないヨソモノも同じ舞台で舞っています。どうして小さい村の、里神楽がここまで人を惹(ひ)きつけるのか、実際にお祭りに参加し村人や参加者にお話しを伺いました。

客席から笑い声が聞こえてくる、130年続く小永田神楽とは

山梨県小菅村は多摩川の源流に位置する人口618人(令和6年8月1日現在)の小さな村です。村の総面積の95%が森林に囲まれています。豊かな自然環境のなかで、季節の行事を楽しみながら暮らすことができます。

小菅村にある8つの集落のうちの1つ、小永田集落では、毎年5月5日には小永田浅間神社祭典、9月の第1土曜日には小永田熊野神社祭典がとり行われ、村の無形文化財に指定されている「小永田神代神楽」が奉納されます。

2024年9月7日(土)夜7時頃、夜の神社から笛や太鼓、村人の笑い声が聞こえてきます。その日は熊野神社にて130年続く「小永田(こながた)神代神楽」の奉納が行われていました。

130年の伝統ある神楽…それだけ聞くと、見ていてもストーリーが分からないし、お堅くて静かに鑑賞しなければいけないの?と思いきや、客席では子どもたちが一緒に踊り、大人は手拍子をして盛り上がり、笑い声が響く温かい空間でした。

小菅村に近い多摩地域である、東京都あきる野市二宮という地区の神楽師集団から、神楽面・衣装等をはじめ、芸まで譲り受けたと言われています。明治27年(1894年)に伝授されたとされるお神楽は今年で130年目となります。

20数年、上演されていなかった幕が村の若者によって復活

神楽が奉納されるのは夜7時からです。それまでの時間は、舞台づくりや清掃、神楽の演者たちが芸能開始前の禊(みそぎ)として川で行う「千垢離(せんごり)」、拝殿での神事、その後集落の神様が祭られている箇所で獅子舞を舞う「宮廻り(みやめぐり)」が行われます。

奉納する神楽の幕数は全部で13幕あります。近年では人口減少とともに舞手も減少しており、13幕全ては演じていません。今回は4幕、上演されました。

子どもたちも楽しめる理由の一つとして、江戸時代という比較的新しい時代に作られたお神楽のため、芝居・歌舞伎と結びついて演劇性が高いという点があります。

中でも「悪鬼退治の幕」は、題材となる神話がない、小永田神代神楽にしかない珍しい演目です。4人の鬼が倒されまいと必死に戦う様子は動きがコミカルで、ついつい鬼を応援したくなる演目です。

今回、最後に奉納された「大江山金札場」は二十数年ぶりに復活した幕です。京都府福知山市の大江山連峰に住んでいた酒吞童子という鬼を、源頼光が首を切って退治した伝説を題材としています。

人口減少や高齢化により、舞手が減っているなか「今年の神楽では何か新しいことをしよう!」と立ち上がったのは、小永田集落出身の20〜30代の若手たちでした。面白くて、迫力のある幕で、見に来る人に楽しんでもらいたいという思いで今回復活しました。

伝統を重んじ、神楽を引き継ぐ小菅村出身の若手が、今年の神楽を大いに盛り上げ、幕の終わりには大きな拍手が送られました。

「来るもの拒まず、去る者拒まず」ヨソモノを巻き込み継承されていく

小永田集落は、舩木直美・小菅村村長の出身集落であり、村長自らも舞っています。今年も重要な役を舞いきりました。

(左:舩木秋広さん、真ん中:舩木直美村長、右:舩木賞美保存会会長)

舞台で舞っているのは村人だけではありません。現在東京在住、小永田神楽に出会って20年目の加藤翔さんも同じ舞台で舞っています。大学時代に初めて神楽の見学に行った際に、温かく迎えられ、それから毎年参加するようになったそうです。

神楽に通い続ける理由を聞いてみると、

「初めはしっくりくる理由が分からなかったが、ただただ小菅村が好きだということに気づいた。小永田の方から、村の出身でもない僕に神楽の役をいただいたことは自分の人生の中で1番の出来事であり、とてもうれしく思っている。今では年に2回のお神楽は生活の一部です」と語ってくれました。

小菅村では学生インターンの受け入れを長年行っています。学生時代に神楽のお手伝いをし、今日は6年ぶりにお手伝いをしに来ました!というOGもいました。今回は10人以上のOBOGと現役学生も、準備から片付けまでお手伝いをしていました。

村人以外も多く参加していることについて、小永田神代神楽保存会会長の舩木賞美さんにお話しを聞いてみると、

「来るもの拒まず、去る者拒まずの精神でやっている。小永田は毎年こんなにも村外からも人が来てくれて、開催できることがうれしい。これからも一緒に盛り上げていきたい」と語ってくれました。

村長からヨソモノまでが同じ舞台で舞い、神楽を盛り上げようとしていく動きは、過疎化が進む小菅村で「にぎやかな過疎」になりつつあるなと感じました。

「村の温かさが伝わるお祭り」小永田神代神楽は村を盛り上げていく

小永田神代神楽では、村の人が130年引き継いできた情熱、それに感化されて仲間に加わった人たち、たくさんの思いが詰まっているなと感じました。

ある学生が感想を村人に聞かれ、

「最高級なくらいに地域の人が温かい。一緒にご飯を食べたり、輪になって話したり、それが温かい」と言っていました。

それを聞いた村人は、

「人は支えあっていかないと生きていけない。小菅村では昔から支えあって生きてきた。そんな温かさをこの小永田神楽で感じてくれて、学生にも伝わっているのがうれしい」と。

ここにまた帰ってきたいと思う理由は「誰と出会うか」が1番大きいと思います。小永田神代神楽を通して、この村の魅力はさらに増していくな、と感じました。

※写真はすべて筆者が撮影

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情報

小永田神代神楽の奉納は年に2回開催。

■小永田浅間神社祭典

開催日:毎年5月5日
※松姫峠中腹にある神社。現在村道松姫峠線が土砂崩れの影響で通行止めのため、2025年の開催は未定。

■小永田熊野神社祭典

開催日:毎年9月の第1週土曜日
〒409-0211 :山梨県北都留郡小菅村小永田小永田1389
小菅村役場HP:http://www.vill.kosuge.yamanashi.jp/

小菅村を楽しむ総合情報サイト「こ、こすげぇー」 https://ko-kosuge.jp/

山下春奈

山下春奈

山梨県小菅村

第8期ハツレポーター

北海道札幌市生まれ、埼玉県川口市育ち。2021年4月に多摩川の源流域である山梨県小菅村にて地域おこし協力隊に着任。卒業をし、現在は小菅村を楽しむ総合情報サイト「こ、こすげぇー」にて村の賑やかで豊かな暮らしの発信を行っている。趣味はラジオを聴くこととはしご酒。ワクワクするローカルの魅力をどんどん発信していきます!

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