
静かな山道に咲く、色とりどりのアジサイ。山形市村木沢地区にある出塩文殊堂(でしおもんじゅどう)は、毎年6月下旬から7月中旬にかけてアジサイが咲き誇ることから、「あじさい寺」として多くの人に親しまれている。
2025年、今年もこの季節がやってきた。現在「むらきざわあじさい祭り」が開催中であり、7月5日(土)からはライトアップも行われ、夕暮れから夜にかけて幻想的な風景が広がる。

目次
1200年の歴史を持つ「知恵の仏」が見守るあじさい参道
出塩文殊堂は、約1200年前に弘法大師・空海によって開かれたと伝えられる由緒ある寺院である。境内へと続く長い参道は、全長515メートル。その両側には、青や紫、ピンク、白といった約2,500株 約40種類ものアジサイが彩りを添えている。
この場所には、アジサイの彩りだけでなく、弘法大師にまつわる不思議な伝説も残っている。塩不足に悩む村人のために、空海が加持祈祷(きとう)を行って地面を掘ったところ、塩水が湧き出たという「塩池伝説」である。この言い伝えが、地名「出塩」の由来になったともいわれ、現在も村内の一部では田畑を掘ると塩水が出る場所があるという。
周辺には、寒河江の平塩地区など、「塩」のつく地名や塩泉が点在しており、この土地が持つ地質的な特性と、弘法大師の信仰が重なり合った形で今日まで語り継がれてきた。文殊堂のたたずまいとアジサイの風景には、そうした長い時の記憶が静かに息づいている。
またこの場所は、学業成就や知恵を授かる仏として知られる「文殊菩薩」を祭ることから、受験生やその家族にとっても信仰の対象となっている。初夏の空気に包まれながら歩く参道は、ただ美しいだけでなく、どこか心を整えてくれるような静けさに満ちている。

夫婦の絆を伝える、「文殊様の夫婦杉」
この寺のもう一つの見どころが、「文殊様の夫婦杉」である。もともとは2本だった杉の木が、時を経て1本に結びついたという非常に珍しい樹木で、その姿は「支え合い、寄り添い合う夫婦」の象徴として語り継がれている。
この夫婦杉には、近年大学生による研究活動も行われており、現地には記録映像やAR体験ができる二次元コードが設置されている。杉の歴史や成長の過程、地域の人々との関わりをデジタルで知ることができるこの取り組みは、歴史とテクノロジーの融合としても注目されている。
「仲良く寄り添い合える関係でありたい」――そんな思いを込めて、この杉に手を合わせる人も少なくないという。

見頃は今。アジサイと共に歩く静かな梅雨旅
2025年は開花がやや早く、筆者が訪れた6月末時点ですでに見頃を迎えていた。今後の天候によっては、7月中旬には花の勢いが落ち着く可能性もあるため、訪問は早めがベストである。
参道は比較的なだらかで歩きやすいが、スニーカーや歩きやすい靴を履いておくとより快適だ。近隣には農産物直売所や地元グルメを楽しめるスポットも点在しており、午前中に寺を訪れて、午後は市街地でのんびり過ごすというプランもおすすめである。
出塩文殊堂の静けさに包まれながら、アジサイの道を歩き、夫婦杉に心を寄せる。そんな梅雨の旅を、今年は山形の「あじさい寺」で始めてみてはいかがだろうか。

アクセス・開催情報
イベント名:むらきざわあじさい祭り
開催期間:2025年6月28日(土)〜7月13日(日)
ライトアップ:7月5日(土)〜7月12日(土)日没〜21:00頃まで
場所:出塩文殊堂(山形県山形市村木沢地区)
アクセス:JR山形駅から車で約25分/無料駐車場あり
入場料:無料



※写真は全て筆者が撮影(2025.06.25)
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