
エンビプロ・ホールディングスは、戦後間もない1950年、静岡県富士宮市で金属スクラップや製紙原料、古布、ビンくずなどを扱う佐野マルカ商店として始まりました。現在は、資源循環を軸に複数の事業会社を束ねるホールディングス企業へと成長を遂げています。
創業者の事業を、兄である佐野富和取締役会長とともに支えてきたのが、株式会社エンビプロ・ホールディングス代表取締役社長の佐野文勝さんです。鉄スクラップのリサイクルから、大型シュレッダーの導入、貿易事業、リチウムイオン電池や焼却灰の再資源化へ。時代の変化を読みながら、会社の形を変えてきました。
その根幹にあるのは、「喜ばれる仕事」を大切にする創業以来の価値観です。父が始めた家業は、その思いをもとに、社員、取引先、地域、日本、そして世界へと視野を広げてきました。企業理念を事業に落とし込み、捨てられるものにもう一度価値を見いだす。エンビプロが目指す、「捨てずに活かす」資源循環企業への歩みについて、文勝さんに伺いました。
目次
「変化の前に手を打つ」父のバトンを兄弟で継ぎ成長させた事業

エンビプロ・ホールディングスの原点は、佐野さん兄弟の父が始めた佐野マルカ商店にあります。戦後間もない1950年、静岡県富士宮市で、金属スクラップや製紙原料、古布、ビンくずなどを扱う小さな事業として始まりました。
文勝さんが入社した1983年当時、会社はまだ20人ほどの規模でした。父が亡くなり、兄である佐野富和氏が33歳で会社を継ぎ、文勝さんも現場の第一線に立つことになります。
文勝さんは、仕入れ、販売営業、生産、運送、購買、貿易など、事業のあらゆる現場に携わってきました。
そのころの事業の中心は、鉄スクラップのリサイクルでした。しかし、会社を取り巻く環境は時代とともに大きく変わっていきます。静岡県内では、かつて大手自動車メーカーを中心とした関連産業の存在が大きく、工場から発生するスクラップを扱うことが事業の柱になっていました。
しかし、産業構造が変われば、発生するスクラップの量も流れも変わります。佐野さんは、同社が成長してきた理由を「変化に合わせて、変化の前に手を打ってきたこと」だと捉えています。
鉄スクラップから貿易へ。ライバルより先に変化の前に手を打った


より幅広い品物を扱うために、廃車や家電など、大きなものを破砕するための大型シュレッダーを導入しました。それまでとは異なる設備で事業を展開していきました。
やがて鉄スクラップは、高度成長の中で発生量が増え、国内だけではさばききれない時代が訪れます。そこで同社は、海外への輸出に踏み出しました。
「鉄スクラップは、いつでも売れるものだと思っていました。それが突然売れなくなったんです。そのうち国内でさばききれなくなると判断し、海外に輸出するしかないということで貿易部ができました。貿易を始めたことで、静岡県富士宮市の地方のスクラップ屋が、全世界の会社さんを相手に商売ができるようになったんです」
変化の前に判断し、貿易の形を作ったことが大きな転機でした。かつて近隣のスクラップ業者は、互いに競い合うライバルでした。しかし、海外に売る方が高い値がつく時代になると、ライバルだった業者も、輸出の窓口として同社に品物を託すようになります。
ライバルが顧客になる。その変化は、地域のスクラップ業だった同社が、日本全国の会社とつながるきっかけにもなりました。
もちろん、変化はそのときの一度きりではありません。現在は鉄スクラップの輸出もしにくくなり、リサイクルを取り巻く環境もまた変わっています。
「時代を先取りして、流れを予想しながら会社の状態を変えてきた」
その積み重ねが、現在のエンビプロの姿を形づくってきました。
「企業理念」という根っこは枝葉が伸びた会社を支える
会社が大きくなるほど、佐野さんが強く意識するようになったものがあります。それが企業理念です。
エンビプロの企業理念は、2004年にまとめられました。その際には、創業当時から会社を知る社員や元社員にヒアリングを行い、創業者がどのような言葉を残していたのか、会社にどのような価値観があったのかを掘り起こしていったといいます。
「会社が成長していく中で、枝葉が伸びて、木はどんどん成長するけれど、根本にある根がない会社は揺らぐ。ちょっとした変化で倒れてしまう。その根を支える意味で、会社の企業理念を作るきっかけになりました」
理念をつくるうえで大切にしたのは、単に「リサイクルをする会社」の理念にしないことでした。
「親父の代からずっとやってきた元社員さんに、『親父さんはこういうことを言っていたよ』という話を聞きました。それを取りまとめてもらったんです。この会社がまったく別の事業内容になっても続けられるような企業理念にしたい、という思いで作りました」
事業内容が変わっても、会社の信念として残るもの。エンビプロはそれを「創業企業」「循環企業」「求道企業」という言葉で表しました。
原点は「喜ばれる仕事」 理念を現場の判断基準へ

エンビプロが成長してきた根本にあるものは「お客さんに喜んでもらうこと」だと文勝さんは話します。
同社の公式サイトで佐野富和会長は、「父親に喜んでもらいたい」という思いが家業を継ぐ原点だったと語っています。文勝さんは、それは富和会長自身の言葉だとしながらも、創業家として受け継いできた思いや、創業期を知る社員たちの言葉が、企業理念の中に息づいていると話しました。
「お客さんに喜んでもらえる。しかも、うちが儲(もう)けさせてもらって、喜んでもらえたらありがたいじゃないですか。そこがすべての元になっているのかなと思います。結果的に、我々の事業そのものが社会の役にも立っている。最初は父親に喜んでもらいたいというのが一番で、その範囲がどんどん広がってきた。多分そういうことではないかと思います」
父に喜んでもらいたい。お客さんに喜んでもらいたい。社員や取引先、社会に喜んでもらいたい。その思いの広がりが「創業企業」「循環企業」「求道企業」という三つの言葉で表されているのです。
「創業企業」とは、会社が大きくなっても、創業時の緊張感や挑戦心を忘れないという考え方です。文勝さんは、その中にある「日々創業」という言葉をこう表現します。
「注文の電話が毎日入って当たり前だと思ってしまう。でも、最初は足しげく通って、一生懸命営業して、それで取れるか取れないかだった。だから、常に創業精神でいないとだめだよということです」
「循環企業」は、資源を回すだけでなく、喜びや利益を分かち合う考え方でもあります。同社では「お疲れさま」ではなく、「ご快労(かいろう)さま」という独自の言葉を使うといいます。助け合い、分かち合い、気持ちよく働く。そこにも、循環の考え方が表れています。
そして「求道企業」は、楽な道ではなく、社会から求められる道を選ぶという姿勢です。
「親父がよく言ったのは、楽して近道をするのではなく、もっとちゃんとやるべきことをやりなさいと。右から左に流して儲かる商売でも、その前にもう一つ手を加えて、さらに付加価値をつけるべきじゃないのか。そういう思いが『求道企業』の考えのうちのひとつで『選難の道』という言葉にもなっています」
この理念は、朝礼や昼礼でも読み上げられ、社員の判断基準になっています。また、リチウムイオン電池リサイクルや焼却灰からの有用金属回収など、まだ多くの人が本格的に取り組む前から時間をかけて積み上げてきた事業にも、楽な道ではなく、社会から求められることに取り組むその姿勢が表れています。
理念を掲げるだけでなく、現場で判断し、時間をかけて実践する。エンビプロの強さは、そこにあります。
家族企業を超え、自律して続く会社へ
文勝さんが現在、大きなテーマとしているのが、次の世代へ続く組織づくりです。創業者の事業を兄弟で支えてきた会社は、いま家族に頼らず続いていく組織へと変わろうとしています。
「後継者を積極的に育てていかないといけない。私も65歳、会長は74歳ですから、当然代が変わっていく。そのためには人が必要ですし、同時に企業理念をしっかり浸透させて、会社の方向性を一つにしていくことが重要です」
人材育成の方法も変わりつつあります。これまで以上に計画的な育成を進めるため、「選抜した人材には、より重点的な機会を設ける」方向へ移行しているといいます。
また、経営計画の共有にも力を入れています。かつては全社員が集まって経営計画を発表していましたが、会社の規模が大きくなった現在は、グループ会社の社長や主任クラスまでが参加し、それぞれの会社で方向性を共有しています。
「向かう方向さえ同じなら、広がろうが縮まろうがいいと思うんです。金太郎飴のように、どこを切っても同じ顔というわけではなくていい。大まかな方向性さえ合っていればいいんです」
企業理念という根を共有しながら、それぞれの現場が自律的に考え、動いていく。家族企業から、持続的に続く組織へ。文勝さんの時代のエンビプロは、その転換点にあります。
サーキュラーエコノミー総合プラットフォームへ

2025年、エンビプロ・ホールディングスはプライム市場からスタンダード市場へ移行しました。文勝さんは、市場区分の変更を、足元を固め直す機会と捉えています。背伸びをしてプライム市場を維持するよりも、スタンダード市場の中でしっかり力をつけ、もう一度成長する。その先に、再びプライム市場を目指す道もあると考えています。
「今のスタンダード市場の中でしっかり力をつけた上で、もう一回プライムに戻る。少なくとも時価総額1000億を超えるところまでは、私の代でやっていきたいという思いがあります」
その成長の先に文勝さんが見据えているのは、サーキュラーエコノミー総合プラットフォーム企業としての姿です。資源の回収から再利用・再資源化までをつなぎ、循環の仕組み全体を支える存在を目指しています。
「10年後、当社はサーキュラーエコノミーの中核を担う総合プラットフォーム企業として成長している姿を目指します 」
資源の安定確保や脱炭素への対応が求められるなか、リサイクル業界の役割はますます大きくなっています。一方で、金属リサイクル業界には後継者不足や無許可業者の問題もあります。文勝さんは、その中でエンビプロがプラットフォームとなり、業界全体を支える存在になっていきたいと考えています。
「今後も社会全体で、資源リサイクルやCO2削減などの取り組みを進めているなか、いろいろな意味で影響が出てくると思います。そのプラットフォームになるわけですから、参画してもらって、会社を広げていきたいという思いがあります」

父が始めた小さなスクラップ業は、時代の変化に合わせて姿を変えながら、「資源を捨てずに活かす」企業へと育ってきました。その根にあるのは、喜ばれる仕事をすること。そして、社会に必要とされる事業をつくり続けることです。
理念を掲げるだけではなく、事業に変える。エンビプロはこれからも、捨てられるものに価値を見いだし、社会課題に向き合う資源循環企業として、次の未来をつくろうとしています。
もっとも印象に残った言葉
「お客さんに喜んでもらえる。しかも、うちが儲けさせてもらって、喜んでもらえたらありがたいじゃないですか。そこがすべての元になっているのかなと思います。結果的に、我々の事業そのものが社会の役にも立っている。最初は父親に喜んでもらいたいというのが一番で、その範囲がどんどん広がってきた。多分そういうことではないかと思います」
聞き手:丸山夏名美 書き手:天野崇子
写真:提供写真以外はすべて2026年6月29日丸山夏名美撮影
企業情報
会社名:株式会社エンビプロ・ホールディングス
取材対象者:代表取締役社長 佐野文勝さん
創業年月:1950年3月
設立年月:2010年5月21日(持株会社体制へ移行)
企業理念:「創業企業」「循環企業」「求道企業」
事業内容:傘下事業会社の経営管理、ならびにそれに付帯する業務
所在地:静岡県富士宮市田中町87番地の1
URL:https://www.envipro.jp/






