陰陽師・安倍晴明が防いだ大火事の逸話!?|伝・安倍晴明塔【福岡県八女市】

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画像:東京国立博物館「研究情報アーカイブズ」安倍晴明像より引用 https://webarchives.tnm.jp/

陰陽師・安倍晴明は映画・小説・漫画などで、式神を使役し、術や護符を使い、平安京の貴族や人々を悪霊・魑魅魍魎(ちみもうりょう)から救ったといわれている。

私も2001年公開の映画『陰陽師』(主演:野村萬斎)を観て、安倍晴明の活躍を知ったのが始まりだ。最近は少年ジャンプ掲載の『呪術廻戦』(作:芥見下々)に影響を受け、呪術の世界観にも興味を持った。

また、『遠野物語』(作:柳田国男)にも触発され、岩手県遠野市に行く。遠野市立博物館で開催された「遠野物語と異界」を観て、遠野の人々の生活の中にも呪い(まじない)は現世においても確かに存在していることを知った。

実際の陰陽師とは、陰陽寮に所属し今の国家公務員のようなもので、暦や星の動きをみて占い、帝や貴族たちに伝えるのが役目とされている。例えば、出かけるにはどの方角がいいのか、今日は出かけるのを控えたらいいのか、ということを占っていた。

秋葉原の書店で本を何気なく探していたところ、『陰陽師とは何者かーうらない、まじない、こよみをつくるー国立歴史民俗博物館編(2024年令和6年3月20日第4刷)』という本に出会った。

国立歴史民俗博物館 企画展示図録2023 年度「陰陽師とは何か-うらない、まじない、こよみをつくる」より 表紙画像(掲載許諾済み)

家に帰ってパラパラと眺めていると、日本全国の安倍晴明に関する史跡がどこにあるかが載っているページ(P190 表71 全国安倍晴明伝説一覧表)があった。なんと、福岡県八女市黒木町にあるじゃないか!

「伝・安倍晴明塔」

これはもう行くしかないと思い、現地で「伝・安倍晴明塔」の調査に向かった。

まるで秘境!ここって歩けるの?

福岡県八女市黒木町北木屋に「伝・安倍晴明塔」があるという。

Googleマップを頼りに進むと、看板があった。どうやらここから200メートルのところらしい。細い道を入っていくと木々に隠れるように、山の中への道がある。

本当にここだろうかと思いながらも進んでいく。やや舗装された道があり、どうやらここを進んでいくらしい。そして、分かれ道のところの木の根本あたりに何やら白いものが見える。

本当に「伝・安倍晴明塔」はあるんだ!という期待が膨らむ。よくみると、看板があるものの、草木に埋もれそうになっているし、字もかすれていた。矢印の指す方向に歩けば良いのだなと見た瞬間……

ここって進めるの? 
獣道じゃないよね?

道幅はかなり狭く、車は絶対に無理。歩くのもすれ違うのもやっと。しかも倒竹や倒木が上から迫ってきているし、道には落ち葉が積もっている。

まるで、安倍晴明の特殊な結界や術で阻まれているような気にもなる。勇気を出して進むことにする。

よく見ると足元は舗装されたような跡もあるし、斜面側の岩も頑丈そうでしっかりしている。

登った先は明るいので、さらに上を目指して登ってみます。

途中には岩が苔むしています。足を滑らせないように、用心して進んでいきます。もうすぐ頂上に到着するかなという時に、岩かげに何やら塔のようなものがありました。

これが伝・安倍晴明塔なのでしょうか? 近くでよくみてみると、星のようなマークがついていました。

五芒星(ごぼうせい)は陰陽道において、陰陽五行思想を表します。五行とは、「木・火・土・金・水」の要素を表しています。魔除けの呪符などにも用いられる形です。

その形がキキョウの花に似ていることから、「晴明桔梗」とも呼ばれ、安倍晴明を祀った「晴明神社」では神紋として一の鳥居に掲げられています。

そうした背景からもこれが安倍晴明に関する「何か」ということが分かりました。

さあ、もう少し先を目指していきましょう。

岩も無造作に置かれているのではなく、積み重ねて配置したような印象を受けます。

ようやく頂上付近までやってきました。ポールのようなものが左右に立っており、奥には何やら看板が設置してあるようです。ここから先は何やら聖域のような雰囲気もしてきました。

足元には石を積み上げた階段がありました。人の手が加えられている証です。

市指定有形民俗文化財としての「伝・安倍晴明塔」

看板は「伝・安倍晴明塔」を文化財として示す説明版でした。文化財に指定されたのは、昭和57年3月31日です。この看板は八女市教育委員会が平成25年3月に設置したもので、「石造宝筐印塔」(いしづくりほうきょういんとう)とも。
https://www.city.yame.fukuoka.jp/material/files/group/32/siteiitiran.pdf
参考:【八女市】指定文化財等一覧

他にも色々な指定文化財があり、訪ねてみるのも歴史ロマンがあって楽しそうです。
先日訪れた「黒木の大藤」もここに指定されています。
樹齢630余年の大藤が今年も咲いた【福岡県八女市】

「伝・安倍晴明塔」は「火除け」「五穀」の神として信仰が厚く毎年社日を設けているそうです。先ほど道の両脇にあったポールのようなところに「安倍晴明」の幟(のぼり)を石段の左右に立てて、塔前に供物を捧げ、火除けと五穀豊穣をお祈りしているそうです。

そしてようやく「伝・安倍晴明塔」に対面できました。木が寄り添うようにその塔を温かく見守っていました。なんとも言えない雰囲気で、風がそよぎ木々や葉が擦れる音すらも、神聖な音楽のように聞こえてきました。

苔が塔全体にはりつき、それだけ時間が経過していることがうかがえます。今もなお、人々が訪れている様子です。晴明保存会の方々でしょうか、お金やさまざまなものが供えられています。

食器(?)や徳利(?)が供えられています。

さらに先があって、切り開かれているみたいなのですが、迷い込んだら出られなそうな雰囲気もあいまって、引き返すことにしました。

さて、看板を再度読みながらいろいろ気になったことがあったので、八女市教育委員会に電話で聞いてみることにしました。

◉社日とはいつのことなのか?
◉火除けを祈ったとあるが、どういう経緯でそうなったのか?

お話いただいたのは、八女市教育委員会文化振興課文化財係の江頭(えがしら)さんです。

社日がいつのことかは分からないので、いろいろ調べていただき、町指定文化財に指定された当時の資料掲載許可をいただきました。以下資料の転載をいたします。

「 現状(昭和57年当時)塔は水上山の山頂にあり、南北朝時代の正規型宝篋印塔である。「火除け」「五穀」の神として信仰が厚く、毎年3月22日を社日とする。当日は「安倍晴明」の幟を石段の左右に立て、塔前に供物を捧げ、火除けと五穀豊穣を祈る。法量 総高73.3㎝(ただし、第一基台は自然石のため総高より除く)。本塔の第一基礎は、二段階を持ち16㎝、上に方形の塔身をのせる。11.8㎝。下2段、上5段、露盤までの高さ14.5㎝。相輪は、他のものをセメントで付け足したようである。
由来
むかし、安部(倍)の晴明さんというえらい人が修行のため全国を廻っていられたとき、中木屋にこられ山すその農家に泊まられた。そのとき、下木屋に火事があり大火事となった。火の勢いはすさまじく、今にも中木屋にうつろうとした。そのとき、安部(倍)の晴明さんは「水の護符」をもっていそぎ、裏山の水上山に登り「水の符」を地中に埋め、鎮火を祈られた。そのとき庄屋さんが、お礼にと水の護符の上に塔を建て、神として祀られた。明治初年、お堂を建てる計画があったが、水の符であるため天水の下がいいとして造らなかった。」
*()内は筆者補足

つまり、安倍晴明が、修行中に立ち寄り下木家の農家に泊まっていた。やがて火事が発生し大火事となったので、安倍晴明は「水の護符」を持って水上山に登り、「水の符」を地中に埋めて鎮火を祈った。すると大火事は鎮火したという逸話が残り、この塔が建てられたということです。

安倍晴明ゆかりの地は他にも

安倍晴明は京都周辺で活躍していたものとばかり思っていました。全国を修行のために行脚し、八女市黒木にきていたかも、と思うと驚くばかりです。

全国的には「晴明塚」や、安倍晴明ゆかりの井戸「晴明井」もあるそうです。探してみて訪れて安倍晴明に思いをはせる。歴史ロマンを感じる醍醐味かと思います。

*写真は全て筆者撮影(一部、引用)

情報

「伝・安倍晴明塔」
住所:福岡県八女市黒木町北木屋1567

久田一彰

久田一彰

福岡県福岡市出身。
取材を通じて、そこにあるヒト・モノの魅力・ストーリーをお伝えします。

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