ポルムス株式会社 代表取締役社長
Sakiho Yamada
山田 紗季穂氏
産前・産後のうつ症状をきっかけに同じように悩む人の受け皿になろうと起業した、ポルムス株式会社の代表取締役社長・山田 紗季穂(やまだ さきほ)さん。企画・開発・運営までを手掛けているオンラインカウンセリング「よりどころ」は、“高い”、“予約がとれない”、“第三者に知られたくない”といった利用者の懸念を解消したカウンセリングサービスで、うつを予防する社会づくりを後押ししています。「東北を元気にする一翼を担いたい」と仙台で再スタートした山田さんが考える日本の課題とは?事業への思いや目標などを伺いました。
目次
悩みを相談できるところがないからつくろうと、夫や知人とともに起業。経験生かし、システム開発も
ポルムスを立ち上げる前のキャリアについて教えてください。
大学ではプログラミングを学んでいました。卒業後は東京に本社があるIT企業に就職して、大阪支店に配属され約1年勤めましたが、会社の意向と合わない部分があり転職。そのまま大阪でAI(人工知能)の開発を始めたばかりのIT企業に転職し、手書き文字を機械文字に起こす手書きOCRと呼ばれる技術をつくっていました。
その後に私生活での変化をきっかけに、22年の6月に起業しました。
会社を立ち上げたきっかけ、思いをお聞かせください。
私は23歳で結婚して、転職直後に妊娠がわかりました。妊娠はうれしいはずなのに、つわりがひどくて思うように働けない焦りもあり、妊娠を否定的に考えてしまうなどネガティブな思考の時期が続きました。そして、妊娠中に病院で「産前・産後特有のうつ症状かもしれないね」と話をされ、カウンセリングを勧められたんです。
でも、出産に向けてお金がかかる時期ということもあり、金銭的な負担が大きいと感じ、役所の保健福祉課を頼るようにしていました。すると、さまざまな相談ダイヤルを紹介してもらえましたが、使いたい窓口はどれも全然つながらず、行き場がないように感じて余計に落ち込んでしまいました。ご飯も食べられず、ひどいときはぐったりして病院にも行けない状態でしたが、「会社には迷惑をかけられない」「仕事だけはやらなければ」という気持ちは強く、ますます自分を追い込んでしまいました。
そんなときに、非常にポジティブな性格の夫が「悩んでサポートを必要としている人が大勢いるのに、その需要に合ったサービスが足りていないんだね。ほしいと思っているサービスがないなら自分たちでつくればいい。一緒にやってみないか」と提案してくれて、私も落ち込んでいるより、自分のためにも同じ思いをしている人のためにも動きたいと起業することを決めました。思いに共感してくれる知人も加わって、システム開発とメンタルヘルス事業の2本柱で事業を始めました。
カウンセリングで心をリフレッシュ、うつを予防する社会づくりを目指す。心の病に関する日本の課題
アメリカではカウンセリングの利用率が半数以上と聞きますが、日本ではまだ利用率が少ないと思われます。カウンセリングを身近にするには何が必要だと思いますか?
誰にでも思い悩むときや、ひどく落ち込むときはあると思います。しかし、まだまだ日本では心の病に対する偏見が残念ながらあるように感じていて、そのような社会の障壁を少しずつなくしていくことが最も重要だと考えています。
過去を振り返ってみると、私も世間一般といわれることに自分が当てはまらなくて苦しくなっていたと思います。妊娠したら喜ぶのが当たり前、母親は子どもを一番に考えるのが当たり前、という一般論に当てはまらないのはおかしいのだと自分を否定してばかりいましたが、それでいいと認めてくれる人が近くにいて、ありのままの自分も少しずつ認めることができるようになって、とても心が軽くなりました。
当時は私自身もカウンセリングや心療内科に通院することを恥ずかしいとマイナスにとらえていましたが、自分だけで悩んでいるより、カウンセリングや診察を受けた方が何倍もプラスになることを、他の方にも気づいてほしいです。私は通院したおかげで新しい生き方も見つかり、「むしろうつを経験して良かった」と思えています。カウンセリングや心療内科への抵抗を少しでもなくせるよう、自身の体験を交えて発信していきたいと思っています。
精神的な不調やうつで仕事を辞める方も少なくありません。心の健康を保つためには何が必要だと思われますか。
虫歯予防やがん予防など、病気の予防はたくさんあるのにメンタルヘルスの予防がないのは違和感があります。心療内科に通うほど追いつめられる前に予防として堂々とカウンセリングを使い、メンタルを整える習慣が日本でも広がっていくといいですね。
また、近年増えている、うつによる離職や突然の退職は、ため込んだ悩みや不満が爆発したタイミングで起こると思うので、企業の上層部の方が事前にその芽をつぶすような対処が必要だと考えています。
御社のメンタルヘルス事業では、どのような取り組みを行っていますか。
悩みは会社経営、自分の仕事のキャリア、子どもの教育、育児、恋愛・夫婦関係、自分自身のメンタルの不安定さなど、仕事からプライベートまでさまざまです。弊社が提供するオンラインカウンセリング「よりどころ」(https://yoridocoro.link/)は、ご相談者さまが電話・オンライン通話・メッセージからお好きなカウンセリング方法を選んで、簡単に専門家のカウンセリングを受けることができます。
さまざまな資格を持つカウンセラーが約80人在籍しているため多種多様なお悩みに対応することができ、現役精神科医の監修も受けているためご相談者さまの気持ちを考えた使いやすいシステム設計になっています。予約してから最短1時間でカウンセリングを始められますし、料金も1,500円~と業界のなかで最安水準の設定で、「高い、予約がとれない、第三者に知られる」といった心配がなく、気軽に相談できます。
企画から開発、運用まで100%自社のサービスを開始。出身地方に移転、東北に「インパクトを残せたら」
もう一つの事業である、システム開発事業ではどのような取り組みをしていますか。
基本的には他社さまのシステム開発のお手伝いで、要件定義や設計、開発、テスト実施など、幅広く作業の依頼を引き受けています。
特にWebアプリの開発が多く、社内の知見を生かしながら協力して各案件に取り組んでいます。
システム開発事業を行う会社が増えてきています。御社の強みを教えてください。
Webシステム開発の強みでいくと、個人事業主としても成立するぐらいスタッフ1人1人の技術的なスキルが高いことですね。新人に対しても高いレベルの指導が行えるので成長が早いと思います。
また、オンラインカウンセリングのプラットフォーム「よりどころ」は、100%社内で企画から開発、運用までを行っているため、ご利用者さまに優しい価格設定を実現できています。さらに、この自社サービスの改修を新人にまかせることで教育にも役立てられています。
大阪で起業して、24年に仙台に拠点を移したのはなぜですか。
私は岩手県奥州市の出身なので、東北には親しみがあります。東北で起業するようなアクティブに動く若者が少ないように感じたので、何かインパクトを残せたらという思いで、家族と会社のメンバー全員で仙台に移ってきました。
社員が思うポルムスの魅力とは?ほしい人材に積極的にアプローチ、責任と信頼関係のベストバランス
メンバーの大森 朔人(おおもり さくと)さんと、伊藤 夏歌(いとう なつか)さんも、大阪から移住されたのですね。
2人とは同じ高校の出身で、「一緒に仕事がしたい」と当時から思っていたので、高校・大学時代からそれぞれに「一緒にビジネスを」とアプローチしていました。伊藤は会社設立当初からテスター・カスタマーサポートを担当しています。
大森は、6月に入社したばかりなので、これから取締役・最高顧客責任者として「よりどころ」の認知拡大に大きく貢献してくれることを期待しています。
お二人は、ポルムスのどこに魅力を感じましたか?
大森さん:自分がやりたいことと山田代表がやりたいことの親和性が高く入社しました。私は、やりたいことを人に抑え込まれると自分の良さを出せないタイプなのですが、ポルムスはスタッフを尊重して自由にやらせてくれる、とてもいい環境です。
伊藤さん:自由に自分がしたいことを尊重してもらえる環境です。困ったときは助け合える、チームワークもいい会社です。
技術よりコミュニケーション力。カウンセリングを日常の当たり前に
御社はどのようなスタッフを採用したいですか。併せてシステム開発を目指す若いクリエイターへのメッセージをお願いします。
技術力以上に、メンバーや顧客とのコミュニケーションを円滑にとれる方が望ましいです。技術力も最低限必要ですが、コミュニケーション力が高い方は入ってくる情報が多く、わからないことを聞く力も強いので、技術力の伸びが早い傾向にあります。
優秀なエンジニアは人としても素晴らしい方が多く、人間性が技術力を連れてくるような面もあると感じています。技術力だけでなく、人との関わり方にも重きを置いていただきたいなと感じます。
今後、会社として目指すことを教えてください。
私たちが最終的に目指しているのは、オンラインカウンセリングが、誰もが知っているような日常に溶け込むサービスになること。気軽に不満や悩みを吐き出せるだけでなく、自分で答えを出せるよう導いてくれるプロのカウンセラーに頼ってほしいと思います。
「よりどころ」は社会に必要なサービスだと思うので、もっと広めていきたいです。国や地方自治体、教育機関、企業などにカウンセリングの良さを知っていただいて、社会の風向きが変わっていってくれたらと願っています。
ポルムス株式会社
- 代表者名:山田 紗季穂
- 設立年月:2022年6月10日
- 資本金:60万円
- 事業内容:メンタルヘルス事業、システム開発事業 、ほか
- 所在地:〒980-0013 宮城県仙台市青葉区花京院1-2-15 仙台ソララプラザ3階
- URL:https://polms.co.jp/
- お問い合わせ先:022-380-8046(10:00〜17:00)※土・日・祝定休
この記事は株式会社フェローズが運営する、クリエイターに役立つコンテンツを発信する「クリエイターズステーション」にも掲載されています。