福岡県八女(やめ)市上陽(じょうよう)町の小学校教室前の廊下に、おもむろに設置された水槽。中にメダカが泳いでいる訳ではなく、いるのは巻貝ばかり。
実はこの水槽はホタルの幼虫を飼育するために使用されており、巻貝はカワニナと呼ばれるホタルの幼虫の餌なのだ。
一体なぜ小学生が廊下でホタルの飼育をしているのだろうか。
「ほたると石橋の館」内にある事務局「上陽ほたるの会」の事務局長として活動している筆者と、小学生の取り組みを紹介する。
八女市街から車で20分程の所に位置する八女市上陽町は、清流星野川が流れ、ホタルと石橋の町として知られている。毎年5月下旬から6月初旬にかけて、星野川やその支流のあちこちでホタルが飛び交うのを観ることができる。
上陽町の小中一貫校「上陽北汭(じょうようほくぜい)学園」では、毎年3学年の児童が一定の期間、ホタルの幼虫を育てて放流する取り組みを行っている。
きっかけは、平成24年7月、八女市に甚大な被害を及ぼした九州北部豪雨災害だった。「このままでは町のシンボルであるホタルがいなくなってしまう」という理由で、平成25年2月、八女市上陽町の地元有志により「上陽ほたるの会」を設立。
ホタルの保護活動が始まり、上陽北汭学園の児童も「自分たちも何かできないか」と活動に参加。当初は「上陽ほたるの会」で育てたホタルの幼虫を一緒に水路へ放流していただけだったが、平成28年からは、自分たちでホタルの幼虫を育てて、水路に放流するようになった。
3学年の教室前の廊下に設置された水槽には、一見ホタルの餌である巻貝の一種カワニナしか見ることができないが、水槽の中の石をひっくり返して裏を見ると、約1~2㎝程度のホタルの幼虫が元気に動いていた。
普通の小学校では、まず学校でホタルを飼育するなんて考えられないだろう。ホタルを飼育するという体験は、大人になっても忘れず、古里の宝であるホタルを大切に思い続けてくれるに違いない。
今年(令和4年)は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため2年間中止となっていた「ホタルと銘茶まつり」が、3年ぶりに開催。豪雨災害直後、激減していたホタルの数も年々増えてきており、八女市内からはもちろん、たくさんの観光客がホタルの乱舞を楽しんだ。
「来年もたくさんのホタルが飛んでくれますように」と強く願い、これからも小学生と一緒にホタルを育てていきたい。
写真は「ほたると石橋の館公式Facebookページ」より
上陽ほたるの会事務局
八女市上陽町北川内589-2
ほたると石橋の館内
TEL(0943)54-2150
営業時間10:00~18:00(水曜休館日)
(内田理絵さんの投稿)