岩手県民の「おしょす」を逆手に取った広告制作。異分野融合のメンバーが作る広告の真髄とは【岩手県盛岡市】

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株式会社マエサク 

Shinichi Onuma
大沼 慎一氏

岩手県盛岡市を拠点とし、紙媒体や看板、TVCM・Web動画、新商品開発のコンサルタントなど幅広く手がける株式会社マエサク。制作したTVCMがアジア太平洋広告祭銀賞を受賞したり、カンヌ国際広告賞のファイナリストに東北で唯一ノミネートされたりするなど、活躍の幅を国内外に広げています。“岩手県人ならでは”の心を大切にしながら広告制作をしているという、代表取締役社長でアートディレクターの大沼 慎一(おおぬま しんいち)さんと映像作家の寺澤 樹理(てらさわ じゅり)さんにお話をうかがいました。

お世話になった会社の愛称をそのまま会社名に。東京で経験積みUターン

会社設立までの経緯を教えてください。
大沼さん:私が岩手大学の学生のころ、アルバイトをしていた盛岡市の広告制作会社、㈱前田創作舎にそのまま就職するつもりでいましたが「うちで働く前に東京で修行したほうがいい」と、社長に勧められ東京の広告会社に就職。数年後盛岡にもどり、その会社で働き始めました。のちにその会社の事業の継続が困難になり、事業を引き継ぐ形で2013年、大学の後輩で同僚だった、現在取締役副社長でプロデューサーの佐々木 昌彦とともに会社を設立しました。

アートディレクターを務める大沼 慎一さん

前身の広告制作会社からはどのような影響を受けましたか?
大沼さん:「こんな世界があるんだ!!」と。自分の中にはまったくなかった新しい世界を、広告を通して見せてもらったんです。事業を引き継ぐにあたりリスペクトも込めてその会社の愛称である「マエサク」をそのまま会社名にしました。

盛岡に拠点を置いて活動されている理由をお聞かせください。
大沼さん:「マエサク」の前身が盛岡を拠点にしていたので、クライアントもメンバーの出身も盛岡や岩手県内がメインであるのが大きな理由です。一番の理由は、盛岡の人の心や土地が素晴らしく、愛着があることです

多くを語らないから伝わる、岩手がはぐくんだ「おしょす」の心。話題CMの制作秘話

「泣けるCM」と話題になったTOSANDO music(株式会社東山堂)のテレビCMで国際的な賞を受賞されていますが、CM制作の際の企画や撮影、編集にいたるまで苦労した点などをお聞かせください。

大沼さん:その時のCMは佐々木が中心になって制作したものでしたが、「いいものを作る」ことにこだわり、制作費を可能な限りかけたんです。その分削れるところは削って、撮影時のエキストラに東山堂の社員やスタッフの家族・友人を動員しました。

寺澤さん:まずは制作費優先で、CM放映の露出を減らしても「いいもの」を作れば伝わるはずだと、クライアントからミッションを与えてもらったんです。そこで「いいもの」とは「何を伝えるべきか」に重きをおいて制作を進めました。

強く心をキュッとつかむCMを制作する際に何を一番大切にされていますか?
寺澤さん:あえてそのクライアントではなくても当てはまるCMを作ることで、そのお店や商品だけが繁盛するのではなく、業界全体を盛り上げるというか、「なんかいいよね」と広告を見た人が自発的に行動を起こしてくれる、感情や情緒に訴えるようなものを作るよう心がけています。
岩手県人は「おしょす(はずかしがり)」で、すべてをストレートに伝えない人が多いのですが、逆にそこを利用して、そこはかとなくさりげなく伝えながら、そのクライアントの器の大きさを見せられるような、そんなCM制作を意識しています。

大沼さん:子どもも含め若い人たちはさりげない情報をキャッチする能力に長けていて目が肥えていますよね。一方で、年齢層の高い方々は商品を選ぶ目が肥えている。岩手の心を大切にした広告が、どちらの世代にも響くようになるのを目指したいですね。

異なる経験を持つ3人が作る新たな世界観。「統一感」でレベルの高い広告へ

グラフィックデザイン担当である大沼さんがグラフィック広告を作る際に大切にされていることは何ですか?
大沼さん:「あれ?」と思ってもらえるもの。作業していた手や、歩いていた足をふと止めてしまうようなグラフィックを心がけて作っています。たった1枚の絵で心をつかみたいです。

寺澤さんがマエサクに入社されてから大きく変化されたというCM制作について教えてください。
寺澤さん:もともと大沼と佐々木はそれぞれ年齢が一つずつ違うけれど、同じ大学の先輩なんです。私は大学を卒業した後、岩手県内のテレビ局のディレクターとして働いていて、10年ほど前に大沼と佐々木が会社を作って、そこに私が加わったんです。
広告とテレビ番組は似て非なるものなのですが、そこを融合させたような、グラフィックの大沼と映像の佐々木、テレビの自分の3人がそれぞれ培ってきた違う分野が合わさって新しい世界観で制作ができているのだと思います。

大沼さん:以前は紙媒体も映像もそれぞれ別に制作していたものが、寺澤が加わったことでほかのメンバーも含めみんなが同じ方向を向くようになり、一緒に作り上げていくようになりました。「統一感」を意識するようになってきたんです。グラフィックに限らず、ほかの媒体でも心を掴む見せ方ができるようになり「マエサク」が成長していると感じます。

映像作家を務める寺澤 樹理さん

「そこはかとなくさりげなく」「なんかいいよね」といわれる広告を提案

今後どのようなCM制作をしていきたいですか?
寺澤さん:各企業の要望に応えるのは広告会社としてもちろんマストではありますが、現在、地域の小さな幸せ、小さなヒーローなどの動画を撮影し、私たちから提案しCMにしていくことに挑戦しています。
たとえばですが、お豆腐屋さんのおばあさんを取材し季節ごと、年単位で時間をかけてその人の記録を撮り続けるようなストーリー性の高いものを、まったく違う業界のCMとして提案させてもらったりしています。これが、広告を使った「マエサク」の企業ブランディングサービスともいえるかもしれません。
また、過去に販売されていた車にサムライの人格をかさね、これまでその会社が培った歴史をかさねるCM担当をしたのですが、あくまでも車の販売を促すCMではなく、そこはかとなくさりげなく「あそこの会社、なんかいいよね」と、その会社のファンを増やすようなことになったらいいなと思っています。
また、将来的に映像をまず作って後から広告主を募るなんていうことにも挑戦してみたいです。

大沼さん:「泣けるCM」を越えるものを届けたいですね(笑)。

今後ほかにも挑戦したいプロジェクトはありますか?
大沼さん:プロジェクトではないですが、佐々木は農業を始めるなど、メンバーそれぞれが「個」を表現できるような、プライベートの部分を充実させていきたいです。それが広告やクライアントとの関係性に役立ったり、地域を強くするきっかけにもつながったりするかもしれません。

「論破」しこれまでのセオリーを崩してくれる人とともに。私たちが求めるクリエイター像

どのようなクリエイターと一緒に働きたいですか?
大沼さん:端的にいうと「論破」してくれる方ですかね(笑)。柔軟にやっているつもりだけれど長年やっていると考えが凝り固まってきてしまいます。何事もスムーズにやり過ごせるようにはなってきたけれど、時に同じ引き出しを開けていることがあるんですよね。周りに言われなければ気が付かない。

寺澤さん:そんな我々のセオリーを崩し論破するバイタリティーあふれる人材がいてくれたらいいですね。古きものを壊しつつ、また取り入れながら、さらに新しいことに挑戦していけるかもしれません。

取材日:2024年5月7日

株式会社マエサク

  • 代表者名:大沼 慎一
  • 設立年月:2013年
  • 資本金:10万円
  • 事業内容:CM・PV 制作 /広告・パッケージ デザイン / ブランディング / ドローン撮影 ,etc.
  • 所在地:〒 020-0024 岩手県盛岡市菜園1-3-6 農林会館6階
  • URL:https://maesaku.jp/
  • お問い合わせ先:https://maesaku.jp/contact/

この記事は株式会社フェローズが運営する、クリエイターに役立つコンテンツを発信する「クリエイターズステーション」にも掲載されています。

天野崇子

天野崇子

秋田県大仙市

編集部編集記者

第1期ハツレポーター/1968年秋田県生まれ。東京の人と東京で結婚したけれど、秋田が恋しくて夫に泣いて頼んで一緒に秋田に戻って祖父祖母の暮らす家に入って30余年。

ローカリティ!編集部のメンバーとして、みなさんの心のなかのきらりと光る原石をみつけて掘り出し、文章にしていくお手伝いをしています。

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