松尾芭蕉の「閑さや岩にしみ入る蝉の声」の句で有名な山寺。その静寂な山中に、人知れずひっそりとたたずむ‘裏山寺’とも呼ばれる「峯(みね)の浦」というエリアがある。今回はこの秘境の魅力について垂水遺跡を中心にその一部を紹介したい。
峯の浦はJR仙山線山寺駅から東へ歩くこと15分。今回のスタートは、千手院だ。
ここまで来るとグッと観光客の姿も減る。遮断機もない踏切を渡るのは少しスリリングだが、日常を忘れさせてくれるような非日常感が漂う。静かな境内を抜け、参道の脇にある線路を渡る。自然豊かな道を進んでいくと、古くからの石仏や、慈覚大師が開山した際に修行したとされる岩穴などがあり、歴史を感じさせる。
やがて視界が開け、目の前に現れたのは、蜂の巣のように無数の穴が開いた巨大な岩壁だった。これは、風雨に侵食された凝灰岩が作り出した自然の芸術、「タフォニ」と呼ばれる地質現象だ。タフォニができるメカニズムは、まだ完全には解明されていないが、雨水や塩類が岩石の割れ目に入り込み、凍結と融解を繰り返すことで、徐々に岩石が削られていくと考えられている。この過程は非常にゆっくりとしたもので、数千年、数万年という長い年月をかけて形成される。
垂水遺跡のタフォニは、その規模と形状が非常に特徴的で、まるで人工物かのように見える。しかし、これは自然が長い年月をかけて作り出した芸術作品なのだ。
その独特の形状は、まるで異星人の顔のようにも見え、神秘的な雰囲気を醸し出している。垂水遺跡のタフォニは、特に大きく発達しており、そのスケール感と神秘的な雰囲気は、訪れる者を圧倒する。この場所で、私たちは自然の力と時間の流れの偉大さを実感できる。
さらに進むと、そこは静寂に包まれた空間。鳥のさえずりや風の音だけが聞こえ、まるで時間がゆっくりと流れているようだった。慈覚大師円仁が修行し、立石寺を構想した場所と伝えられるこの地は、1100年の歴史を感じさせる神秘的な雰囲気に満ちていた。
垂水遺跡は、静寂の中に歴史と自然が融合した、まさにパワースポットと言えるだろう。日常の騒がしさを忘れ、自分自身と向き合うことができる、そんな場所だった。
山寺を訪れる際は、ぜひこの垂水遺跡も訪れてほしい。きっと、新たな発見と感動が待っているはずだ。
今回は、垂水遺跡を中心に‘裏山寺’とも呼ばれる「峯の浦」を紹介した。静寂に包まれた空間で、自然と歴史を感じ、心身ともにリフレッシュすることができた。皆さんも、ぜひ一度訪れてほしい。