AIで不動産業界・町づくり・社会を変革。リテラシー格差ゼロの社会へ<トグルホールディングス株式会社>【東京都港区】

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トグルホールディングス株式会社代表取締役 伊藤嘉盛さん (左から2人目)

トグルホールディングス株式会社(以下、トグルホールディングス)は、2020年に創業された、不動産業界に革新をもたらすテクノロジーカンパニーです。代表の伊藤嘉盛(いとう・よしもり)氏は、不動産業界での豊富な経験と、金融工学や脳神経科学の知見を生かし、これまでに業界の課題を解決する数々の技術とサービスを開発してきました。その根源には、テクノロジーを活用して効率化が遅れる業界構造を改革をしたいという情熱があります。

トグルホールディングスでは、これまで別々の仕組みで運用されてきた不動産、建築、金融のプロセスを統合し、データやAI技術を活用して業務の効率化と透明化を推進しています。これにより、3つの業界の新しいスタンダードを築き、次世代の都市開発を見据え、挑戦を続けています。

今回は、代表取締役の伊藤嘉盛氏に、どのような思いでこの事業を立ち上げ、何を目指してきたのか、さらに今後どのように業界を変えていこうとしているのかをお伺いしました。

不動産業界の非効率性を感じ、自らテクノロジーで効率化の仕組みを構築

伊藤嘉盛氏(以下、伊藤氏)は、学生時代から強い好奇心と探究心を持ち続けていました。高校時代から大学時代にかけてバンド活動に熱中し、東京ドームでのライブを目指すなど、高い目標を追求し続けてきました。しかし、バンド活動では才能の壁を感じ、自分自身の強みを生かせる別の領域に目を向けるようになりました。大学卒業後は三井不動産グループの関連会社に就職。賃貸マンションの新規開発を手掛ける部署に配属され、主に家賃査定を担当しました。家賃査定業務では、物件情報を確認し、市場データを基に適正な家賃を設定することが求められましたが、手作業や属人的な判断が多く、非効率性を感じる場面が多々あったそうです。伊藤氏は、このような状況を改善するため、エクセルのVBAを使い、自らデータ分析を効率化する仕組みを構築しました。

伊藤氏の就職先に限らず、当時の不動産業界は、FAXや手作業に依存する業務が多く、テクノロジーの導入が十分に進んでおらず、情報の共有や管理が効率的ではなく、大きな改善の余地がありました。この経験から伊藤氏は自ら技術を活用し、効率化を進める方法を模索するようになります。

不動産業界を効率化するSaaSサービスに挑戦し、技術の力を確信

伊藤氏は2008年、24歳の時に不動産仲介業の会社を立ち上げました。「明らかに人間がやらなくてもいい作業を、業界全体で全員がやっている」という状況への疑問のなかでも特に「データはすでにWeb上にあるのに、わざわざそれを紙に転記してFAXで送る非効率さ」に課題意識を持つようになります。

2012年には、不動産賃貸領域に特化したSaaS事業を立ち上げます。この事業では、「入居申し込みのFAXや手書きの契約書作成といった煩雑な業務を自動化できないか」という思いから、不動産業界向けのプラットフォームを構築。不動産業者がスムーズな取引や情報の透明化を実現する仕組みを提供しました。本サービスは業界内外から評価を得ることができ、多くの企業と連携しながら、短期間で成長を遂げました。

このSaaS事業は2018年に売却しましたが、伊藤氏は「技術の力で業界を変えられるという確信を得た」と語っています。

 1カ月かかった仕事が数分で完了。不動産業界に変革を起こす

現在の主な事業の一つは、ボリュームチェック(その土地にどのくらいのボリュームの建物を建てられるかを確認する工程)から相場調査までワンストップかつスピーディーに行うことができる「つくるAI デベNAVI」というサービス。地図上で土地をクリックするだけで、その形状や地域特性に基づき、建築可能なプランや収益性を提示します。伊藤氏は「都市計画法や建築基準法など、バラバラに管理されていた情報を集約することで、設計士が手作業で行っていた調査・分析をAIが瞬時に行えるようにしました。不動産業界の透明性が飛躍的に上がり、土地利用の意思決定が誰にでも簡単に行えるようになりました」と語ります。従来は2週間から1カ月を要していた業務が、わずか数分で完了するという、劇的な効率化を実現しています。

同社の取り組みは、業界全体の課題を解決するだけでなく、土地所有者がその価値を適切に理解し、最大限活用できる時代をつくることを目指しています。現在では、80社以上がこのサービスを利用し、業務の効率化と収益性向上を実現しています。

地域・土地ごとにカスタマイズ可能なサービスで課題を解決

「不動産取引の効率化と透明性向上を図りたい」と伊藤氏は語ります。その事業の一環として、「誰でも簡単に使えるインターフェース」を開発し、ユーザーが技術を利用しやすい環境を整備しています。

加えて、同社は地域特性や土地の条件を考慮したカスタマイズ可能なソリューションの提供にも注力しています。「全国一律ではなく、地域ごとの事情に合わせたサービスを展開することで、より現実的な課題解決が可能になる」と伊藤氏。これにより、都市部では高度で迅速な運用を、地方では地域ニーズに即した価値提供を目指しています。

AI技術を活用し、理念共有やカルチャーの醸成を。成長できる組織構築へ

事業の成長にともない、トグルホールディングスの社員数はここ数年で約30人から100人規模へと約3倍に増加し、多様なバックグラウンドや価値観を持つメンバーが集まりました。これからさらなる成長を遂げるためには、組織体制の確立とカルチャーの醸成が重要となります。「優れた才能が集まるだけでは、持続的なイノベーションを実現することに限界があります。今は組織として進化し続けられる基盤の構築に力を入れています。例えば、私たちはAIを活用して、組織の価値観やノウハウを明確に記録し、次世代に引き継ぐ仕組みを作っています」と伊藤氏。同社では社長が重要だと感じた発言や理念をAIが記録し、社内のディスカッションや意思決定の際に自動で参照できる仕組みを整えています。このようにAIを活用しながら理念共有や価値観の一貫性を保つ仕組みを構築しているのです。

「誰もが恩恵を受けられる社会へ」不動産業界を超え社会全体のリテラシー格差の解消へ

伊藤氏は「不動産業界がデータに基づいた正確な意思決定を瞬時に行えるようになれば、都市開発のスピードが格段に向上します。これにより、社会全体にポジティブな影響を与えられると信じています。これまで長期化していたプロセスを効率化し、無駄を削減することで、まちづくりがより持続的で、誰もが恩恵を受けられる仕組みを実現したい」と伊藤氏は語ります。

技術の普及によって不動産市場の透明性が向上し、個人や中小規模の土地所有者も適切な判断を行えるようになります。「地方や小規模な土地所有者にも、わかりやすく公平な情報提供ができるようにしたい」と伊藤氏は、不動産業界におけるリテラシー格差の解消に意欲を見せます。また、AI技術による効率化は、従来の煩雑なプロセスを排除し、社会全体でのコスト削減や資源の最適活用にもつながります。

「不動産業界全体の課題解決が、社会全体の効率化や持続可能性の向上に直結します」伊藤氏の言葉通り、トグルホールディングスは、不動産業界を透明で効率的な市場へと進化させるだけでなく、地域経済の活性化や都市計画の迅速化にも貢献しているのです。

聞き手、執筆 木場晏門

木場晏門

木場晏門

神奈川県鎌倉市生まれ藤沢市育ち、香川県三豊市在住。コロナ禍に2年間アドレスホッピングした後、四国瀬戸内へ移住。webマーケティングを本業とする傍らで、トレーニングジムのオープン準備中。

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