
「倉庫」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。
荷物を保管する場所。モノを一時的に預かる場所。そんなイメージが一般的かもしれません。しかし、社会が大きく変わるたびに、倉庫に求められる役割もまた変わってきました。商売を支え、港と鉄道をつなぎ、街のにぎわいを生み、医薬品を安全に届ける。そしていま、再生可能エネルギーを活用するために、電気を貯める場所にもなろうとしています。
三菱倉庫株式会社は、1887年創業の物流・不動産会社です。倉庫、陸上輸送、港湾運送、国際輸送を組み合わせて企業のサプライチェーンを支え、古くなった倉庫をオフィスや商業施設へ変えながら、都市や地域の活動の場もつくってきました。時代ごとに社会が必要とする「倉庫」の役割を広げてきた同社は、いま脱炭素や人手不足、災害リスクといった課題に向き合いながら、これからの社会インフラのあり方を探っています。
同社のパーパスは「いつもを支える。いつかに挑む。」。街をつくり、薬を守り、電気まで貯める場所へと変わりながら、社会の「いつも」を支えてきた倉庫は、これからどこへ向かうのか。執行役員 サステナビリティ推進部長の田中浩二さんに話を聞きました。
目次
「倉庫」は、モノを預かるだけの場所ではない
三菱倉庫の倉庫には、医薬品や食品、化学品、機械、消費財など、さまざまな商品が預けられます。なかでも特に力を入れているのが医薬品です。以前から取り扱ってきた分野ですが、1990年代頃からさらに強化してきました。食品も昔から強みを持つ分野です。

「人の口に入る商品に関しては非常に強い。つまり品質管理が厳しい商品を得意としています」
食品や医薬品のように品質管理が厳しい商品は、倉庫で安全に預かるだけでなく、その品質を保ったまま次の場所へ届けることまで求められます。田中さんの言葉からは、三菱倉庫が「保管」だけではなく、品質を守りながら次へつなぐ物流を担ってきたことが見えてきます。
たとえば、海外でつくられた商品を日本に運ぶ場合、船や飛行機の貨物スペースを手配し、港で荷物を受け取り、倉庫で保管し、必要に応じてトラックで販売先や工場へ届けます。自社で船や航空機を持っているわけではありませんが、陸上運送、港湾運送、国際輸送を組み合わせることで、商品がつくられてから必要な場所へ届くまでの流れを支えています。
国内から海外へ運び、現地での配送につなげるほか、近年は海外から別の国へ商品を運ぶ三国間輸送も増えているといいます。
倉庫で商品を預かり、品質を守り、次の場所へつなぐ。三菱倉庫は、モノを一か所に保管するだけでなく、商品が動き続ける仕組みそのものを支えています。こうした役割が、三菱倉庫の「いつもを支える」という姿勢につながっています。
明治から令和へ。「倉庫」は時代に合わせて姿を変えた
三菱倉庫は1887年、東京・深川で創業しました。創業以来、同社の倉庫は、社会に必要とされる役割に合わせて、その姿を変えてきました。
「当時は現在ほど会社の区分が明確ではなく、三菱の事業体の一部として商流や金融を支えていました。単にモノを保管するだけではなく、商流、金融、都市生活を支えるインフラとして始まった会社です」
創業時の倉庫は、商品を預かることで商売を支え、時には金融とも結びつきながら、都市の活動を下支えする場所でもありました。
やがて日本の貿易が広がると、倉庫に求められる役割も変わります。三菱倉庫は1902年に兵庫県神戸市へ進出し、船で運ばれてきた荷物を受け入れ、鉄道へ積み替えるための施設を整えました。


「当時、大量にモノを運ぶ手段は船と鉄道でした。その時代としては、 最先端の物流施設だったと思います」
田中さんがそう話すように、港に届いた荷物を、鉄道でさらに内陸へ運ぶ。倉庫はモノを置く場所であると同時に、海と陸をつなぐ結節点でした。
さらに都市の姿が変わると、倉庫は街のにぎわいを生む場所へと変わっていきます。1990年代には、神戸ハーバーランドなどの街づくりに取り組みました。倉庫としての役割を終えた土地を、オフィスや商業施設へ変える。三菱倉庫は、モノの流れだけでなく、人が集まり、働き、過ごす都市の場も支えるようになりました。



同じ頃、以前から取り扱っていた医薬品物流にも、さらに力を入れていきます。品質管理へのニーズが高まるなか、倉庫は薬を安全に守り、必要な場所へ届けるための機能にもなっていきました。
そして2020年代、三菱倉庫は、社長が「約60年ぶりの新規事業」と表現する系統用蓄電池事業に着手しました。商流や金融を支え、港と鉄道をつなぎ、街をつくり、医薬品を届け、電気を貯める。こうした歩みは、ばらばらな多角化ではありません。社会の「いつも」を守るために、その時代に必要とされる役割へ先回りしてきた歴史です。
「信頼と誠実」を土台に、倉庫は“挑む場所”へ
「三菱倉庫が大切にしてきた価値観は、『信頼と誠実』です。私自身も先輩から『三菱倉庫という看板に恥じない仕事をしよう』と教えられてきました」
田中さんにとってこの言葉は、三菱倉庫で働くうえで大切にしてきた原点です。
物流や不動産は、社会の当たり前を支える仕事です。商品を預かり、品質を守り、必要な場所へ届ける。街や建物を長く支える。そうした仕事には、顧客や社会から安心して任せてもらえる関係が欠かせません。三菱倉庫の「いつもを支える」という役割は、この「信頼と誠実」を土台にしてきました。
その土台があったからこそ、三菱倉庫は時代に合わせて倉庫の役割を広げてきました。明治から令和へ、社会の課題に応えながら姿を変えてきた歩みを、田中さんは「変革に挑むDNA」と捉えています。
一方で、同社には「石橋を叩いても渡らない」と言われるほど、物事を慎重に判断する面もあったといいます。その慎重さは、社会インフラを支える会社としての強みでもあります。しかし、新しいことに踏み出す場面では、挑戦のブレーキになることもあります。
田中さん自身は、長く人事部門に携わってきました。社員がどのように働き、何に誇りを持ち、どのような環境で力を発揮できるのかを見てきたからこそ、「変革に挑むDNA」をもう一度強めていく必要があると考えています。
三菱倉庫には、「やりたい」と手を挙げた人を頭ごなしに否定せず、正しいと思えることなら任せ、周囲が支える度量もあると田中さんは話します。慎重さを持ちながらも、そうした度量を生かし、社員が安心して新しいことに踏み出せる環境をつくることが必要なのです。
「信頼と誠実」を土台に社会の「いつも」を支えながら、「変革に挑むDNA」をもう一度強めていく。
その姿勢が、「いつかに挑む」という言葉にも込められています。
倉庫が電気を貯める時代が来た

三菱倉庫は脱炭素に向けて、設置できる倉庫の屋根には可能な限り太陽光パネルを載せ、再生可能エネルギーを増やす取り組みを進めてきました。 現在取り組んでいる新たな事業が、系統用蓄電池です。
太陽光発電の導入には初期費用がかかります。しかし、20年、30年と長期にわたって発電を続けることで、将来的な電力価格の上昇による影響を抑え、長い目で見れば電力コストの削減にもつながると考えています。
一方で、社会的に再生可能エネルギーが増えるほど、電気を必要なときに使えるよう調整する仕組みも重要になります。そこで同社が踏み出しているのが、空いている倉庫用地などに蓄電池を設置し、電力の需給バランスを支える系統用蓄電池事業です。
倉庫会社が電気を貯める。一見すると意外な挑戦ですが、必要なものを預かり、必要なときに送り出すという点では、これまでの倉庫の役割とも重なります。
モノを預かる場所から、電気を貯める場所へ。三菱倉庫は、これからの社会の「いつも」を支えるために、倉庫の役割そのものを更新しようとしています。
社会の当たり前を止めない。「いつもを支える」ために挑みつづける

三菱倉庫が目指しているのは、物流や不動産、系統用蓄電池事業を、それぞれ別の機能として最適化することだけではありません。社会全体を見渡し、街や物流、エネルギーを一つの仕組みとしてつなぐことです。
見据えているのは、自然エネルギーで動き、AIに支えられ、再生資源でつくられた物流施設や不動産施設で構成される街です。そこには、災害に強く、動植物も豊かに息づく風景が思い描かれています。
「気候変動や人手不足、地政学リスクへの対応を前提に、機能ごとの個別最適ではなく、社会全体を見渡した最適化へ変わる必要があります」
自然災害や感染症、紛争、海外港湾のストライキ、気候変動。社会を止めかねないリスクは増え続け、影響は一国にとどまりません。だからこそ、災害時にも物流を止めない仕組みをつくり、環境に配慮した施設や街をつくっていく。人手不足には、AIやロボットの力を借りて向き合う。方向性は違っても、根底にあるのは社会の当たり前を止めないという思いです。
倉庫は、モノを預かる場所から、商流や金融を支え、港と鉄道をつなぎ、街をつくり、薬を守り、電気を貯める場所へと、その姿を少しずつ変えてきました。「いつもを支える」ために、「いつかに挑む」。三菱倉庫の歩みは、これからも続いていきます。
もっとも印象に残った言葉
「三菱倉庫が大切にしてきた価値観は、『信頼と誠実』です。私自身も先輩から『三菱倉庫という看板に恥じない仕事をしよう』と教えられてきました」
聞き手:丸山夏名美 構成:天野崇子 書き手:足立尚典 天野崇子
※写真:三菱倉庫株式会社提供以外はすべて2026年7月13日 丸山夏名美撮影
企業情報
会社名:三菱倉庫株式会社
取材対象者:執行役員 サステナビリティ推進部長 田中浩二さん
設立年月:1887年4月
経営理念:パーパス「いつもを支える。いつかに挑む。Supporting Today, Innovating Tomorrow.」
事業内容:物流事業、不動産事業。倉庫業、陸上運送、港湾運送、国際輸送を組み合わせた物流サービスのほか、オフィスビル・商業施設などの不動産事業、医薬品物流、系統用蓄電池事業などを展開。
所在地:東京都中央区日本橋一丁目19番1号
URL:https://www.mitsubishi-logistics.co.jp/






