デザインで困った人の「あまやどり」のような存在を目指し。札幌発・伴走型ブランディング【北海道札幌市】

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株式会社AMAYADORI 代表取締役・アートディレクター

Kenichi Sato
佐藤 健一氏

松前町に咲く桜の品種名「雨宿」から名付けられた札幌のデザインプロダクション・株式会社AMAYADORI。「たのしく、つくる」をコンセプトに、地域に根ざしたブランディングから日常の課題解決まで、幅広いデザインワークで北海道の企業や自治体を支援しています。「デザインで困ったクライアントが雨宿りに来て、晴れやかに帰っていく」そんな存在を目指す代表の佐藤 健一(さとう けんいち)さんに、地域デザインへの想いと今後の展望について聞きました。

松前に咲く桜「雨宿」――故郷への想いから生まれた社名

まず、とても印象的な社名「AMAYADORI」の由来を教えてください。

出身である北海道・松前町にちなんだ名前にしたいという想いがありました。いいアイデアが思い浮かばず妻に相談したら、「桜の品種でいい名前ないの?」と提案してくれて。城下町でもある松前町は、250種1万本の桜が咲く国内有数の桜の町。春になると町のあちこちで桜が咲いていて、しかも、その桜1本1本に手書きの木札で品種名がついているんです。
小学生だったころ、登下校中に桜を見ていたら「染井吉野」「南殿」なんて定番品種もある中に「雨宿」という札を見つけて、子どもながらに「なんて情緒のある素敵な名前なんだろう」と思っていました。妻の一言でその記憶がよみがえり、雨宿という桜の品種名を社名にしようと決めました。

名前に込めた想いについても聞かせてください。

あと付けではありますが、「デザインで困ったクライアントがうちに雨宿りしに来てくれて、デザインの力で曇った状況や気持ちを晴れに変え、『いってらっしゃい』と背中を押せるようなデザイン事務所でありたい」という想いを込めています。
表記は、シンメトリーなアルファベットの並びに美しさを感じ、英語の大文字にしました。漢字のままだとすすきののスナックみたいになりますし。(笑)

華やかな仕事から縁の下の力持ちとなる案件まで、多様なプロジェクトで地域を支援

現在の主な事業内容について教えてください。

ブランディングとしてロゴや名刺、パッケージデザイン、Webなどを総合的に手がけているのはもちろんですが、実は外から見ておしゃれな仕事だけでなく、真面目で堅実な仕事も多いです。
例えば、学校案内のパンフレット制作、ちょっと変わったところではマンションの館名サインのデザインなど。一般的に、賃貸マンションのサインはあまりデザイナーが関わらないことが多いのですが、そこにこだわりたいというクライアントも、もちろんいます。ロゴを作って終わりではなくて、そのロゴをどういう素材でどう設置するかというインテリア寄りのところまで提案させていただいています。
そのほかにも、リゾート施設のパンフレット、大手企業のカレンダー制作、企業向けDMの企画やデザインなど、幅広く取り組んでいます。

自治体と連携した仕事もあるそうですね。

そうですね。例えば、北見市とは数年にわたって継続的にお仕事をさせていただいています。事業はその年によっても変わりますが、現在は「北見市伴走支援」として、商品には自信があるもののデザインや販促方法に悩む地元企業に対して、プロモーションが得意なクリエイターとタッグを組んで、1年間のブランディング支援を行い、ロゴやパッケージデザインからSNS活用まで、それぞれのニーズに応じた総合的なサポートを提供しています。

さまざまな仕事をされている中で印象に残っているプロジェクトはありますか?

釧路市の生クリーム専門店「jiri(ジリ)」の立ち上げが特に印象深く、ネーミングから関わらせていただきました。店名は、霧の町として有名な釧路にちなみ、霧雨に近い霧を指す方言「ジリ」に。社長に提案したところ、地元の方にとっては日常的な言葉なので最初はピンとこないようでしたが、札幌出身の社長の奥さまが「いいじゃない! ジリ!」と後押ししてくださって。地元の人が気づいていない魅力を、外からの視点で再発見した瞬間でした。

jiriではどのようなデザインワークを手がけたのでしょうか?

ネーミングのほか、ロゴ、名刺、ショップカード、パッケージ、Webデザイン、看板サインなど、必要なデザインツールはすべて手がけ、店舗の外装や内装デザインはインテリアデザイナーさんをアサインさせてもらってチームで進めました。
地方の過疎化が進む中で、「少しでも人を呼び戻したい」という熱い想いを持った社長と一緒にディスカッションしながら進めた仕事で、地方からの魅力発信という意味でも非常に意義のあるプロジェクトでした。

その後の展開についても教えてください。

「jiri」がオープンしたあと、同じ「JIRI」という名前の商品が他社からも出るなど、釧路でジリという言葉の魅力が広まったのを感じましたね。もちろん方言なので商標登録もできません。社長と「真似されたね」なんて笑い合ったりして、それも楽しかったです。
最近では白糠町に新しくできた道の駅に「jiri」の2号店をオープンしまして、こちらも名称やコンセプト、カラーリングから再び一緒に考えました。

「楽しい雰囲気でできたほうがいい」。信頼関係を築くコミュニケーション

御社のコンセプト「たのしく、つくる」について教えてください。

これは、「どんな仕事でも、どうせやるなら楽しくできたほうがいいよね」という、自分の中に漠然とあったデザインや仕事に対する姿勢から生まれたコピーで、公私ともにお世話になっているコピーライターの方に考えていただきました。大変な仕事でも、その中に楽しさを見つけて前向きに取り組むことが大切だと思っています。それがスタッフやクライアントにも伝わればうれしいですね。

クライアントとの関係で意識していることはありますか?

打ち合わせでは、最初の雑談を大切にしています。できれば最初に一つ笑いを取りたいと、本気で考えていますよ。いきなり本題に入るのではなく、空気をほぐすことで関係性がよくなると思っています。
大きな修正依頼が来たときや、「うーん」と困るようなことが起こったときも、あえて明るく振る舞ったり、クスッと笑わせたりする工夫を意識しています。デザイナーには無口で黙々とつくる職人タイプも多いですが、同じものができるなら楽しい雰囲気でできたほうがいいし、コミュニケーションも円滑になると思います。

「東京を意識せず札幌から世界を見る」。地域に根ざすデザイナーの役割

北海道・札幌で仕事をすることについて感じていることはありますか?

私自身は北海道が大好きなので離れる気はありませんが、どこかで東京へのコンプレックスがあるのは事実です。流行の最先端をいく東京のほうが圧倒的にインプットには良いし、幅広い仕事を請け負える傾向にあるためスキルもアップしますよね。
それでも札幌を離れないのは、今は札幌でも十分やっていけると思っているからです。札幌を拠点に活躍しつつ海外の賞を獲得するなど、東京を越えて世界で評価されている方々が周りにもたくさんいますし、私自身も海外のコンクールで入賞経験があります。東京を意識しなくても、札幌から世界を見てもいいんじゃないかと考えています。

北海道の地域性や魅力を生かしたデザインワークについて意識していることはありますか?

北海道には素晴らしい商品や技術があるけれど、どうやって伝えていいかわからないという企業が多いのが現状です。「jiri」の例のように、地元の人が当たり前だと思っているものの中に、実は外から見ると非常に魅力的な要素が隠れていることがよくあります。そんな魅力を発見し、デザインで表現することで、地域の価値を再発見してもらえる。それが地方を拠点とするデザイナーの役割の一つだと考えています。そしてそういった仕事の流れはとても楽しいです。

将来の展望について教えてください。

ブランディングの仕事として、「jiri」のように、まだ何もないところからネーミング、ロゴ、施設、館内サインまで、ゼロからの立ち上げに参加するような仕事が増えるとうれしいですね。
その準備として、常にインプットすることを大切にしています。例えば、定期的に一流の宿に泊まるようにして「今の一流」を肌で感じるようにしているのもその一つ。インプットがないとアウトプットできませんからね。
地方の企業や商店には、素晴らしい技術や商品を持ちながらも、それをどう表現し、伝えていけばいいかわからずに困っている方がまだまだいらっしゃると思います。そういった企業を伴走し、デザインの力で課題解決のゴールまで一緒に走り抜けることが私たちの役割です。地域の価値を再発見し、それを適切に表現することで、北海道全体が元気になっていく。そんな好循環を、これからもデザインの力でつくっていきたいと思っています。

取材日:2025年6月26日 

株式会社AMAYADORI

  • 代表者名:佐藤 健一
  • 設立年月:2023年1月
  • 資本金:100万円
  • 事業内容:グラフィックデザイン、パッケージデザイン、ブランディング支援など
  • 所在地:〒060-0002 北海道札幌市中央区北2条西2丁目4 マルホビル6 F
  • URL:https://www.amayadori.biz/
  • お問い合わせ先:sato@amayadori.biz

この記事は株式会社フェローズが運営する、クリエイターに役立つコンテンツを発信する「クリエイターズステーション」にも掲載されています。

小山佐和子

小山佐和子

北海道在住のフリーライター。出版社やメーカーでの広報担当などを経て、現在はフリーライターとして活動中で、この世界でかれこれ20年超。人物取材のほかは住宅、不動産係の記事を多く手がけています。趣味はビールとマンガと着物とスポーツ観戦。毎年甲子園(と熱闘甲子園)を見て泣いています。

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