〜この記事は、株式会社JTBふるさと開発事業部と合同会社イーストタイムズが共同で取り組んでいる「ローカル魅力発掘発信プロジェクト」から生まれたハツレポです〜
フィッシングランド鹿島槍(かしまやり)ガーデンを営む「株式会社岩魚郷(いわなごう)」がある長野県大町(おおまち)市には浄水場がありません。
大町市は北アルプスのふもと、信濃川水系の最上流に位置しているため、水道法に基づく最低限の塩素滅菌が行われており、日本でも有数な水がきれいな場所なのです。
そのような環境の中で、岩魚郷は管理釣り場と養殖、魚の加工を営んでいます。
社長の矢野口千浪(やのくち・ちなみ)さんは長野県安曇野(あづみの)市出身で、以前は安曇野市でワサビ栽培をしていました。しかし昭和34年9月26日、潮岬に上陸し、紀伊半島から東海地方を中心にほぼ全国に甚大な被害をもたらした伊勢湾台風の影響でワサビ栽培ができなくなりました。
その後、マスの養殖を始めようと思い立ち、養殖にふさわしい場所を探して長野県中を歩いたそうです。そのときに大町市の鹿島槍を見つけ、管理釣り場・養殖場を作ることを決心したそうです。
鹿島槍ガーデンの誕生です。
鹿島槍ガーデンの水質の良さは、釣り愛好家たちの間で有名です。
プロ釣り師の村田基(むらた・はじめ)さんが鹿島槍ガーデンの水の美しさを絶賛し、何度も通っているそうです。釣りを愛好する著名人も訪れるそうです。
釣った魚を食べることのできる施設もあり、きれいな水で育った魚は「臭みがなくておいしい」と好評です。
美味しい水で育ったまろやかな信州サーモンとイワナ
「創業してから今まで、すべてが大変でした」と語る矢野口さん。
特に水の管理が大変で、一級河川の鹿島川から水を導入するときの水量管理が難しいそうです。
冬場は鹿島川は凍り、水の量は少なくなります。一方、台風が来襲する夏場は水量が多くなりすぎます。秋は落ち葉がたくさん管理釣り場に入ってきてしまうため、現在、鹿島槍ガーデンでは24時間体制で水管理を行っています。
北アルプスの雪解け水を含むミネラルが豊富なその水は、水質も安心安全に管理されています。常に9〜10℃と一定の温度の水が流れる環境の養殖池で孵化から養殖を行い、栄養素がたっぷり入ったオリジナルのエサを食べて育ちます。
丁寧に管理された美しい水でじっくり時間をかけて育った魚たち。
その中でも、返礼品になっているイワナはほどよく脂が乗り、さっぱりと上品な味わいで川魚特有の生臭みが全くありません。一夜干しは塩だけの味付けでイワナの深い旨味が存分に楽しめます。
そしてもうひとつ、信州サーモンは脂がのっているのにクセがなくまろやか、濃厚な風味が特徴でとても美しい紅色をしています。
ブラックペッパーがアクセントのパストラミ、信州みそで漬けたみそ漬け。長時間の間低温で燻煙をかける冷燻製法により、生に近い状態でジューシーに仕上げている燻製。そして脂がのっているけれどクセのないお刺身。
商品はすべて自社の加工場で一つ一つ手作業で行っています。
「大量生産はしておらず、人の手で作業することによる温かみを大事にしている」そうです。
信州サーモンは長野県水産試験場が10年かけて開発した長野県のブランド魚です。
海のイメージより山のイメージが強い長野県で、どういう経緯で開発をすることになったのか調べてみました。
長野県は魚と深い関係があるとわかりました。
海なし県、長野県で育まれているサケマス漁の歴史
長野県のサケ・マスに関する歴史をひも解いてみると、昭和15年ごろまで長野県安曇野市一帯の川にサケやマスが遡上(そじょう)していたことがわかりました。新潟市の河口から安曇野市まで、日本一長い信濃川の約285キロメートルという距離を、産卵のために自力でのぼってくるサケ。小さな体で自分で長い距離を泳ぐ姿を想像しただけで、その力強さに圧倒されます。
長野県ではとくに犀川(さいがわ)水系でのサケマス漁の歴史は古く、1000年以上前に伊勢神宮へマスを献上したという記録が残されています。
江戸時代から明治時代にかけて犀川近辺の住民たちは漁業で生活を営んでいました。
しかし明治から大正と時代が進むに連れ、河川にダムができるなどして近代化が進み、天然の魚の居場所は減っていきました。そこで、なんとか人々の生活を潤す事業を行おうとはじまったのがマスの養殖だったのです。
長野県の信州サーモンは、ニジマスとブラウントラウトをバイオテクノロジー技術を用いて交配した一代限りの養殖品種なので、長野県のサケマス漁の歴史の積み上げによってできた魚といえます。
今回の取材で、筆者は海のない県だからこそ魚にこだわる長野県の様々なことがよくわかり、すっかり長野県のファンになりました。
岩魚郷の信州サーモンやイワナの一夜干しを取り寄せて、信州に思いを馳せてみませんか。