
1948年の創立以来、70年以上にわたって世界の海と社会の安全を支え続けてきた古野(ふるの)電気株式会社(兵庫県西宮市)。同社は「見えないものを見る」という独自技術を核に、現在では船舶用レーダーなどの舶用電子機器分野で世界トップクラスのシェアを誇り、世界150カ国以上で事業を展開しています。
常に業界にイノベーションを起こし続けてきた同社の成長の裏には、「会社存立の原点は社会の役に立つことである」という、1948年の創立時から脈々と受け継がれる強固な企業理念があります。
今回は、1984年の入社以来、フィールドエンジニアとして世界中の海や港を走り回り、現在は取締役 専務執行役員 兼 CMO(最高マーケティング責任者)として全社を牽引(けんいん)する矮松 一磨(わいまつ かずま)氏にお話を伺いました。
単なるハードウェアの提供にとどまらず、海の未来を作る新たな未来社会コンセプト「Ocean5.0」を掲げ、社会課題の解決に挑む同社の原点と、グローバルな組織づくりの極意に迫ります。
目次
「合言葉は『世界のフルノ』」社員を支えた 世界で活躍する誇り
日本の製造業の中でも、古野電気はいち早く海外市場へと目を向け、グローバル展開を力強く推進してきました。矮松専務が古野電気に入社した1984年当時、社内はすでに世界を見据えた熱気と活気にあふれていたと言います。
「私が入社した当時から40代ぐらいまでは、サービス部門で現場の技術サポートを行うフィールドエンジニアとして船に長く乗っていました。この時代が、私自身のキャリアのベースを築いてくれたと思っています。世界中の様々な船舶に訪問し、そこでお客さんとお話しさせていただき、ご指導いただく中で、舶用に対する知識・経験のベースができました」
まだ海外渡航のハードルが高かった時代から、若手エンジニアたちは自社の技術を胸に世界の港へと飛び出していきました。矮松専務自身も、1989年から2年間にわたりスペイン・マドリードに駐在し、アフリカ大陸と欧州の全域を担当。年の半分以上は担当地域を走り回るという、非常にタフで多忙な日々を送っていました。しかし、その過酷な環境を支えていたのは、社内に響き渡る明確な合言葉だったと振り返ります。
「当時の社内的な合言葉は『世界のフルノ』でした。創業者が1955年に国際的な事業展開を加速させるべく『世界のフルノ』を宣言し、それに向かって社員一同頑張っていこうという熱気がありました。私が入社した1984年当時から、その言葉を言い続けていたんです」
「現地のことは現地の人に任せる」グローバル化を成功に導いた信頼の組織づくり
1974年にノルウェーに海外初の現地法人を設立した古野電気は、現在では世界に30社を超える子会社を抱えるまでに成長しました。売上高の約7割を海外市場が占めているといいます。
日本の多くのメーカーが海外展開において「本社主導」の厳格な管理体制を敷く中、古野電気は全く異なるアプローチをとってきました。その成功は「現地への徹底した信頼と権限委譲」にカギがあったと矮松専務は語ります。
「グローバル展開で一つポイントになるのは、現地法人ではほとんどが現地の方が社長を務めているということです。最初から『現地のことは現地の人に任せる』という姿勢を貫いてきました。ヨーロッパでも、ノルウェー、フランス、スペインでは気質もやり方も違います。だからこそ、現地の社長と現地のスタッフを中心に据えて事業展開できたことが、最終的に我々のグローバル展開の強みになりました」
単に権限を委譲するだけでなく、現地の文化や労働習慣を深く理解し、心から尊重する姿勢が、世界中のスタッフとの間に強固な結束を生み出しました。
「彼ら自身のモチベーションを持ってもらうために、報酬をきちんと支払うのはもちろんですが、彼らの生活習慣も尊重しました。例えばヨーロッパの会社では、夏休みは長期に休むということもあります。そうした様々な現地の習慣をそのまま尊重したことも、うまくいったポイントだと思っています。一方で、本社として抑えるべきガバナンスはしっかり効かせる。本社のガバナンスと各子会社の裁量のバランスがとれていたことが、継続的な成長につながりました」

「困ったら現場へ行け」魚群探知機から受け継がれる「社会の役に立つ」という原点
古野電気の事業の根幹には、1948年に世界で初めて実用化した「魚群探知機」の存在があります。この歴史的発明の裏には、戦後の厳しい食糧難といった社会課題をを何としても解決したいという、創業者の思いがありました。
現在も同社の企業理念の筆頭には、「会社存立の原点は社会の役に立つことである」という言葉がしっかりと刻まれています。
「終戦後すぐの日本はタンパク質が不足していました。創業者は、魚群探知機によって漁の収穫を増やし、食生活の改善、タンパク質の供給に貢献したいという強い信念を持っていました。我々の機械は国民の食生活を支えるものであり、社会の役に立つことが会社の存在意義だという思いが、今も続いています」
この理念を「絵に描いた餅」にせず、日々の事業活動で体現するための行動指針が、同社に脈々と受け継がれる「現場“種技”(げんばしゅぎ) 」です。
「創業者からずっと伝えられているのが『現場種技』という言葉です。技術の種も、ビジネスの種も現場にある。『困ったら現場へ行け、現場でお客さんと話せ』と。私自身も世界中を飛び回る中で、お客さんが話す言葉からヒントを得たり、お客さん自身が気づいていないビジネスのヒントを見つけたりしました。そのことを私たちは「浜営業」とも呼んでいます 」
現場で得た気づきや顧客の声を技術や事業へとつなげてきた古野電気は、その先にある課題解決までを自らの役割と捉えています 。
「私たちは センシング(Sensing)、情報処理(Processing)、情報通信(Communication)という3つのコア技術に、事業で培った知識・スキル・ノウハウを統合(Integration)することで、お客さまに役立つソリューションを提供しています。これらは、フルノが提供する価値の源泉です」
2050年の未来社会「Ocean 5.0」に向かって
古野電気は、事業ビジョンとして「安全安心・快適、人と環境に優しい社会・航海の実現」を掲げています。これからの海と社会の未来を見据え、2024年7月に同社が新たに打ち出した未来社会コンセプトが「Ocean5.0」です。
「過去には人が海の恩恵を受けるために、海洋汚染や乱獲など、海の状態を悪化させてしまいましたが、Ocean 5.0の時代では、海の状態は良いままに、その恩恵はすべての生きるものが受けられる。そのようなイメージです。
ここで強調しておきたいのが、これは単なる未来予測ではなく、古野電気が技術と社会貢献の両面で果たすべき責任を具体化した結果いきつく世界でもあるということです。人と海の調和を重要なテーマに据え、陸・海・空がシームレスにつながる流通システム、環境を守りながら資源を活用する次世代漁業、快適で持続可能な海上生活の実現などが大きな柱となってくるものと現時点では考えています。」
具体的に、その取り組みの一つが、自律航行船の実現に向けたものです。
「船の世界では人手不足と高齢化が進んでいます。また、海の事故の約8割はヒューマンエラーによるものです。省人化の推進のみならず、船員皆様の負担軽減と航海の安全向上のため、5年前から自律航行技術の獲得に励んでいます」
もう一つの取り組みが、海洋環境の再生を目指す「ブルーカーボンプロジェクト」です。
「従来の『みえないものをみる』ことから、さらに進んで『海洋の未来を作る』会社にしていきたいと思っています。SDGsの考え方とも重なりますが、今は、原状復帰するだけではなく、環境をより豊かにしていかなければなりません」
「私たちの超音波技術を使ってアマモ場(海草のアマモが群生して「海の草原」を作っている場所)や海藻の生息状態を可視化してモニタリングする取り組みも始めました。現在、全国の漁業者、地域、研究者、企業と連携して全国10拠点ほどで活動しています。 先日も漁協の方とお話ししましたが、彼ら自身が『自分たちの海を次世代に残さなければ』という強い意識を持っておられます。そこに我々の技術を役立てていただきたいのです」
※未来社会コンセプト「Ocean5.0」
海洋の未来や社会環境をテーマにした論文や、書籍など、様々な文献をもとに2050年に到来するであろう世界を同社が予測して描いた未来社会コンセプト。過去、現在、そしてこれからの海の未来を「Ocean 1.0」から「Ocean 5.0」の5段階に分類しており、「1.0 海の恩恵を発見」「2.0 海へ自由に航海」「3.0 人類中心で海の支配」「4.0 持続可能性の模索」と続き、2025年現在は「Ocean 4.0」の時代を生きていると定義している。

「自前主義」から共創へ。世界の知恵をつなぎ、海洋課題に挑む
世界150カ国以上での多角的なビジネス展開や、「Ocean5.0」のような未来社会の実現を根本から支えているのは、古野電気のフラットで極めてオープンな社内風土です。
「年に1回、全世界の子会社の社長が本社に集まる『GSM(グローバル・ストラテジック・ミーティング)』を行っています。昼間の会議では相当辛辣(しんらつ)な議論が飛び交いますが、終われば夜はみんなで集まって、社員交流パーティーをしたりと、密なコミュニケーションをとっています。社内の雰囲気はとてもフランクです。毎年12月末に行われる納会では、役員会議室も会場となります。 社長の古野もずっとそこにおり、ベテランから若手社員まで続々とやってきていろんな話をしています。そういう風土が我々の良さだと思っています」
トップと若手、そして国境を越えたフラットなコミュニケーションがあるからこそ、次なる進化への足がかりが生まれています。矮松専務は、これからの時代を生き抜くために「自前主義」からの脱却が不可欠だと語ります。


「今までは日本で作った商品を世界の販売子会社が売るのが主流でしたが、これからは各子会社自身がそれぞれのエリアで必要な商材やビジネススタイルを生み出していく。そしてそれをグローバルに展開するマトリックス組織へと進化させていきたいと考えています。それに加えて自社だけで全てをやる『自前主義』から脱却し、他社との共創によってビジネスの幅を広げていく。未来の海洋課題を解決するために、我々の技術で貢献できることを、社内外の垣根を越えて取り組んでいきます」
世界初の魚群探知機を生み出した70年以上前から、古野電気のまなざしは常に「現場」と、そこで暮らす「社会」に向けられていました。最新のテクノロジーを駆使し、自前主義から脱却した共創へと進化を遂げながらも、その根底にあるのは人間への深い理解と、海を愛する人々へのリスペクトです。
「見えないものを見る」技術で、豊かな海と社会の未来を切り拓く古野電気の挑戦は、これからも世界中の海で続いていきます。

最も印象に残った言葉
「『困ったら現場へ行け、現場でお客さんと話せ』。技術の種も、ビジネスの種も現場にある」
聞き手:ローカリティ! 副編集長 天野崇子 書き手:ローカリティ!編集部 猪股豪
企業情報
会社名:古野電気株式会社
創立:1948年
事業展開エリア:世界150以上の国と地域
公式HP:https://www.furuno.co.jp/
経営理念
1. 会社存立の原点は社会の役に立つことである
2. 経営は創造である
3. 社員の幸福は会社の発展と共にある






