“エンタメ×訓練”のハイブリッド型プログラム「避難訓練コンサート」開催【福島県田村市】

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「もしコンサート中に災害が起きたら」―そんなありそうで、なさそうなシチュエーションを想定した「避難訓練コンサート」が8月、田村市文化センター(福島県田村市)で初めて開かれた。子ども連れの家族や高齢者ら幅広い年代の約500人が参加し、音楽を楽しみながら本番さながらの避難行動を体験した。

普通のコンサート…と思いきや

演奏を務めたのは陸上自衛隊第6音楽隊(山形県東根市)。開演前には田村消防署の職員が「慌てて走るとドミノ倒しになる」「停電時も非常灯を頼りに避難を」と注意を呼びかけた。

やがて生演奏が始まり、鮮やかなブラスの音色に包まれると、ここが“避難訓練の場”だということを忘れてしまいそうになる。ところが約30分後、突如「緊急地震速報(訓練)」が鳴り響き、照明が一斉に落ちた。非常灯だけが灯る暗がりに、持ち物の所在すら分からなくなり、不意を突かれた感覚に襲われた。

今回のポイントは“本番さながらの避難”、つまり、準備不足の状態から求められる即時対応力の確認だ。今回は公演中に震度5強の地震が発生し、機械設備と電気設備の故障により館内が停電となったという想定だ。

災害発生の“その瞬間”を体験

アナウンスと係員の指示に従い、私たちは静かに席を立つ。足元の段差に神経を使いながら進むと、杖を持った高齢女性が席を立たずに座っている姿が目に入った。今回は訓練ということで、気を使ってそのまま座席に残っていたのだろう。でも、それでは避難訓練にはならない。係員に促され、ゆっくり避難していく姿に、災害時の弱者支援の難しさを実感した。

数分後、私たちは会場横の駐車場に避難完了。主催者によると、全員が建物の外へ出るまでにかかった時間はおよそ6分で、まずまずの結果だという。だが、参加者のひとりとして気になったことがあった。

満車の駐車場では避難者の流れが分散してしまい集合場所が分かりにくかったこと、また、係員が持っていた拡声器が1方向タイプだったためアナウンスが聞き取りづらかったこと、加えて、視覚障がい者や耳の不自由な方への配慮は見受けられなかったことだ。これが実際の災害だったら…と考えると、課題はまだまだ多いと感じる。

「訓練したことは必ずできる」

避難後、消防署職員は「実際に建物が揺れた時、今日のように冷静に行動できるかは分からない。でも訓練したことは必ずできる」と強調した。確かに今回は訓練だから落ち着いて動けたが、現実の災害で同じ行動ができるかと問われると不安も残る。備えの大切さを痛感させられた。

その後、訓練で中断したコンサートが再開され、先ほどまでの緊張を和らげるように、軽やかなメロディがホールに広がった。防災を学んだ直後に音楽で心を和ませる―緊張と安堵を同時に体験する不思議なプログラムだった。

災害列島に生きる私たちへ

音楽鑑賞の楽しみを損なわず、防災意識を自然に高める“エンタメ×訓練”のハイブリッド型プログラム「避難訓練コンサート」。

緊急地震速報、非常灯のみのホール内というリアリティある状況下で、単なる説明や座学では得られない場面を体験することができた。暗闇での移動、階段での注意、集合場所の確認。小さな行動の積み重ねが大きな安全につながる。体験して初めて気づく課題がいかに多いかを実感した。

改めて今回認識したのは、災害は時間や場所を選ばずに“突然やってくる”ということ。そして、実際に体験してみなければ分からない課題が多いということだ。音楽と防災が融合した「避難訓練コンサート」は、単なるエンタメではなく「いざという時の行動」を身体に刻む試みだ。災害列島に生きる私たちにとって、こうした体験は確かな備えとなる。次の機会には、さらに多くの市民が参加することを願う。

昆愛

昆愛

埼玉県川越市出身。前住地は山形県鶴岡市。会社員のかたわら、地域資源の掘り起こしとその魅力発信活動に取り組む。2023年、「誰もいなくなった町。でも、ここはふるさと~原子力発電所と共存するコミュニティで“記憶”と“記録”について考える【福島県双葉郡富岡町】」で本サイトのベスト・ジャーナリズム賞を2年連続受賞、また2024年、天文活動の報告・交流等を目的としたシンポジウムでの発表「天文文化史で地元の魅力発信?九曜紋が導く新たな誘客構想とは【福島県南相馬市】」で渡部潤一奨励賞を2年連続受賞。

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