
地震や豪雨などの自然災害が相次ぐ日本。スマートフォンやインターネットが生活に欠かせない存在となる一方、災害によって通信インフラが被害を受けたとき、地域の情報をどう伝えるかは大きな課題だ。
そんな中、アマチュア無線を地域防災に生かそうと、愛好家らによるシンポジウム「いわき電波ふれあいサロン」が9月、福島県いわき市で開催された。
アマチュア無線は利用するために資格が必要で、無線機やアンテナなどの設備も必要となる。愛好家の高齢化などの課題もある一方、電話やインターネットの通信網とは異なる独立した通信手段として利用できることが大きな特徴だ。
必要な無線設備と電源を確保できれば、災害時にも離れた場所との通信が可能になる。
「普段から無線でつながっている人たちのネットワークを、いざという時の地域防災にも生かせないか」
そんな思いから生まれたのが、「いわき電波ふれあいサロン」だ。
目次
初開催で申し込み100人近く 約3分の1が初対面

シンポジウムを主催した「いわきアマチュア無線ネットワーク」は、今年5月に発足したばかりの団体だ。参加を呼び掛けた「いわきオーロラグループ」は発足から34年。福島県内でも歴史のあるアマチュア無線グループの一つで、日頃の無線交信だけでなく、災害に備えた通信訓練にも取り組んできた。
代表を務める太田智(おおた・さとし)さん=コールサインJI7XXH=は、「いわき電波ふれあいサロン」の構想を約2年前から温めてきたという。
「特に大変だったのは広報と参加者の集約です。地方紙やSNSで告知したほか、連絡先を知っている人には直接声をかけました」
その呼び掛けは大きな反響を呼び、初開催にもかかわらず申し込みは100人近くに上った。そのうち約30人は、主催者側にとって初めて顔を合わせる人だったという。
資格を持ちながら長くアマチュア無線から離れていた人。久しぶりに再会した無線仲間。そして、このイベントをきっかけに新たにつながった人たち。
「先輩から『いわきでこんなシンポジウムができるなんて』と言ってもらえたのがうれしかった」
太田さんの言葉からは、長年思い描いてきたイベントが実現した喜びが伝わってきた。
会場には、いわき市周辺との交信を行う局と、日本全国に向けて電波を出す局の2局を設置。参加者たちは無線機を囲みながら、実際の交信を楽しんだ。


アマチュア無線は「電波で話す」だけではない
記念講演を行ったのは、日本アマチュア無線連盟いわきクラブ代表の奈良幹久(なら・もとひさ)さん=JA7NX=。奈良さんは約70年にわたる、いわき地域のアマチュア無線の歴史を紹介した。

いわき地域では1953(昭和28)年に最初の免許取得者が現れた後、その後、「平クラブ」や「小名浜クラブ」などの団体が誕生。地域にアマチュア無線の輪が広がっていったという。
興味深いのは、その活動が無線交信だけにとどまっていなかったことだ。
機関誌の発行や野外ミーティングはもちろん、盆踊りへの参加、忘年会、ボウリング大会、さらにはソフトボール大会まで開かれていた。
アマチュア無線は、単に電波を使って会話を楽しむ趣味ではない。「無線が好き」という共通点から人と人が出会い、世代や地域を越えて交流するコミュニティーでもあったのだ。
新潟地震で活躍したアマチュア無線 佐渡の状況を確認
講演の中でも特に印象的だったのが、1964(昭和39)年に発生した新潟地震でのエピソードだ。地震の影響で通信が途絶え、新潟市側から佐渡の状況が分からなくなった。当時は正確な情報を得る手段も限られたため、「佐渡島が消えたのではないか」とさまざまな噂が広がったという。
そこで、いわきのアマチュア無線局が、普段から交信していた無線仲間へ呼び掛けた。
無線を通じて佐渡の状況を確認すると、大きな異常はないことが分かった。通信ができなくなった背景には、地震によってアンテナの向きがずれたことなどが影響していたという。
確認された情報は都内のNHK本局にも伝えられ、その日の夜のニュースで紹介された。
普段は何げない会話を交わしている相手が、災害時には「そちらは無事ですか」と確認できる相手になった瞬間だ。
「日常の無線交信によって生まれた人のつながりが、非常時には情報を届ける通信ネットワークになる。」
奈良さんにとっても、アマチュア無線が社会の役に立つことを実感した出来事だったという。
災害時に力を発揮するのは「顔が見える関係」
太田さんはアマチュア無線の魅力について、「声しか知らない人に実際に会えること」と話す。無線では、顔を合わせたことのない相手とも電波を通じて会話ができる。しかし、実際に会うことで、相手の顔を知り、住んでいる地域を知り、どんな人なのかを知ることができる。

無線機を囲みながら交流する参加者。電波を通じたつながりが対面の交流にも広がる
「あの地域には、あの人がいる」
そう思い浮かべられる関係が地域に増えていけば、災害時の情報収集や安否確認にもつながる可能性がある。
アマチュア無線を防災に活用する上で重要なのは、無線機そのものだけではない。
普段から築いている人と人とのネットワークも、大きな地域資源になる。

会場にはいわき市内外から多くの愛好家らが足を運んだ
いわきで約70年続く「電波でつながる文化」を次世代へ
奈良さんの講演について、太田さんは単なる「昔のアマチュア無線を振り返る話」ではなかったと振り返る。
無線機を自分で作る楽しさ。仲間との交流。災害時に人の役に立った経験。
そして何より、時代が変わっても変わらないのが「電波を通じて人とつながる」という魅力だ。現在では高性能な無線機やデジタル技術も普及し、アマチュア無線を取り巻く環境は大きく変わった。
しかし、人と人を結び付けるという本質は変わっていない。
奈良さんも講演の最後に、新たに発足した「いわきアマチュア無線ネットワーク」が、いわき地域のアマチュア無線文化を次の世代へつないでいくことへの期待を寄せた。

アマチュア無線と防災をつなぐ活動をこれからも
太田さんは今後について、「年に何回か、こうしたシンポジウムを開いていきたい」と意欲を見せる。
「運営していく上では、いろいろ難しいこともあります。でも、その壁を越えてやっていきたい」
2026年はいわき市が誕生してから60年の節目でもある。10月末まで、市制施行60周年記念事業の一環としてアマチュア無線の特別局も開局。全国のアマチュア無線愛好家との交信を通じて、いわきの魅力を発信している。
移動運用や防災EXPO 第2回サロンも予定
「いわきオーロラグループ」と「いわきアマチュア無線ネットワーク」は、今後も無線を通じた交流や防災活動を続けていく予定だ。
いわきオーロラグループは、11月はいわき市内と葛尾村で移動運用を、また、来年2027年2月には結成35周年記念の「アイボール会」も計画している。
一方、いわきアマチュア無線ネットワークは、来年3月いわき市内で開催される「防災EXPO 2027」で、アマチュア無線の体験運用を予定。さらに4月には、第2回「いわき電波ふれあいサロン」の開催も検討中だ。
無線を楽しむ場だけでなく、実際に顔を合わせる機会や、防災について地域住民に知ってもらう場を重ねながら、つながりの輪を広げていく考えだ。
声を知る。顔を知る。そして、いざという時には助け合える関係をつくる。
約70年にわたっていわきで育まれてきた「電波でつながる文化」は今、災害時の通信や地域防災を支えるネットワークという新たな役割も担いながら、次の世代へ受け継がれようとしている。
今後の主な予定
・2026年11月1日(日)
いわきオーロラグループ「灯台記念日移動運用」
会場:塩屋埼灯台、薄磯集会所
・2026年11月7日(土)~8日(日)
いわきオーロラグループ「結成35周年記念移動運用 in 葛尾村」
・2027年2月(調整中)
いわきオーロラグループ「結成35周年記念 アイボール会」
・2027年3月6日(土)
いわきアマチュア無線ネットワーク「防災EXPO 2027」アマチュア無線体験運用
会場:イオンモールいわき小名浜
・2027年4月(調整中)
いわきアマチュア無線ネットワーク第2回「いわき電波ふれあいサロン」
問い合わせ:いわきアマチュア無線ネットワーク
メール:iwaki.arn@gmail.com
電話:090-1061-3939(太田さん)
※コールサイン……アマチュア無線局を識別するために個別に指定される文字・数字の組み合わせ。無線交信の際には、指定されたコールサインを使用する。
※アイボール会……無線で交信している仲間同士が、実際に顔を合わせて交流する集まり。
写真はすべて2026年9月13日に筆者撮影
参考資料:登録クラブ一覧(一般社団法人日本アマチュア無線連盟福島県支部)





