「安全・安心・快適・便利を最大効率で実現する」――。1983年に燃料販売会社のデータシステム部門が子会社となり設立されたウェルネット株式会社。インターネット黎明期の1996年に業務転換し、EC市場の拡大を支えた「コンビニ決済サービス」の開発や、航空券のチケットレス化、バス・鉄道の交通インフラDX推進、さらには最新の電子認証分野まで多岐にわたるITプラットフォームを社会に実装してきました。
代表取締役社長の宮澤一洋氏は、失敗を恐れず数々のイノベーションを仕掛け続けてきた異端の起業家です。
巨大企業との勝負に勝ち、社会課題を次々と解決してきたウェルネット。同社が掲げる行動指針「ウェルネットアレテー」に込められた思いや、考えるより動くという精神、そして安心安全なオンライン社会の実現に向けた熱いビジョンについて、宮澤さんの言葉から紐解いていきます。

目次
燃料販売会社からITプラットフォーマーへ。インターネット黎明期に生まれた「コンビニ決済」
「ウェルネットは燃料販売会社のシステム部門担当子会社として1983年に設立されました。1996年に、僕は札幌で新規事業を立ち上げるというミッションに挑みました」
宮澤さんは、まったくの異業種から新規事業立ち上げに挑戦することになります。
「北海道は都心からも遠いから物流が絡むものはダメだと思ったんですよ。新しいことに挑戦するんだったら、形のないものをインターネットで売る形で勝負しようと。イノベーションが起きて世の中が変わるタイミングに、何らかのプラットフォームをつくってサービスを提供するスタイルにチャンスがあるのではと思いました」
そうした発想から生まれたのが、今や当たり前となった「コンビニ決済」です。
「当時はインターネットを通じて物を買うのが珍しい時代。事業者みんなが苦労したのが代金回収です。クレジットカードの番号をインターネット上に登録することに抵抗がある人も多く、登録するのが危ないと思われていた。そこで、当時すでにロケーションインフラとなっていたコンビニで払えたら便利だな、と思いついたんです。親会社がガス屋で、代金回収に困っていたということもあり、コンビニ決済が提供できれば使ってもらえるんじゃないかと」
無名のベンチャー企業にとって、道のりは平坦ではありませんでしたが、いくつもの困難を乗り越えてヒットに結び付けました。
「バッターボックスに入ってバットを振れ」。理念『ウェルネットアレテー』が求める人材
ウェルネットは「ウェルネットアレテー(ギリシャ語で徳や卓越したものの意)」という行動指針を掲げています。それは「安全・安心・快適・便利を最大効率で実現する。」「社員に自身の可能性を試すフィールドを提供する。」の2つです。
「アレテーをつくって、みんなに配布して浸透させようとしているんだけど、規定なんて誰も読まないじゃん(笑)。だから、耳にタコができるくらい、毎週のように言い続けてますよ。1人か2人でも反応する人が出てきたら、大成功です。そういう人たちが次の時代をつくってくれるから」
宮澤さんが社員に最も強く求めているのは、当事者意識と行動力です。
「社員に求めているのは『バッターボックスに入ってバットを振れ』ってこと。優れたビジネスパーソンになりたいとみんな思ってるだろうけど、実は自分の仕事をほんとうの意味で背負っていない人が多い。失敗を人のせいにする人は主体性がないから進歩できない」
「人生の宝物とは『経験』だと思ってます。頭で考えたことは全然価値がなくて、体験することに価値がある。『なんとなく嫌な予感がする』とか『これヤバい』ってことが分かるようになって、失敗の確率が減ってくる。暗黙知が大事です」
また次々と新規事業を生み出す秘訣は、意外にも「考えすぎないこと」だと言います。
「本当はね、新規事業って頭がいい人は向いていないんですよ。考えれば考えるほど成功確率が低く見えて、やらないほうがいいって結論を出しちゃう。だから『よくわからんからとりあえずやってみよう』くらいの人がちょうどいい」
また、宮澤さんは、壮絶な実体験をもとに新規事業に適した人材像について話します。
「僕の場合は、ロッククライミングで瀕死の体験をしてるんですよ。岩から落ちて死ぬ確率は高い。あるとき、岩から落ちて行った!って思ったら、間一髪のところで助かって次の瞬間に生きてるって分かったんです。それ以来、自分が行動を起こす基準が『死ぬか死なないか』になって、死なない限りはやったほうがいいってことになった。そういう人が、新規事業に向いてるんじゃないかな」

リアルタイム決済を実現し、交通インフラDXを手がける
コンビニ決済に続き、ウェルネットは航空会社やバス、鉄道などの交通インフラのDXを次々と手がけていきます。
「コンビニ決済って、お金を払った翌営業日のお昼にならないと請求先にその情報が反映されない。これを解消しようと思って、ローソンのマルチメディア端末 「Loppi(ロッピー)」と提携したんです。Loppiからバーコードを出してレジでスキャンすればリアルタイムに反映される。そこで航空会社に『QRコードでコンビニ決済して、QRコードで搭乗券出しませんか』と『チケットレス』という発想を提案したんです。これがブレイクしてリアルタイムの現金決済スキームができました」
その後は、バスや鉄道などにもこのシステムが広がりました。最近では、QRコードを活用したデジタル乗車券サービス「スルッとQRtto(クルット)」のサービス開発でも業界を驚かせました。
圧倒的なスピードとコスト競争力を生み出す源泉は、その「拠点」にもあります。ウェルネットは現在、本社を再び北海道札幌市に置いています。
「時間や思考の余裕がないと、新しいものが生み出しにくいと思っています。うちは北海道創業で、一回本社を東京に移してみたんです。でも、東京は情報の洪水で、その中で新規事業を生み出すことが難しいと感じました。新しいものを生み出すには、ああだこうだ考えながら膨らませていく『発酵』の時間がいります。その点、北海道って時間がゆっくり流れているから、情報を発酵させる、つまり新規事業を形にする時間がある」
真面目な人が守られるネット社会。マイナンバーとSIMで金融犯罪に挑む
決済と認証のプロフェッショナルとして、宮澤さんが今最も危機感を抱き、解決に注力しているのが「金融犯罪」です。
「今、金融犯罪がすごく多くて、乗っ取られた口座から盗まれた何億円ものお金が、外国に流れているかもしれない。僕はこれは安全保障の問題だと思ってます」
現在、ウェルネットはマイナンバーカードとスマホのSIMを使った本人認証の仕組みの社会実装に取り組んでいます。宮澤さんの目は、デジタル社会の根本的な構造改革を見据えています。
「日本人は真面目じゃないですか。マイナンバーで認証されている個人は悪いことをしようとしない。そういう人たちを『ホワイトリスト』としてグループ化し、その人たちにメリットがあるスタイルにシフトしたいんです」
宮澤さんが目指すのは、おじいちゃんやおばあちゃんもお金を盗まれない、安心安全なオンライン社会です。

「ピンで勝負できるプレーヤーになれ」
最後に、これからの日本社会と組織づくりについての思いを伺いました。
ウェルネットは「自身の可能性を試すフィールドを提供する」という社是のもと、アスリートの夢を支援しています。2022年に始めたスピードスケート山田将矢選手への支援をきっかけに、2024年からは山田和哉選手、2025年からは山本悠乃選手、蟻戸一永選手を社員に迎えました。
この熱い思いは、自社の社員にも向けられています。
「うちの会社のコンセプトは『社員に自身の可能性を試すフィールドを提供する』こと。全員レギュラーだって言ってて、『ピンで勝負できるプレーヤーになれ』って言ってるんです。弱いプレーヤーが集まっても弱いチームにしかならないけど、ピンで勝負できるやつがチームを組んだら強いチームになる」
情報が氾濫(はんらん)し、効率が優先される現代において、あえて時間をかけて思考を「発酵」させ、泥臭くバットを振り続ける。ウェルネットが世に送り出す革新的なサービスの根底には、決してブレることのない強靭(きょうじん)なベンチャー精神と、真面目な人々を守りたいという深い愛情が息づいていました。
最も印象に残った言葉
「ピンで勝負できるプレーヤーになれ」
聞き手:ローカリティ! 副編集長 丸山夏名美 書き手:ローカリティ!編集部 猪股豪
写真はすべて2026年6月17日丸山夏名美撮影
企業情報
会社名:ウェルネット株式会社
取材対象者:代表取締役社長 宮澤 一洋
事業展開:決済・認証プラットフォームの開発・提供、交通DX推進事業など
公式HP:https://www.wellnet.co.jp/
ウェルネットアレテー(経営理念・行動指針の一部)
- 安全・安心・快適・便利を最大効率で実現する。
- 社員に自身の可能性を試すフィールドを提供する。






