「すべての子どもが環境に左右されず学べる社会」へ。ICTで切り拓く未来の教育 <株式会社すららネット湯野川孝彦さん>【東京都千代田区】

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教育の在り方が大きく変わる中で、教育(Education)× テクノロジー(Technology)を表すEdTechという言葉が一般化するよりも前から、デジタルを活用した学びの可能性に挑み続けてきた企業があります。株式会社すららネットは、2007年にアダプティブラーニング型eラーニング『すらら』を開発し、2010年に独立。日本における先駆的な個別最適化学習サービスとして普及している。デジタル教育がまだ一般的ではなかった時代に、ICTを活用した学習の価値を広め、教育現場の課題解決に取り組んできました。

すららネットの成長の背景には、学力格差と所得格差の密接な関係に着目し、すべての子どもに学習機会を提供するという強い使命があります。公立・私立学校や学習塾での活用だけではなく、放課後等デイサービスや震災後の仮設住宅での提供、さらには世界のスラム地域への支援にも取り組み、「どんな環境にある子どもでも学び続けられる仕組み」を構築してきました。

本記事では、すららネットの代表・湯野川孝彦(ゆのがわ たかひこ)さんに、創業の経緯や成長の軌跡をたどるとともに、これからの挑戦と未来に迫ります。

株式会社すららネット代表取締役 湯野川 孝彦さん

埋まらない教育格差。アナログ教育の弱点

湯野川さんはもともと教育業界とは無関係のキャリアを歩んでいました。ベンチャーリンクの新規事業担当役員として、飲食業やフィットネスなどフランチャイズ展開を支援する仕事に携わりながら、さまざまなブランドの全国展開を経験しました。 

その中で、個別指導塾チェーンの支援も担当するようになり、教育現場の課題に直面しました。「当時の教育業界はまだアナログ中心で、デジタルを活用した学習という概念はほとんどありませんでした。塾もアルバイト講師によるマンツーマン指導が主流でしたが、それでも学習格差は埋まらず、環境や家庭の経済状況によって大きな違いが生まれていました」と語ります。 

当時の学習塾では、講師の力量によって指導の質にばらつきがあり、特に学力の低い生徒は過去のつまずきを抱えたまま、学習についていけなくなるケースが多く見られていたのです。学習塾に通っても、基礎の理解が不十分なまま進んでしまう生徒がおり、「アルバイト講師がその子のつまずきを的確に見抜き指導するのは難しいのが現実」。この状況をなんとかしたいという湯野川さんの思いが、『すらら』誕生につながっていきます。 

「つまずき」の原因を明らかにし、学習機会が不足している子供たちへの支援を強化

そうした中、湯野川さんは「学習の個別最適化」という考えに基づき、AIで生徒一人ひとりの理解度に応じて学習を最適化する『すらら』を開発しました。単元ごとにスモールステップで進めることで、基礎に戻ることが必要な生徒には適切な復習を促し、理解が進んでいる生徒には次のステップへ進めるという柔軟な学習設計を構築したのです。さらに、興味関心を持たせ学習意欲を引き出ため、アニメーションのキャラクターが語りかけながらわかりやすく説明する対話型を採用しました。 

「個別指導では講師の時間やスキルに依存してしまいますが、『すらら』なら生徒自身が自分に合ったペースで学べます。画面のキャラクターとともに『わかった!』と実感できる瞬間を積み重ねることで、学習への意欲を高めます」 

この仕組みにより、従来の学習塾では対応しきれなかった「つまずき」の原因を見つけ出し、適切なレベルから学び直すことで、短期間で成績が向上する生徒が増えました。実際に、「すらら」を活 用した学習塾では、「偏差値30台の生徒が50台まで伸びた」「不登校だった生徒が学び直しを経て高校受験に合格した」といった実績が出始めました。 

会社自体が業績不振の中、この事業を継続していく必要性を感じた湯野川さんは、2010年に独立を果たし、すららネットを設立。『すらら』は単なるデジタル教材ではなく、学習のつまずきを解消し、誰もが「大人になっても役に立つ真の学びができる環境」を提供するEdTechとして、学習塾に限らず、学校現場でも活用されるようになっていきます。 

「従来の教育の枠組みにとらわれない」姿が評価され

すららの導入が進んでいるのは、学習塾や学校だけではありません。放課後等デイサービスや矯正施設など、これまで十分な学習支援を受けることが難しかった環境でも活用が広がっています。

「最近では、少年院や刑務所でも採用されるようになりました。教育の機会を失った人たちが、もう一度学び直せる環境を整えることも、私たちの役割だと思っています」と湯野川さんは話します。従来の教育の枠組みにとらわれない挑戦を続ける姿勢が、多くの現場で評価されているのです。

エジプトの子どもたちも『すらら』で勉強中。世界中のあらゆる教育格差をなくす

さらに、海外市場での展開も進んでいます。最近では、エジプトの大手私立学校での採用は大きな一歩となりました。またスリランカでは孤児やDVにあった子ども達を反故するNGOでも提供されています。「経済的な理由で十分な教育を受けられない子どもたちが世界中にいます。『すらら』を活用すれば、低コストで学習機会を提供できる。今後も、こうした環境にある子どもたちへの支援を広げていきたいと考えています」と湯野川さんは展望を語ります。

一方で、EdTechの普及に伴う競争の激化、教育関係者への認知拡大、海外展開における資金やリソースの確保など、克服すべき壁は多く存在します。しかし、湯野川さんは「私たちは、ただの教材提供企業ではなく、すべての子どもが環境に左右されず学べる社会を目指す会社です。その使命のもとに、これからも愚直に挑戦を続けていきます」と力強く語ります。 

すららネットが存在する未来では、すべての子どもが学び続ける環境を手に入れ、教育格差が縮小していきます。もしこのような学習環境がなければ、経済格差による学力の断絶が進み、教育機会の不均衡が拡大する可能性があります。すららネットの挑戦は、まさに「時代の開拓者」としての役割を果たしています。 

聞き手、執筆 木場晏門

木場晏門

木場晏門

神奈川県鎌倉市生まれ藤沢市育ち、香川県三豊市在住。コロナ禍に2年間アドレスホッピングした後、四国瀬戸内へ移住。webマーケティングを本業とする傍らで、トレーニングジムのオープン準備中。

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