
南から桜の便りが伝えられた4月初め。福島県須賀川市郊外の市道沿いで、私は思いがけない春の兆しに出会った。それは、水辺ではなく高木の上で進んでいたアオサギの営巣という、静かな命の営みだった。
テレビから関東地方の桜の開花ニュースが流れていた4月初旬。須賀川市郊外の果樹園が点在する市道を車で走っていると、高い木の上にとまるアオサギの姿が目に入った。サギといえば川や湖沼、田んぼなど水辺にいる鳥という印象が強く、畑作地帯の高木にいる姿に、私は一瞬目を疑った。
次の日も、その次の日も同じ道を通るたびに観察を続けた。すると、枝の一角に小枝が幾重にも重なった場所があることに気づいた。どうやら、この場所で子育てが始まっているらしい。近くの田んぼには降り立つ個体だけでなく、つがいとみられる2羽が巣の周辺にとどまる姿も見えた。巣があるのは雑木林の中でもひときわ高い5本ほどの木々。その手前には発電用のソーラーパネルが並び、歩く人の気配は少ない。人工物と自然が隣り合う、静かな環境だ。

アオサギの生態を調査した資料によると、アオサギは高木に集団で巣作りをする習性を持ち、同じ場所を複数年にわたり利用することがある。一方で、繁殖期が終わればコロニーごと姿を消す場合もあるようで、今回見つけた巣も来年以降は”空き家”になる可能性も否めない。

この場所は、開拓によって広がった田畑と、もともとの自然環境が重なり合う地域だ。点在する果樹園や田んぼのすぐ隣で、野生の鳥たちが毎年のように繁殖を繰り返している。人の営みと野生の営みが、同じ空間に静かに共存していることを実感する光景だった。
通い慣れたはずの道で出会った、もうひとつの春。巣に鳥がいる日も、いない日もある。それでも季節が巡れば、また戻ってくるかもしれない。高木の上に積み重ねられた小枝の束は、この土地に流れる時間の層を、黙って受け止めているように見えた。





